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ワクチンパスポートを用いたベトナム入国について(2021年10月15日現在)
現在ベトナムへの入国についてはワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)を用いることで入国時の集中隔離期間を短縮することができます。これにより、ベトナムへの渡航コスト削減や渡航スケジュールの短縮化を図ることができます。 ベトナムへの渡航手続について弁護士の原智輝が解説します。 ベトナムへの渡航方法と隔離について 現在のベトナム渡航については、大きく入国後の集中隔離、集中隔離終了後の自主隔離が時期に応じて設定されています。概ね集中隔離は2週間、自主隔離は1週間になります。ワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)を用いると、このうち集中隔離期間を短縮できるということになります。なお、集中隔離というのは予約した宿泊施設での隔離、自主隔離は自宅での隔離という意味になります。 また、現在の渡航制度は原則としてビジネス目的の渡航に限定されています。ビジネス目的の渡航というと、現地調査や駐在など様々な形態があるところですが、現行制度運用上、ビジネス目的による渡航であるかどうかは、通常、ワークパーミット(WP)を所持しているかどうかにより判断されています。ワークパーミットは労働許可証などとも表現されます。このWPはベトナム労働法にも規定があり、同法では、外国人に対するWPはベトナム人人材では対応できない労務について就業できる外国人人材に対して発行される旨の定めが置かれています。この規定は、国内労働市場を保護する目的から置かれており、いわゆる専門技術者としての外国人に対してWPが発行されることになります。 この裏返しとして次のような場合にはWPが取得できない等の関係から現行制度での入国は難しいということになります。 ・ベトナム現地法人で事務スタッフとして勤務予定の外国人(専門性等がないため) ・専門技術を有しているが、勤務先で当該専門技術とは無関係の業務に就く場合 逆に現在ベトナム渡航に適している方の例としては ・現地法人があり駐在/出向予定である方 が典型的です。 ベトナムへの渡航手続 ベトナム渡航手続は、上記WPをはじめとする各種申請書類を準備し申請することになります。申請後、概ね1か月から1か月半程度の期間で入国許可が発行されます。入国許可取得後は、渡航前にPCR検査を行うほか通常のベトナム渡航と大きく変わりません。現在では成田空港発の便となることが多いかと思われますが、国際空港カウンターで通常通りチェックインを行い、必要に応じて、申請書類の写しや直前のPCR検査結果の提示がある場合があります。チェックイン後は通常通り出国します。ベトナムに到着後、新規ビザが必要な方はアライバルビザを入国審査前に取得することができます。所定のフォームと手数料、顔写真が必要なだけで、特段負担のかかる手続ではありません。 入国手続後は集中隔離施設への移動となります。集中隔離施設と言っても事前に予約を行ったホテルになります。従前はこのホテル客室内で2~3週間の待機が必要でしたが、ワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)の提示を上記の入国申請手続時に提示しておけば現在これを1週間に短縮することができます。 ワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)の取得方法 ワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)の取得方法ですが、基本的には日本国内で2度ワクチンを接種した方は、厚労省のホームページ記載の海外渡航用のワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)の申請欄記載の手続に従って申請を行うことで取得が可能です。ただし、この接種証明書は日本国内で2度接種している方を対象としているため、第1回を外国(例えばベトナム)、第2回を日本としてしまっている場合、発行されないおそれがあるのでご注意ください。また、今後、3回接種が基本となった場合にも同様の危惧が予想されますので、接種国についてはどこか1か国に統一しておく必要があります。 なお、ベトナムで2度接種した場合にもワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)が発行されており、日本帰国前に2度目の接種を終え、再度ベトナムに入国する際にワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)を用いた集中隔離期間の短縮制度を利用することも可能です。
