執筆者:弁護士 松浦駿
1. 創業者間契約とは
創業者間契約は、共同で新しい事業を始める創業者同士が取り交わす契約です。この契約には、各創業者の責任と権利・役割、意思決定プロセス、出資比率や資産の分配に関する経済的な事由の取決め、脱退する創業者に関する取決めが含まれます。
共同創業者は、「一緒に事業を始める仲間」という意識から、これらの取決めを明確に定めなかったり、ネットに転がっている雛形をそのまま使ってスタートすることも多いかと思います。
しかし、世の中に全く考え方が同じ人などいないように、事業構想や実現したい社会的価値も多種多様であり、これらは将来にわたって変遷しつづけるものです。
契約と聞くと皆さんを縛るものというイメージがあるかもしれませんが、契約は皆さんの想いやビジョンを形にするものです。
そして、創業者間契約は、皆さんが運営する事業を守り、推し進めるための礎となる不可欠な取決めですので、必ず締結するよう心掛けていただく必要があります。以下では、創業者間契約において検討すべき重要なポイントをご説明します。
2. 役割と責任の明確化
創業者間契約では、各創業者の責任と役割を明確に定義することが重要です。たとえば、CEO、CTO、マーケティング担当など、各創業者の役職や責任範囲を具体的に記載することが求められます。これにより、各創業者が自身の役割を理解し、チーム内の役割分担や意思決定が円滑に進むようになります。
また、創業者(経営陣)の間で意見が割れた際に、誰が最終的な決定権限を有するか、又は主たる経営者に拒否権を設けるかといったことも検討の上、契約に規定しておくことで、経営陣の仲違いによる事業停滞リスクや一部経営陣の暴走リスクを低減することにつながります。
3. 経済的な取決め
(1)出資比率と出資金額
各創業者が事業に出資する場合、出資金額(出資比率)を定める必要があります。出資比率は、将来的な利益配分や意思決定権限に直結するため、適切な比率を確保する必要があります。間違っても「対等の立場だから半分ずつ」などという決定をしてはいけません。このような決定をしてしまっては、創業者が仲違いした場合にデッドロックと呼ばれる状態となり、事業の遂行が停滞するだけではなく、当該状態の解消も極めて困難となります。
また、具体的な金額についても、単に当面必要な資金を出し合うといった観点だけではなく、将来の成長戦略も踏まえた資本政策を立てた上で決定することが必要となります。
(2)資金調達
事業が順調に拡大していった際や、新たな技術開発を行う際に必ず付きまとうのが追加の資金調達です。
追加の資金調達は、会社の価値、支配権の帰趨を大きく左右しますので、調達金額や発行株式数、出資者を誰とするかを検討する必要があります。そして、追加の資金調達を行う頃には、創業者間契約の締結後一定期間事業を遂行していることから、この間に創業者間で意見が異なるようになっていることも少なくありません。
そのため、仮に、創業者間で意見が異なったとしても、会社にとって必要な資金調達を円滑に実施できるよう、創業者間契約において、新たに発行する株式の価格の算定方法や、優先引受権の設定、意見が割れた際の株式買取条項に関する規定の導入を検討することが必要となります。
4. 会社からの離脱
私たちが相談を受ける中で最も多く、また、解決が難しいものが創業者(株主)の一部が他の創業者と揉め、事業が運営できないといった事態です。会社法上株主の権利は強く保護を受けておりますので、何も決めていなければ、当該創業者の承諾なく会社から排除することは極めて困難です。また、各創業者は会社への思い入れが強いことも多いことから、一定の金額による株式買取りを提案してもこれを拒否することが少なくありません。
そのため、非情なように思えるかもしれませんが、創業者同士が行うことを決意した事業を守るため、主たる創業者がそれ以外の創業者の株式の買取りを請求できる権利を設定しておくことも検討いただくべきです。
5. おわりに
創業当時、本当に自分たちは絶対に揉めないと思っていたとしても、全く同じ考えの人などいませんし、人の気持ちは揺れ動くものです。そして、揉めてしまった後ではもはや手遅れであり、事業自体は順調に進んでいても、解散せざるを得なくなることが往々にしてあります。
本当に揉めなければ、当該規定を発動しなければいいだけです。
本当に揉めなければ、上記のような条項を規定することにデメリットはありません。
事業を共に始める仲間とは、創業した事業を守るため、個人的な関係が原因で会社が破綻しないようにするために、必ず適切な条文を規定した創業者間契約を締結するよう真摯に話し合ってください。
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