コラム

COLUMN

ベトナムにおける知的財産権に関する法令の概要 [前編]

国際ビジネス

2021.08.04

1.ベトナム知的財産法制度について

ベトナムでの知的財産法(36/2009/QH12)(以下、「法」といいます。)は、ドイモイ政策実施後、WTO加盟などもあり整備が進んできています。このようなベトナム知的財産法整備の背景にある、ベトナムが加盟する主要な条約は、ベルヌ条約、パリ条約、TRIPS協定、マドリッド協定、特許協定条約、ハーグ協定などで、近時著作権に関して新たにWCTやWPPTに加盟することが見込まれています。法令面においては、知的財産法として工業所有権(発明、商標、工業意匠、回路配置利用権、実用新案、地理的表示、商号及び営業秘密などが保護の対象とされています。)、著作権、植物品種権の3分野が一つの法令に集約されており、細部を定める政令として、工業所有権につき22/2018/NĐ-CP及び政令99/2013/NĐ-CP、著作権関係については22/2018/NĐ-CPなどが挙げられます。その他、通達として01/2007/TT-BKHCNが関連しています。

2.工業所有権

(1)特許発明

特許として保護される発明には、新規性、進歩性そして産業利用可能性が求められています(法58条1項)。保護期間の起算点は特許登録日であり、保護期間は出願日から20年です(法93条2項)。更新等を行うことはできません。  新規性については、特許出願前等に使用、書面又は口頭などの方法により公然開示がなされていないことが条件となっています(法60条1項)。新規性喪失の例外が2つあり、まず、秘密保持義務を伴う限定された範囲に知られている場合には、新規性が保たれることが条文上明記されています(同条2項)。また、公開時から6か月以内に出願することを条件に、博覧会や学術研究などの科学的な場を借りての開示、無権利者の無断開示の場合にも、直ちには新規性を失わないこととされています(同条3項)。

進歩性については、特許出願前等に既に開示されている課題解決技術に照らし、出願者の当該技術が容易に想到できないことが条件となっています(法61条)。もう少し踏み込んだ進歩性についての判断は、科学技術省の通達(01/2007/TT-BKHCN第25.6の項目)などが参考となり、出願にあたっての開示技術の要件や容易想到性を判断するにあたり、当該技術分野に属する通常人を容易想到性の判断基準とすることなどが触れられています。

登録手続は下図【工業所有権審査に関する一覧図】のとおりですが、特許及び実用新案においては、特許等申請に対する形式審査を経たのち、実体審査請求を行い特許等が付与される構造となっています。実体審査請求が必要な点が、他の実体審査を伴う知的財産権と異なります。

(2)実用新案

実用新案として保護される発明には、特許と異なり進歩性が求められていません(法58条2項)。これは要件上の問題であり、進歩性がないため実用新案が選択されるものではなく、高い進歩性があっても各種手続やコストの関係で実用新案が選択される場合もあることに注意が必要です。実用新案における新規性や産業利用性については、特許と同様の考え方になります。

実用新案における審査手続も特許と同様となっていますが、特許との違いは、実体審査請求が可能な期間が36か月とやや短縮されている点です(法113条)。また、保護は実用新案登録日から及びますが、保護期間の満了は実用新案出願時から10年となります(法93条3項)。

(3)工業意匠

工業意匠として保護される意匠には、新規性、非容易創作性そして産業利用性が求められています(法63条)。保護期間の起算点は登録日であり、登録出願時から5年とされています。更新は2度認められているため、最大で出願から15年の保護が及ぶことになります(法93条4項)。

新規性については、工業意匠出願前等にて、使用、書面による説明、その他開示されている他の工業意匠と著しく異なるかどうかが判断基準とされています(法65条1項)。また、他の工業意匠との差異部分が記憶に残りにくい特徴である場合や出願意匠自体が識別性に欠ける場合は登録ができない点にも注意が必要です(法65条2項)。そのほか、新規性喪失の例外等については特許と同様の定めが置かれています(法65条3項以下)。

非容易創作性についても特許類似の容易想到性の判断基準が規定されていますが(法66条)、既知デザインの単なる組み合わせ、周知された自然形、幾何学図形形状、既知製品の形状の模倣、他の分野の工業意匠を模倣した工業意匠(自動車を模倣した玩具等)などは科学技術省の通達により意匠として認めない方針(01/2007/TT-BKHCN号第35.8)とされています。

(4)回路配置利用権

回路配置利用権とは、いわゆるICやチップなどと呼ばれる半導体集積回路の利用権を指し(法4条14項)、独創性と商業的新規性により保護されます(法68条)。保護は登録日から及びますが、保護期間の満了は、出願日から10年、当該回路を実施権者又はライセンシーが国内外のいずれかで使用した日から10年、または当該回路創作の日から15年のいずれかのうち、最も早い時点となります(法93条5項)。

また手続については、形式審査において特に問題のない場合は他の特許や意匠などとの比較において実体審査を必要とせず(法114条2項)、回路利用権登録証明書が発行されます(法109条2項)。

(5)商標

商標として保護される標章は、立体図形又はその組合せを含み、1つ又は複数の色彩により表現された文字、語、絵柄、図形の形態により、可視性と識別可能性が求められています(法72条)。このため、前者の要件との関係で、動き商標や色彩のみからなる商標、音商標などは範囲に含まれない点に注意が必要です。保護は登録日から及びますが、保護期間の満了は出願日から10年です。更新は回数の制限がなく、1度の更新により10年の保護期間が与えられます(法93条6項)。

識別性については、科学技術省の通達(01/2007/TT-BKHCN号の第39.3)に定めがあり、簡単な図案や幾何学的図形、文字など、標識や符号などがある言語上における一般名称であって、広範かつ頻繁に使用され、一般的に知られているものをはじめとする諸ケースに該当する場合は認められないものとされています。

商標審査については、出願から形式審査が行われ、その後2か月以内に出願公開がなされます(法110条3項)。実体審査は公開日から9か月以内になされ、商標登録証明書の発行となります。実務運用上では概ね1年半から2年弱の期間が必要となる点に注意が必要です。

(6)商号

商号は、企業法(68/2014/QH13)39条により、既登録商号との重複又は混同や国家機関等の組織の固有名称の全部又は一部、歴史・伝統、文化をはじめとする公序良俗に反する用語又は記号の使用が禁じられておりますが、翻って、既登録商号は、重複又は混同を生じさせる後続商号から保護を受けています。

(7)地理的表示

地理的表示は、地理的表示を有する商品が当該地理的表示に対応する原産性と地理的表示に対応する品質等を備えていることで保護が及びます。登録日を起算として無期限で保護が及びます(法93条7項)。登録手続の流れは商標と基本的に同様であるものの、実体審査が6か月である点に違いがあります(法119条2項(d))。

(8)営業秘密

営業秘密として保護される情報は、非公知性、有用性、秘密管理性を備えた情報とされています(法84条)。審査手続を要さず、これら要件を満たす限りにおいて保護が及びます。

【工業所有権審査に関する一覧図】

(2020年5月)

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