不動産コラム③ 弁護士が解説する 【失敗しないベトナム不動産投資】外国人(日本人)がベトナム住宅を購入、所有する際の法制度と仕組み
目次 はじめに ベトナム住宅の購入、所有をすることができる外国人の資格 外国の個人・組織のベトナム住宅所有に関する制限 2.1.外国の組織・個人が所有できる住宅の条件 2.2.住宅所有期間 3. ベトナム住宅を購入する際に必要となる法律・制度についての基礎知識 3.1 住宅所有のプロセス 3.2.ベトナムにおける住宅所有の際のその他の注意事項 終わりに はじめに 現行住宅法(法律No.65/2014/QH13)は、2014年11月25日に国会(第13期第8回会議)において承認されました。改正前の2005年住宅法(法律No.56/2005/QH11)と比較して、現行住宅法は大きく進歩したと評価されています。大きな改正内容の一つは、初めて、外国の組織・個人がベトナムにおいて住宅を所有できることが公式に認められたことです。 ベトナムに入国する外国人の増加に伴い(入国管理局の統計によると、2014年から2016年までの期間において、毎年のベトナムへの入国者数は800万人から1000万人の間で推移しています)、ベトナムでの外国人労働者の人数も2015年の83,500人から、2019年7月92,100人に増加しました。このような状況を踏まえ、以下のような目的で、外国人のベトナム住宅の所有権が、法律で認められました。 ⅰ.ベトナムで定職を持ち生活している個人・組織のための長期的な住まいの問題を解決すること ⅱ.ベトナムと外国の組織・個人との間の長期的かつ持続可能な関係を強化すること ⅲ.商業住宅の高級セグメントの市場を拡大すること ⅳ.投資リソースを誘導し、国家を発展させ、経済統合を推進すること(外資系企業のベトナム住宅開発を促進すること) 1.住宅の購入、所有をすることができる外国人の資格 ベトナム住宅法159条1項の規定によって住宅を所有することができる外国の組織・個人の資格は、以下のとおりとなります。 ⅰ.この法律及び関連法令の規定に従い、ベトナムにおいて、プロジェクトによる住宅の建築投資をする外国の組織・個人 ⅱ.ベトナムで活動している外資系企業、外国企業の支店・駐在員事務所、外国 投資基金・外国銀行の支店 ⅲ.ベトナムへ入国できる外国の個人 上記対象者(i)は、住宅建築プロジェクトへの投資という形を通じて、住宅を所有する形態です。 対象者(ii)は、ベトナムにおいてベトナム法に従い設立され活動している企業・組織(外国投資企業、支店、駐在員事務所、外国投資基金など)でなければなりません。これらの企業・組織は、ベトナムにおける活動許可を証明するため、投資登録証明書又は他の関連証明書(活動許可書、活動登録証明書等)を取得しなければなりません。また、この対象者は、自社の管理職・従業員のための居住を目的とするか、不動産事業を行うことを目的とする場合に限り、住宅を所有することができます。 対象者(iii)は、ベトナムへ入国する資格のある外国の個人です。ただし、法律規定に従い、外交・領事館の特権及び免税を受ける資格のある外国人は除かれます。外国の個人は、購入予定の住宅の所在地において、一時的又は恒久的な在留を登録する必要はありません。外国の個人がベトナムへ入国できる対象かどうかは、その個人の有効なパスポートにある入国証印シールを通じて表示されます。 2.外国の組織・個人のベトナム住宅所有に関する制限 2.1.外国の組織・個人が所有できる住宅の条件 ⅰ.住宅形態の条件 外国の組織・個人が所有できる住宅は商業住宅建築のプロジェクトによる共 同住宅及び/又は個別住宅でなければなりません。 ⅱ.地域の条件 外国の組織・個人が所有できるのは安寧・国防保障(国家安全保障)地域に所属しない地域です。 ⅲ.所有できる軒数の条件 住宅の形態所有できる軒数/率その他共同住宅 (混合使用目的の共同住宅を含みます)住宅の総軒数の30%を超えない数地区級行政単位に相当する人口のある地域において、販売・賃貸・購入のための住宅が複数ある場合、外国の組織・個人が所有できる数は、一軒の共同住宅の総軒数の30%を超えず、又は全ての共同住宅の30%以内に制限されます。