執筆者:弁護士 原智輝
ベトナムでの勤務を開始して間もなく3年目を迎えようとしています。この数年間を通じて、ベトナムの労務関係で現地駐在員さんが困る典型例が見えてきました。純粋に法律的な労務だけではありませんが、独自の基準で3選を紹介します。
●「そのお金って何のお金?」ベトナムで賄賂が横行しているのは本当か?
まずはベトナム賄賂と労務に関するお話です。ベトナムは世界腐敗度ランキングで106位に位置しており、汚職と贈賄のリスクが指摘されています。106位と言いますと、「公安(警察)に賄賂を渡した。」「お金を払って罰則を見逃してもらった」とベトナム人に言っても、「おぉーそうなんですね。(苦笑)」と流されるレベルです。日本では報道ものですが、ベトナムではさほど珍しくありません。原因としては公務員の収入が低すぎる点などが指摘できるでしょう。
さて、労務との関係ですが、この賄賂、ベトナムと言えど「手数料」「指導料」「サービス料」などと流石に直接的な表現は避けられます。そのため、知らずに賄賂を渡したということが起きるのです。詳細は割愛しますが、厳しい見方をすれば、駐在員の指示によって贈賄行為がなされたと評価され得るところです。知らぬ間に贈賄行為に加担していたという怖さがあります。さらに、贈賄行為を罰するのはベトナムだけでなく、日本の不正競争防止法も関係している点も悩みの種となっています。
●「なんとルーズなベトナム人」日本の感覚を理解してくれない理由
次には、仕事に対する感覚の違いです。例えば、9時出社、10件の商談を経て6時に退社という企業があったとします。このとき、ベトナム人が9時半に出社、11件の商談を経て、5時に退社をした時、上長としてどのように評価すべきでしょうか?おそらく、「11件こなしたことは褒めるが、9時半出社と5時退社は勤務規則違反だから是正するように」となるでしょう。
ところが、ベトナム人からすれば、ノルマ以上の11件こなしたのだから、時間は問題ではないでしょう?と思います。プライドも相まって、叱られる理由はさらさらないと思うのです。最終的には、日本人は時間にうるさすぎるという反論で終わってしまうのがパターンではないでしょうか。近時、日本でも成果型賃金制導入が話題となっていますが、ベトナムでの活用も検討できそうです。知らぬ間に日本の常識を押し付けていた例とも言えます。
●ベトナムで青天井に給与が上がる正体
最後は、ベトナムの投資環境に絡んだ労務問題です。毎年(もっと短いスパンの場合もありますが)、「給与を上げてください」と言われるのがベトナム駐在員です。ベトナムの経済成長率は年約6%、国全体が急速に発展する中、自身の給与が発展しないというのは耐えられないのです。また、近年の外資系投資の増大を受けて、多くの外資企業が人材獲得に動き出し、募集水準が上昇する傾向にあります。
小規模の企業の場合、給与体系が代表者裁量に委ねられている部分が少なくありません。この時、「去年は5%の昇給だった、今年も5%(あるいは、去年より頑張ったから6%)上げてくれ(でなきゃ辞める)」という交渉に対応するのは骨が折れます。社内規程の整備として給与テーブルや昇給条件を明確化するのはこの負担を防ぐ意味でも日本以上に価値のある労務対策と言えるでしょう。
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