コラム

COLUMN

ビジネス保護と知的財産権

知的財産

2024.06.24

執筆者:弁護士 松浦駿

1.はじめに

 自社が開発した商品・サービスを第三者に模倣されず、半独占的に遂行できる状態を作出できれば競争優位性が高まります。

 本コラムをご覧いただいている皆様は、特許権や商標権といった知的財産権を活用することにより、かかる状態を作出できることはご存じかと思います。

 しかしながら、近時、依頼者の皆様から相談を受ける中で、様々な情報媒体から、知的財産権を取得する重要性自体はご理解され、また、実際に知的財産権も取得されている方がいらっしゃる一方、これらの知的財産権の取得方法・内容が誤っているために、競争優位性を獲得できていない(意味のない知的財産権となっている)事案を散見するようになりました。

 そこで、本コラムでは、自社の商品・サービスを保護し、事業成長へとつながる知的財産権をどのように取得することを検討すべきかを説明します。

2.商品・サービス保護と特許権

 画期的な商品・サービスを発明した際に、まず思い浮かべる知的財産権は特許権かと思います。特許権をごく簡単に説明すると、高度な技術を発明した者に対して、一定期間、独占的な実施を認める権利です。

 特許権を取得出来れば、当該発明を独占的に利用できることから強い競争優位性を構築できますので、あらゆる発明において特許権の取得の可否を検討すべきであり、実際に、特許権の取得を目指される方も多い印象です。

 もっとも、特許権を取得されている皆様は、出願に際して弁理士等にも依頼していることから、当該発明のコアとなる技術について特許権を取得することの重要性は意識されていますが、仮に第三者に真似されたときにこれを排除できるか、すなわち、第三者が特許権を侵害していると立証できるかといった観点が欠落している事案が頻繁に見られます。

 具体例としては、あるプログラムについて特許権を取得し、当該プログラムを用いたサービスをリリースしている際に、類似サービスが続々とリリースされることがあります。この際、仮に競合サービスが自社の特許権を侵害しているとしても、外部から把握できるのはあくまで当該ソフトウェアの使用感のみであり、どのようなプログラムが用いられているか(自社の特許権を侵害しているか)を把握することは極めて困難です。近時の法改正により査証制度が設けられたことにより、一定の解決が図られましたが、訴訟提起後しか同制度を利用することはできませんので、勝訴見込みを判断できない状況において、いわば運任せで訴訟提起するか否かの判断を迫られることになります。

 このような事態を避けるためには、機能に表見する技術を特許権の保護範囲とすることができないかを検討することにより、類似サービスを排除できないかといった視点が不可欠となります。

 また、プログラムに関する特許に限らず、製造方法に関する特許など、外部から一見して侵害性を判断できない特許については、実質的に技術を独占するため、外部から把握できる形で特許権を取得できないかといった観点を忘れずにご検討ください。

3.模倣品の防止と知的財産権

⑴ 商品展開を行う際に、商標を登録して、商品のブランド価値を高めるとともに、模倣品の流通を防ぐことの重要性はご理解いただいている方も多いと思います。
 実際にスターバックス社は、自社のブランド価値へのフリーライドを防ぐため、本コラム作成日時点において338個もの商標を登録しており(登録査定前のものを含む。)、自社のブランド価値の維持・構築を重要視していることがわかります。
 このように、あらゆる形態での模倣品を防ぐためには、実際に自社が使用している商標について、標準文字だけで商標登録を行うのではなく、文字やロゴの組み合わせを変えて商標登録を行うことを検討する必要があります。もちろん、多数の商標を登録しようとすれば、登録・維持に多額の費用を要することとなりますので、コアとなるブランド価値は何か、指定役務の種類をどこまで含むか、想定される模倣品、投入コストの多寡等を多角的に検討した上、自社の商品のブランド価値を構築・維持できるかを検討する必要があります。

⑵ また、多くの模倣品は、微妙に名称を変えて販売されることが多くなり、一見して明らかな場合を除き、訴訟で商標の侵害性を争う必要がありますので、販売行為の差止めに時間を要することとなり、実効性を欠くことがございます。
 こうした場合に役立つ権利が意匠権です。意匠権とは、工業製品のデザインを守る権利であり、商標の名称の同一性・類似性が明らかでない場合であっても、模倣品はそのデザインが同一又は類似であることが多いことから、同権利に基づき、販売の差止めや税関での輸入行為の差止めを行うことができることがあります。
 このように、商標権や意匠権を組み合わせて活用することにより、大きく実効性を高めることもできますので、どのようにブランド価値を守るかを適切に検討する必要があります。

4.まとめ

 SNS等で情報を得やすくなったことから、特許権や商標権を取得する必要性は広く認知されてきましたが、権利・ブランド保護の実効性の観点が欠落している結果、意味のない知的財産権となっている事案が多数見受けられます。

 自社が何を目指しているか、すなわち、単に商標や特許を取っていることをPRできればよいと考え、広告効果のみを狙うのか、又は実際に商品やサービスのブランド化を狙い、市場の独占による多大な収益獲得を目指すかによって、検討すべき事項は変わります。

 そして、後者の場合、すなわち、真に自社の商品・サービスのブランド価値を構築・維持することを目的とする場合、知的財産権の取得・維持に要するコスト、各知的財産権の有効性・実効性、取得すべき知的財産権の内容等を総合考慮した上、どのような知的財産権が自社のブランド価値の構築・維持に必要かつ有益な内容かを決定しなければなりません。

 かかる決定過程は、経営判断そのものであり、法務の知識のみではなく、経営戦略やブランディングといった多様な考慮要素を統合的に判断する必要がありますので、自社のビジネスを深く理解している専門家に相談すべきです。

 当事務所では、法律事務所として知的財産訴訟を含む訴訟は勿論、多くの顧問先の皆様より多種多様な経営に関する相談を受け付けているほか、知財出願業務も弁理士資格を有する弁護士が対応しております。

 既に模倣品に悩まされている方はもちろん、自社の取得している知的財産権で足りるか不安な方、新たな商品・サービスを展開するけど何から始めればいいかわからないといった皆様も、貴社の事業規模や目標に適合した、ちょうどいいサイズ感でのサービスをご提案しますので、お気軽に御相談いただけましたら幸いです。

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