個別住宅 (半戸建住宅、個別住宅、別荘を含みます)プロジェクトごとによる個別住宅の総軒数の10%を超えず、最大250軒を超えない数2500軒以下の一つのプロジェクトである場合には、外国の組織・個人が所有できる数は当該プロジェクトの個別住宅の総軒数の10%を超えない範囲となります。一つのプロジェクトが2500軒を超えるものである場合には、外国の組織・個人が所有できるものが最大250軒を超えないものです。 2.2.住宅所有期間 外国の個人の場合 外国の個人の住宅所有期間は、購入、買受特約付賃貸、受贈、相続の際の合意文書に基づいていますが、住宅所有権証明書の発行日から50年間を超えてはいけません。したがって、個人が不動産事業者からはじめて住宅を購入する場合、初回の所有期間は最大で50年間です。外国の個人が、他の外国の個人から住宅の譲渡を受ける場合、所有期間は住宅所有権証明書に記載された残りの期間となります。 上記の住宅所有期限切れの前に、所有者は延長する権利を有します。延長手続は、住宅所有期限の3ヶ月前から期限までに行わなければなりません。省級人民委員会は、所有者からの要請書を受けた時点から30日以内に、所有者の要請に応じて、住宅所有期間を一回延長することを検討し、書面で同意しますが、住宅所有権証明書に記載された住宅所有権の最初の期限から50年間を超えられません。つまり、延長期間を含め、最大100年間、所有することができます。 ベトナム人又は海外に滞在するベトナム人と結婚する外国の個人は、安定・長期的に住宅を所有し、ベトナム人と同じような住宅所有権を持つことができます。 外国の組織の場合 外国の組織の住宅所有期間は、購入、買受特約付賃貸、受贈、相続の際の合意に基づいていますが、その組織に発給された投資証明書に記載された期限(延長期間を含む)を超えてはいけない上、住宅所有期間は、組織の住宅所有権証明書の発行日から計算され、所有証明書において明確に記載されます。 上記の住宅所有期限切れの前に、所有者は延長する権利を有します。延長手続は、住宅所有期限の3ヶ月前から期限までに行わなければなりません。省級人民委員会は、所有者からの要請書を受け付けてから30日以内に、所有者の要請に応じて住宅所有期間を一回延長することを検討し、書面で同意しますが、住宅所有の延長期間が権限を有するベトナムの機関により発行された投資登録証明書に記載された活動期限を超えてはいけません。 住宅所有期限切れの場合の処理方法 住宅所有期限切れ(延長期間を含む)の前に、所有者は、ベトナムにおける住宅を所有する資格のある対象者に、住宅を売却又は贈与することができます。住宅所有期限を過ぎても、所有者が売却又は贈与しなかった場合、その住宅は国の所有物となります。 3.住宅を購入する際に必要となる法律・制度についての基礎知識 3.1 住宅所有のプロセス 上の図のステップでは、次のようにいくつかの問題に注意する必要があります。 ステップ1:外国の組織・個人は、自分で情報を確認できない場合、住宅建築プロジェクトの事業者又は不動産仲介会社に、その確認作業を依頼することができます。ただし、利害関係を有するなどの理由で、住宅建築プロジェクトの事業者又は不動産仲介会社の独立性と正確性について疑義がある場合には、独立の第三者である法律事務所や法務コンサルタント等に委託する方が望ましい場合があります。 ステップ2・ステップ3:通常、プロジェクト事業者との契約締結は、全ての住宅購入者に適用される定型の契約書に従ってなされます。しかし、住宅売買取引は大きな取引でもありますし、条件等についてはそれぞれ個別の設定が可能ですので、買い手となる外国の組織・個人としては、法律を遵守し、リスクを防ぎ、買手(外国の組織・個人)に有利な条件を確保するため、住宅建築プロジェクトの事業者との契約においては、弁護士又は法務コンサルタントに関与を依頼することが推奨されます。 ステップ4:このステップは、プロジェクトの事業者及び譲渡、贈与、相続した組織・個人が行います。 ステップ5:住宅所有者に証明書を発行するための手順と手続は、土地に関する法律の規定に従って行われます。住宅プロジェクトの事業者は、購入者のための証明書発行申請手続を行う責任があります。購入者が自主的に証明書発行申請手続を行う場合、事業者は購入者が各手続を行うために、売買の住宅に関する法的書類を提供しなければなりません。