• 明倫国際法律事務所

コラム

COLUMN

ネットの炎上/中傷対策

コンプライアンス・内部統制

2021.06.28

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

1. ネットの炎上や中傷

SNS などのツールが発達した現在においては、誰もが簡単に情報の発信者になることができます。一方で、不用意や不注意な発言に対して、ネット民からの容赦ない批判や追及が行われ、サイトやアカウントの閉鎖や、営業活動ができなくなる事態を招くことも少なくありません。

このような「炎上」を招く理由としては、いくつかあげられると思いますが、二つに大別することができます。

一つ目は、炎上した情報発信者に、一定の落度や不注意がある場合です。具体的には、以下のようなものがこれにあたります。

①自分の犯罪行為や不道徳な行為を自慢するような場合。

→ 未成年者飲酒や飲食店の厨房での不衛生な行為をわざと行って公開するようなものがこれにあたります。

②多くの人を不愉快にさせる発言をしてしまう場合

→ 政治や宗教、男女の役割、出産と子育など、個々人によって大きく価値観が異なる可能性があるテーマについて、一方的な視点から決めつけるような発言をすることがこれにあたります。

他人に対する誹謗中傷も、ここに含まれると言ってよいでしょう。

③情報漏洩や他人のプライバシーを公開してしまう場合

→ アルバイト先など仕事上で接したお客様の情報を公開したりする行為がこれにあたります。たまたま職場で撮影した写真をSNS にアップしたところ、写真の中に秘密情報が書かれた書類が写りこんでしまっていたといった事例もあります。

④嘘ややらせの情報を掲載してしまう場合

→ 自分の店や事業に対する良い評価や、一定の意見などをやらせで集めて掲載するといった行為に対しては、ネット民は、素早い情報収集でやらせの証拠を特定し、徹底的にこれを追及することがあります。

二つ目の類型は、情報発信者自身には何ら特別な落度や不注意はないのに、誤解や悪意によって、誹謗中傷される場合です。事実ではないのに、「店に行ったらラーメンにゴキブリが入っていた」とか、「あの病院に行って、投薬で死亡した人がいるらしい。」といった事実無根の書き込みをされるような場合がこれにあたります。このような場合、まことしやかな「事実」や、ねつ造された「写真」が使われることがあります。

2. ネットの炎上や中傷に対する基本的な対応策

上記のような事態に対しては、自分自身に落度や非がある場合は、素直にその部分は認めて謝罪することが重要です。その場合に、中途半端な謝罪や言い訳をすると、却って火に油を注ぐことになります。

一方で、自分に落ち度がないのに、事実無根の誹謗中傷をされるような場合には、状況を注視し、自然と収まるような状況であれば、終息を待つというのも、時として正しい対応となります。しかし、収まらない場合には、きちんと反論をすることが必要です。この場合でも、徒らに感情的になったり、相手を激しい言葉で非難したりするのではなく、冷静かつ丁寧に、証拠や根拠を示して、相手の書き込みが事実ではないことをきちんと説明するという姿勢が必要です。そうすれば、「火に油を注ぐ」ことがなく、波及もせず、自然と鎮火していくことが期待できます。

しかし、まれに、執拗な誹謗中傷を繰り返し、執念深く攻撃を繰り返すような事例も見受けられます。このような場合には、最終的な手段として、法的対応を考える必要があります。

3. 法的対応

悪質かつ執拗な誹謗中傷に対しては、名誉棄損罪、信用毀損罪、業務妨害罪として刑事告訴を検討する他、差止請求や損害賠償請求などの民事的な対応も行う必要があります。特に、単なる侮辱(例えば、「バカ」とか「味がまずい」といった「評価」を述べるもの)にとどまらず、「具体的な事実」を述べて誹謗中傷する場合には、これらの法的対応が奏功する可能性が高くなります。具体的には、「○○の肉は、ネズミの肉を使っている」といった類のものです。これ以外にも、「殺してやる」とか「火をつけてやる」といった脅迫的な文言が入っている場合には、法的対応を取りやすくなります。

このような法的対応を取る場合に、最もネックになるのが、発信者を特定することです。匿名でなされる書き込みの行為者をどうやって特定するかという問題です。

この点については、「発信者情報開示」手続などの法的対応により発信者を特定することが可能ですが、時間が経つと、プロバイダなどに保存されている情報が消去されてしまいます。法的対応を取ると決めたら、一刻も早く弁護士に相談して対応する必要があります。

(2017年1月執筆)

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