執筆者:弁護士 堀田明希
1 生成AIがタレントを生み出す
2023 年10 月、株式会社パルコが展開した「PARCOHappy Holidays」の広告が大きな話題を呼びました。同広告では、金髪の女性二人が画面中央に立ち、花をモチーフにしたドレスを着ているのですが、この女性は実在せずすべて生成AI に指示(プロンプト)を入力することで制作されたものでした。生成AI によって「タレント」を生み出せれば、出演料もかかりませんし、自由に広告を制作することができます。
いいことばかりに思えますが、生成AI によって生み出した「タレント」を広告に利用する場合、何か気を付けることはないのでしょうか。もっとも留意すべきはパブリシティ権侵害の問題です。
2 パブリシティ権
パブリシティ権とは、人の氏名や肖像等が、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利です(最判平成24 年2 月2 日・民集66 巻2 号89 頁〔ピンク・レディー無断写真掲載事件・上告審〕)。有名人の氏名や肖像の商業的価値を保護するための権利、「人の氏名や肖像等が、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合」に認められる権利となりますので、一般の方にパブリシティ権は認められません。
3 生成AIとパブリシティ権
生成AI に話を戻します。生成AI から出力された「タレント」が著名なモデルに酷似していればパブリシティ権を侵害するのでしょうか。
まず、生成AI から生み出された「タレント」が著名モデルに似ているとしても、それは著名モデルそのものではなくパブリシティ権侵害の問題は生じないように思われます。ですが、同定可能性、つまり実質的な同一性が認められる場合には肖像等を利用していると理解されていますので、「タレント」が著名モデルに類似している場合にはパブリシティ権侵害の問題が生じえます。
次に、どのような場合にパブリシティ権となるでしょうか。ピンク・レディー無断写真掲載事件では、他人の「肖像等を無断で使用する行為は①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」と判断しています。この判例に従えば、著名モデルに類似した「タレント」を広告に利用することは権利侵害にあたる可能性が高いです。
では、たまたま「タレント」が著名モデルに似てしまった場合はどうでしょうか。たまたま「タレント」が著名モデルに似てしまったので広告に利用したのであれば、結論は変わりません。著名モデルに似ていることを利用し、つまり「肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」にはパブリシティ権侵害の問題になります。
4 権利侵害を回避する為には
「タレント」に似ている人物が存在しないか調査、存在しないことを確認して利用することが一番です。ですが、誰もが知っている超有名人でない限り見落としは出てきます。
調査に加え、著名なモデルに似たタレントを生成させるような指示をしないこと、特定の人物を生成するAI は利用しないこと、広告会社等に制作させる場合には権利侵害していないことを保証させる契約を締結することが肝要です。
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