外国の組織・個人が自主的に証明書発行申請手続を行うことを選択する場合、専門の第三者にこの手続を委託することができます。 3.2.ベトナムにおける住宅所有の際のその他の注意事項 弊所明倫国際法律事務所は、ハノイとホーチミンに事務所を有し、ベトナム住宅を購入しようとする多くの日本人の方々に、様々なサポートを提供させていただいてきましたが、その中でも、以下のような点についてトラブルや誤解が多いため、特に注意を促したいと思います。 ベトナムでは、資本を調達するため、事業者が銀行に抵当権を設定する住宅建設プロジェクトが少なくありません。したがって、手付を交付する前に、外国人に対し、ベトナムにおいて住宅所有の条件を確認することに加え、住宅を譲渡する際にも、抵当権抹消の条件と手続を確認する必要があります(事業者が既に抵当手続を行った場合)。外国の組織・個人は、預金契約書及び住宅購入契約書に基づいて、預金及び住宅購入金額を事業者に送金しなければなりません。外国為替管理法律の規定により、外国の組織・個人は取引金額の出所を証明する必要があります。組織や個人が銀行を使わず取引をしたり、金額の出所を証明する根拠を提出できない場合、賃貸からの利益又は住宅譲渡で得た収入を、海外に移転することが困難になります。ベトナムにおける財産所有(住宅所有)は、ベトナムへの企業投資と同様ではありません。したがって、住宅を購入した後の外国の個人は、住宅を所有したことのみを根拠にしてビザやベトナムでの長期滞在資格を申請することができません。 終わりに 現在の住宅法の施行から5年以上が経過した今日、ベトナムにおいて住宅を所有する外国の組織・個人の数は大幅に増加しました。2015年7月から2020年7月までの5年間におけるホーチミン地域の最大手不動産企業17社(推定数によると約70~80%の市場シェアを占める)を対象とする統計によれば、外国の組織・個人に譲渡された一軒家やアパートの総軒数は12,335軒です(ホーチミン市の不動産協会(HoREA)が発表したデータより)。一方で、不動産専門家によれば、外国人による住宅取得数はいまだ少数にとどまり、最大でも市場取引の総件数の2%に過ぎないと予想されています。外国の組織・個人の購入率が低い原因の一つとして、住宅法が公布された初期の段階では、法的メカニズムが明確ではなく、国家機関、不動産事業者や住宅の買い手は不慣れな状況で取引を行う恐れがあることが挙げられました。現在は、法的問題がほぼ解決されたため、安心してベトナム住宅を取引することが可能だと考えられるため、今後、外国人による住宅の取引の活躍が期待できます。
べトナム労働法における懲戒処分
労働者に対する懲戒処分は、ベトナム労働法及び政令No.145/2020/NĐ-CP号に定められています。解雇をはじめとするベトナム労働法における懲戒処分は、日本の懲戒処分に比べてやや規制が緩やかであり、適法な懲戒処分の範囲が広いといえますが、具体的な定めについては日本と異なる点もあります。そこで、本稿では、ベトナム労働法に基づく、懲戒処分にあたって、知っておくべき事項・留意すべき事項などを概観します。 1.懲戒処分の種類 ベトナム労働法における懲戒処分の種類は、4つです。具体的には、i 戒告ii 6か月を超えない昇給期間の延長 iii 免職 iv 解雇が挙げられます(労働法124条)。ベトナム法では、解雇処分以外のii乃至ivの懲戒処分については、就業規則でそれらの懲戒処分を行う場合を柔軟に設計することができます。ただし、政令No.145/2020/NĐ-CP号69条2項g号が、「労働者の労働規律に違反する行為及び具体的な懲戒処分のやり方について詳細に定めるものとする。」と規定しているため、懲戒処分をどのような場合に行うことができるかについては、その規定から具体的な場合が判断できる程度に詳細に定める必要があります。 なお、解雇は、次の場合に適用できると法律で定められています。すなわち、①労働者が職場で窃盗・横領・賭博を行う、故意に基づく傷害、又は麻薬を使用する場合②労働者が、就業規則に規定されている使用者の営業機密・技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為、使用者の財産・利益に関して重大な損害を惹起する行為、若しくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為、又は職場でのセクシャルハラスメントを行う場合③昇給期間の延長又は免職の懲戒処分を受けた労働者が、懲戒処分が解消されない期間内に再犯をする場合(再犯とは、労働者が、労働法126条の規定に従った懲戒処分解消がなされていないにもかかわらず懲戒処分がなされた違反行為を再度行うことです。