近年、日本企業の海外進出や海外企業の日本進出に伴い、日本企業と海外企業との間で契約を交わす機会が多くなっていますが、以下では海外企業と契約を締結する際に気をつけるべき点についてお話しします。
まず、契約を結ぶ際には、契約の相手方の主体や資格、資産状況を十分に調査する必要があります。取引相手の主体資格に問題がある場合(例えば、契約締結交渉をしていた人が実際には相手方企業の代表権を有していなかった場合)には契約自体が無効になりかねませんし、相手方に資産がなければいくら契約を結んだところで全く履行が期待できないからです。
次に契約をしてもそれが有効か否か、という視点が重要となります。例えば、中国では「法律及び行政法規において許可、登記等の手続きを経なければならないと規定されている場合は、その規定にしたがう。」(契約法44条)とされており、合弁契約等、政府の許可や登記が契約の有効要件となっているケースが多いことはよく知られています。つまり、契約が締結されても許可や登記等がなされていない場合には契約の有効性に問題が生じ、結局契約による保護を期待できないということになります。
契約書では、当事者、住所、契約の目的物、価格、品質基準、履行地、履行期間、違約責任等を明確にすべきであり、この点は国内当事者間の契約以上に注意しなければなりません。商慣習が異なる国の企業と取引する場合には、契約内容が曖昧だったり、明確な規定がなされていないと、一見自分に有利だと思われるケースでも解釈の違いにより法律的な保護を受けかねる場合があるからです。
海外企業と契約を結ぶ際には、両国の言語で契約書を作成するのが一般的であり、翻訳上の問題にも注意する必要があります。契約書の言語は非常に厳密であり、かつお互いの国の法規制が異なることから、正確に同一の意味を有していることを担保するためには、言語の知識ではなく専門的な法知識を有していることが必要です。少しの間違いでも深刻な結果となりかねません。
最後に、契約を締結する際には、双方の商慣習の違いによって、些細なことで紛争になったり、仲違いする可能性があります。
この場合、紛争を解決するための規範となる準拠法の明示(トラブルになった場合には、どの国の法規範に従うか、といった条項)が必要となります。
紛争解決機関の選択、簡単にいうと裁判にするか仲裁にするかという選択も必要です。
海外企業と紛争になり日本国内で同企業を相手方として裁判を行い判決を得たとしても、相手方企業の国にある財産に対して強制執行ができるかどうかは別途問題となります。ちなみに、アジア域内では日本の裁判の判決の強制執行が保障されていないケースがほとんどです。また、海外で裁判を起こしたとしても、司法の独立が日本のように制度的に保証されていないケースが多く、裁判所の判断が中立とはいえない可能性が出てきます。
仲裁とは、当事者が第三者(仲裁人)による紛争の解決に服することを合意し、これに基づいて進められる紛争解決手続きといいます。企業間の取引の紛争を解決する国際商事仲裁に関しては、その判断による強制執行が認められており、さらに中立性や公平性も高いと言えるため、紛争解決方法としては仲裁を指定するのが一般的です。
以上、海外企業と契約を締結する際に注意すべき点を概観しましたが、現実に契約を締結する場合には個別に問題が生じることが多く、より具体的なリーガルチェックを行う必要があります。
当事務所では、このようなサービスを提供することができ、必要に応じて海外のリーガルネットワークを利用し海外の専門家とも提携して業務を進めることも可能です。
ご興味がある方は、ぜひご相談ください。
(2013年7月執筆)
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