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コラム

COLUMN

民事執行法改正について

一般企業法務等

2021.08.04

1 令和2年4月1日、改正民事執行法が施行されました。民事執行法は、確定判決等の債務名義を得た後、強制的に権利を実現する場面で適用される法律ですが、従前は、せっかく債務名義を得ても、債務者の不動産、預貯金等の財産の存否を把握することができず、結局債権の回収ができないということが往々にしてありました。そこで、令和元年5月10日、民事執行法が改正され、債権者の権利の実現を図る制度が新設されました。民事執行法の改正範囲は多岐にわたりますが、本稿では、大きく改正された新たな財産開示制度についてご紹介いたします。

2 改正前の民事執行法においても、一応、債務者の財産開示制度はありました。しかしながら、従前の財産開示制度は、債務者に対し、自己の資産の開示を求めるもので、虚偽開示等に対する制裁が弱い(30万円以下の過料)ことと相俟って、実効性が極めて低いとの指摘がなされており、実際にも、申立件数は年間1000件程度と低調に推移していました。なお、年間の訴訟新受件数は約15万件であり、いかに財産開示制度が利用されていないかをご理解いただけるかと思います。

3 そこで、財産開示制度の実効性を確保し、ひいては民事司法制度への信頼を確保するため、本改正により、債務者以外の第三者に対し、債務者の財産を開示するよう申立てを行うことができるようになりました。

具体的には、これまで、強制執行が困難であった、①預貯金、②社債・株式等、③給与債権、④不動産についても、強制執行の可能性が拓かれることになりました。以下では、それぞれの財産について、どのように強制執行の可能性が拓かれたのか解説いたします。

4 各財産の情報開示制度について

 ⑴ ①預貯金について、従前は、対象となる口座が開設された支店まで特定して強制執行の申立てを行う必要がありました。これに対し、新設された財産開示制度では、金融機関に対して、債務者名義の口座の有無、支店、預金額等の開示を求めることができるようになり、開示された情報をもとに強制執行ができるようになりました。そのため、これまでは支店が特定できずに強制執行の申立てができなかった預貯金からも債権の回収を図ることができるようになりました。

   ②社債や株式についても、証券振替機構や日本銀行といった振替機関や、銀行や証券会社等の口座管理機関に対して、振替社債等の銘柄及び金額又は数の開示を求めることができるようになりました。

 ⑵ また、請求権が養育費・婚姻費用請求権または人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権である場合には、市町村及び厚生年金の実施機関等に対し、給与の支払いをする者の存否、氏名又は名称、住所等の開示を求めることができるようになりました。これにより、これまで勤務先が把握できず、給与債権等の差押えが困難であった事例においても、③給与債権等の強制執行を行いやすくなりました。

⑶ さらに、改正民事執行法の公布日(令和元年5月10日)から2年以内には、登記所に対して、債務者が所有権等を有する不動産の所在、地番等の開示を求めることができるようになるため、これまではその存否や所在が分からず、強制執行が出来なかった不動産からも債権の回収を図りやすくなりました。

5 以上のとおり、これまで強制執行が困難であった財産に対しても強制執行の申し立てができるようになったことから、これまでは諦めてきた債権についても回収の可能性が拓かれるようになりました。

もっとも、手続や財産開示の要件は相変わらず複雑ですし、債権の回収可能性や、どの財産から回収を図るべきかは事案に応じて適時適切に判断する必要があります。皆様におかれましては、今後とも、お気軽に弊所にご相談いただけますと幸いです。

(2020年7月)

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