労働法126条によれば、引き続き労働規律違反がない場合、処分の日から戒告処分を受けた労働者は3か月後、昇給期間の延長の懲戒処分を受けた労働者は6か月後、免職の懲戒処分を受けた労働者は3年後に、当然に懲戒処分は解消されます。)④労働者が、正当な理由なく、30日間以内に合計5日間、又は365日以内に合計20日間仕事を放棄した場合です。日数計算には仕事放棄の初日を含みます。(自然災害・火災・権限を有する医療機関の確認がある自らの病気・親族の病気及び就業規則が規定するその他の場合については、正当な理由があると見なされます。)(労働法125条)。なお、これらの法定されている場合以外には、解雇処分を科すことができないと考えられています。 2.懲戒処分の手続 懲戒処分を行う際に、次の手続を遵守する必要があります。具体的には、a)使用者は労働者の過失の証明が義務付けられておりb)懲戒処分がなされる労働者が構成員である労働者代表組織が存在する場合にはその組織の参加が必須でありc)労働者の出席が必須であり、また自らを弁護し、弁護士又は労働者代表組織に弁護を依頼する権利を有しd)労働者が15歳未満である場合にその法定代理人の参加が必須でありe)懲戒処分は、労働者と使用者とのやり取りについて議事録が記載されなくてはならずf)一つの違反行為に対して複数の労働規律違反処分を適用することはできずg)一人の労働者が同時に複数の労働規律違反行為をした場合、最も重い違反行為に相当する最も高度な懲戒処分のみを適用する必要がある等です。(労働法112条1項乃至3項)。 具体的な手続については、違反時に労働者が労働規律の違反を犯したことを発見した場合、使用者は違反記録を作成し、労働者代表組織、15歳未満労働者の法定代理人に通知するものとされています。違反が発生した後に、使用者が労働規律の違反を発見した場合、使用者は労働者の過失を証明する証拠を収集しなければなりません。 懲戒処分に関する時効の範囲内で(労働法第123条によれば、懲戒処分の時効は、違反行為発生日から6か月です。他方で、違反行為が直接的に使用者の財政・財産・営業機密・技術機密の漏洩に関連する場合は、懲戒処分の時効は12か月です。)、使用者は次のように労働規律違反に対して懲戒処分を行う会議を開催する必要があります。 まず、使用者は、参加者に対して、労働規律を処理するための会議の実施日の少なくとも5営業日前までに、労働規律を処理するための会議の内容、時間、場所、労働者の氏名を通知する必要があります。そして、この通知は会議開催前に参加者に確実に届かなければ手続違反となります。つまり、政令145/2020/NĐ-CP号第70条2項a号によると、雇用者は、会議に参加しなければならない者が通知を受領できることを確保する責任を負うとされており、このことから、実際の通知方式を使用者が任意で定めることができるものの、労働者が通知を受領しなかったと主張するときには、使用者はそのことを反証する責任を負います。そのため、会議参加者に通知する際に、その受領を証明できる証拠(例えば、郵便の控え、メールのやり取り、参加者の返答の記録等が考えられます。)を保管することが重要になります。 次に、参加予定者は、使用者の通知を受け取った後、使用者に対して、会議への出席の有無を知らせる必要があります。参加者の1人が通知された時間と場所において会議に出席できない場合、労働者と使用者は会議の時間と場所について合意により変更ができますが、両者が合意に達することができない場合、使用者は会議の時間と場所を決定することができます。 懲戒処分会議の内容は、書面で記録されるだけでなく会議の終了前に承認され、さらに、参加者によって署名されなければなりません。議事録に署名しない参加者がいる場合、議事録作成者は、議事録にその人の氏名と署名しない理由を明確に記載する必要もあります。 最後に、懲戒処分権を有する者は、懲戒処分に関する決定を下し、それを会議参加者に送付する必要があるものとされています(政令No.145/2020/NĐ-CP号70条)。 なお、使用者は、違反が複雑であり、労働者が勤務を継続によりその違反の証明が困難になると認める場合には、労働者の業務を一時停止する権利を有しています。