執筆者:弁護士・弁理士 原 慎一郎
2021 年5 月26 日、著作権法の一部を改正する法律案が可決され、①国立国会図書館に所蔵された一般には入手困難な資料のウェブ閲覧と、②入手可能な図書館資料についてのメール・FAX による受信が可能になります。
学者、リサーチャー、デザイナーなど普段から図書館資料を利用する機会の多い方々にとってはもちろん、私のような知財紛争を扱う弁護士にとっても、従来はある特許の有効性を確かめるためにわざわざ国立国会図書館まで行ってその出願前の公知文献を探し出しては複写サービスを利用してコピーを持ち帰るしかなかった状況が一変し、いつでもどこでも入手困難な古い資料等の情報にまで簡単にアクセスできるようになりました。
①国立国会図書館における絶版等資料のウェブ閲覧
現行制度でも、国立国会図書館は、デジタル化した絶版等資料のデータを公共図書館や大学図書館等に送信することは可能でした。しかし、利用者は、その図書館等まで赴いてその絶版等資料を閲覧しなければならず、例えば感染症対策等のために図書館が休館している場合や近隣に図書館が存在しない場合には、その閲覧も困難でした。
今回の改正によって、国立国会図書館は、絶版等資料のデータを事前登録した利用者(ID・パスワードで管理)に対して直接送信し、これによって利用者は、国立国会図書館のウェブサイト上で絶版等資料を閲覧できるようになります。利用者側は、自ら利用するために必要なプリントアウトや、非営利・無料等の要件の下でディスプレイなどを用いて公衆に提示することも可能となります。
なお、「絶版等資料」は、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料と定義されています。具体的には、紙の書籍が絶版で電子出版もされていないものや最初からごく小部数しか発行されていないもの等は絶版等資料に当たるのに対して、絶版でも電子出版されているものや単に値段が高く購入が困難なもの等は当たらないこととなります。
②一定の図書館等による図書館資料のメール・FAX 送信
現行制度においても、公共図書館等では、利用者の調査・研究の用に供するため、図書館資料の一部分(一般的には全体の半分までと理解されています。)を複製することが可能でしたが、今回の改正によって、権利者保護のための厳格な要件のもと、利用者は補償金を支払うことで図書館資料の一部分をメール・FAX で送ってもらえるようになります。
なお、メール送信されたデータ・ファイルの不正拡散等によって著作権者の利益が不当に害されることとならないよう、利用者には事前に氏名・連絡先等の登録が求められ、データの送信に当たっては技術的措置(コピーガードの付加や電子透かしによる利用者情報の付加など)がとられることとなります。
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