• 明倫国際法律事務所

コラム

COLUMN

奈良市が古墳から出土の盾形銅鏡を商標登録

知的財産

2024.09.11

執筆者:弁護士 吉田幸祐

1 奈良市の商標登録

 奈良市は、日本最大の円墳「富雄丸山古墳」で出土した「(だ)(りゅう)(もん)盾形(たてがた)銅鏡(どうきょう)」の文様(図形)を奈良市が商標登録しました。指定商品は、19の区分に及んでいます(以下、「本商標」といいます。)。

 これにより、奈良市は本商標の使用する権利を占有することとなり(商標法第25条本文)、指定商品について排他的・独占的権利を得たこととなります。

 さっそく奈良市では、「奈良市富雄丸山古墳出土鼉龍文盾形銅鏡の登録商標の使用に関する要綱」を定め、本商標の使用については許可申請をさせた上で使用料支払うよう求めています[1]

2 商標使用について

 この点、熊本県の大人気PRマスコットキャラクターである「くまモン」も、その著作権や商標権を熊本県が持っていますが、商標やキャラクターの使用料は求めず、使用目的が熊本のPRに繋がるかどうかという簡易審査のみでくまモンの無償使用を認めています。普通に考えれば、今回の奈良市のように使用料を定めて使用料を徴収した方が、県の財政も潤うように思いますが、どうして熊本県は「くまモン」の無償使用を認めているのでしょうか。

3 熊本県の戦略

 その理由は、熊本県の戦略にあります。

 まずは認知度の拡大です。使用料を無料にし、簡易な審査で使えるようにしたことにより、キャラクター知名度が低い頃から気軽に使ってみようという企業が現れ、実際に売り上げが上がる事例も多数生まれたといいます[2]

 そして、くまモンの付いた製品等が多数売れることで熊本県は宣伝費をかけずに全国的に熊本県を宣伝することができ、結果的に全体の市場は拡大することになります。使用料は得られずとも、県にとってのメリットは非常に大きなものとなります。

 次に、印象の定着です。くまモンの使用にあたって、県からの要求は「熊本の宣伝になるかどうか」という一点のみになっています。この結果、くまモンを使用したい各事業者が、熊本のブランド向上という共通の目標に向かって考えてくれることに繋がります。

 また、このような縛りを設けることで、自然とくまモンの使用にあたっては熊本県が関連することとなり、くまモンといえば熊本県という印象を強く消費者に与えることができる訳です。

 一般的に、このように外部に積極的に自社の知的財産権を使用させる知財戦略をオープン化戦略といいます。

4 まとめ

 上記のように、今回の奈良市による本商標の活用方法は、熊本県におけるくまモンのオープン化戦略とはある種真逆の戦略となっています(有償であれ、他者が知的財産権を使用することを認めているため、広義にはオープン化戦略を採っているとも解釈できますが、本稿では有償か無償かで区別をしています。)。

 このような奈良市の方針は、場合によっては将来的な市場や広告宣伝の場を狭めてしまう可能性も否定できません。実際に、熊本県におけるくまモンのオープン化戦略は、大成功を収めたと言えるでしょう。

 もちろんオープン化戦略を採るか否かはケースバイケースですので、今後の本商標の活躍に期待したいと思います。

 読者の皆様におかれましても、自社の知的財産権をどのように活用するか、今回紹介した事例を基にご検討いただければ幸いです。


[1] https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/182327.pdf

 https://www.city.nara.lg.jp/site/bunkazai/213525.html

[2] https://mag.sendenkaigi.com/hansoku/201310/kumamon-promotion/000453.php

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

お問い合わせ・法律相談の
ご予約はこちら

お問い合わせ・ご相談フォーム矢印

お電話のお問い合わせも受け付けております。

一覧に戻る

ページの先頭へ戻る