労働者の業務の一時停止は、労働者の加入する労働組織代表の意見を聴取しなければ、行うことができません。そして、業務の一時停止期間は原則として15日を超えることができないとされており、特別な事情を示すことにより90日まで延長することができますが、どのような場合が前記特別の事情にあたるかは明確ではありません。そして、業務の一時停止中、労働者は業務一時停止前の賃金の50%の前払いを受けることが可能です。業務の一時停止期間が満了すると、使用者は労働者に勤務を再開させなければならず、労働者が懲戒処分を受ける場合、その労働者は前払いを受けた賃金を返済しなくてもよいものとされていますが、労働者が懲戒処分を受けない場合、使用者は業務一時停止期間の賃金全額を支払う必要があります(労働法128条)。 3.懲戒処分の際に留意すべき点 懲戒処分を行う際に、留意すべき点は次の通りです。いずれも適法な懲戒処分を行うために重要となります。 ①病気・治療静養休暇中・使用者の同意を得た休暇中の労働者、逮捕・拘留中の労働者、上記の解雇処分理由①及び②に該当する違反行為について、捜査機関の結果及び結論を待っている労働者、妊娠している女性労働者、妊娠休暇中・12か月未満の子を養育する労働者に対して懲戒処分を行なってはいけないこと(労働法122条4項) ②精神病又は自らの行為認識可能性若しくは行為制御可能性がなくなるその他の病気に罹患中の労働者に対しても懲戒処分をしてはいけないこと(労働法122条5項) ③懲戒処分を行う際に、労働者の健康・名誉・生命・威信・人格の侵害が禁止されること(労働法127条1項) ④懲戒処分に代えて、罰金、減給を行ってはいけないこと(労働法127条2項) ⑤就業規則に規定されていない、締結した労働契約内に合意されていない、又は労働に関する法令が規定しない違反行為を行った労働者に対する懲戒処分を行なってはいけないこと(労働法127条3項) 4.懲戒処分に対する不服申立 懲戒処分や業務の一時停止処分がなされた労働者は、不服がある場合に、使用者や法令の規定に従った権限を有する機関に対して不服申立をする又は法令の規定による手順に従った労働争議解決を要求する権利を有しています(労働法131条)。この規定からすると、労働者は、まず使用者に不服申立をする必要があると解されており、労使で解決できない場合には、不服申立て解決権限を有する機関である、使用者がその会社の本拠を置くところの労働傷病兵社会署の労働監査部(Thanh tra lao động)に申立てをする必要があります(政令No.24/2018/NĐ-CP号15条)。 5.最後に 上記のように、懲戒処分に当たっては細かな手続的要件を満たす必要があります。使用者は、前記手続的要件を満たし、適法な懲戒処分を行うことで、事後の紛争を防止することが肝要となります。
不動産コラム② 弁護士が解説する 【外国人(日本人)投資家に対するベトナムでの不動産(土地、建物)投資事業に関する規制と準備】
目次 はじめに ベトナムでの外国人(日本人)投資家に対する不動産(土地、建物)事業に関する規制の概要と枠組み 1.1.土地の使用権の取得に関する条件(投資法、土地法に定める条件) 1.2.住宅の所有に関する条件(住宅法に定める条件) 1.3.不動産事業を行う場合の条件(不動産事業法に定める条件) 1.4.不動産事業の対象物 2.不動産サービス業に関する規制 2.1. 不動産仲介サービスに関する条件 2.2. 不動産取引所に関する条件 2.3. 不動産に関するコンサルティング 3.不動産管理事業に関する規制 終わりに はじめに 不動産投資及び不動産事業(以下、「不動産事業」といいます。)は、ベトナムがWTOに加盟した際のコミットメントには定められていませんが、ベトナムの法律により、外国人投資家の進出を認めています。したがって、ベトナムでの不動産事業に進出する際に、WTOコミットメントを確認する必要はなく、ベトナム国内の法令を確認すればよいということになります。不動産事業、不動産サービス事業は外国人投資家にとっては、条件付投資分野であるため、ベトナムの法律により若干の制限が課せられています。 不動産に関する投資活動や不動産の取引は、ベトナムにおいて初めての土地法(1993年)で基本的な枠組が整備されましたが、法の条項が少なく、かつ、詳細が不明な部分も多かったため、不動産事業を行う外国人投資家にとって、十分に参考となるものではありませんでした。そのため、当時の不動産への投資案件は極めてわずかであり、あったとしても様々な政治的な話し合いを背景とする案件ばかりでした。その後、土地法の改正(2003年、2013年)により、少しずつ制度の透明化や不明確であった点の明確化がなされてきています。もっとも、これらの法整備は、基本的には個別の不動産への投資、取引に関するものとなっています。一方で、不動産事業に関する制度は、2006年に初めて不動産事業法が制定され、不動産事業を行うための枠組や法規制の整備がなされました。その後、2014年に同法が大きく改正され、現在の制度となっています。 本記事では、日本人投資家(個人・法人)をはじめ外国人投資家に対する不動産事業、不動産サービス業に関する現行制度の概要や規制についてご説明したいと思います。 ベトナムでの外国人(日本人)投資家に対する不動産(土地、建物)事業に関する規制の概要と枠組み 不動産事業法で定義されている不動産事業活動は、次の4つの主要な活動グループに分けることができます。 (ⅰ)建築、購入、売却目的の不動産の取得又は譲渡 (ⅱ)不動産の賃貸、転貸、買受特約付賃貸 (ⅲ)不動産関連サービス(不動産仲介、不動産取引サービス、不動産コンサルティング) (ⅳ)不動産管理 上記の内、(i)及び(ii)の活動は、合わせて「不動産事業」といい、(iii)は、不動産サービス業で、最後の(iv)は、不動産管理業となります。 1.1.土地の使用権の取得に関する条件(投資法、土地法に定める条件) 外資系企業は、ベトナムでの土地使用権を容易に取得することはできません。基本的には、土地使用権だけを個別のプロジェクトと無関係に単独で取得することは認められていません。外資系企業がベトナムでの土地使用権を取得するにあたっては、住宅建設やオフィス・ショッピングモール等の建設といった建設投資プロジェクト(いわゆる不動産開発投資プロジェクトといいます。)を申請して、当該投資プロジェクトの許可を取得した後、その投資プロジェクトを実施するために必要となる土地使用権を取得することができるようになります。土地使用権の取得方法については「ベトナムの不動産(土地、建物)を「開発」、「購入」、「賃借」、「利用」する際に知っておきたい基礎知識 ~ベトナム土地法入門~」の記事をご参照ください。 1.2. 住宅の所有に関する条件(住宅法に定める条件) 外国人(日本人)が所有できる対象となる住宅は、商業住宅建築プロジェクトによって建設された共同住宅や個別住宅でなければなりません。さらに、当該住宅は、治安維持及び国防に関連する地域に属さない場所にある必要があります。また、そのような条件を満たす場合であっても、外国人(日本人)が所有できる建物には、以下のとおりの制限があります。 所有できる軒数の条件:外国人投資家が所有する住宅は総軒数の30%を超えてはいけません(共同住宅の場合)。また、プロジェクトごとによる個別住宅の総軒数の10%を超えず、最大250軒を超えてはいけません(半戸建住宅、個別住宅、別荘を含む個別住宅の場合)。所有期間:最大50年間。ただし、期間満了後に延長することが可能です。 1.3.不動産事業を行う場合の条件(不動産事業法に定める条件) a.定款資本金の制限について 不動産事業を行う組織や個人の一般的な条件に関して、不動産事業法では、「不動産事業活動を行う企業・合作社は200億ドンを下回らない法定資本金を有さなくてはならない」と定められています。しかし、2021年1月1日以降、現行投資法(投資法第61/2020/QH14号)の施行により、法定資本金の条件は削除されています。したがって、現時点では、外国人投資家は、小規模資本(法定資本金が200億ドン未満)の企業でも、ベトナムの不動産事業に参入できるようになりました。 b.一般条件 不動産事業を行うために、組織・個人(投資家)は企業又は合作社を設立しなければなりません。すなわち、不動産取引そのものは企業だけでなく個人でも可能ですが、不動産事業活動を直接に行う主体としては、必ず企業又は合作社である必要があるとされています。外国人投資家の場合は、企業(法人格を有する会社)にのみ投資でき、合作社に投資することができません。そのため、外国人投資家がベトナムでの不動産事業を行うためには、まず法人(企業)を設立する必要があります。 外国人投資家は単独で、またはベトナム人投資家と合弁し、不動産事業の会社を設立するか、又は不動産事業の会社の株式・持分を取得する方法を通じて、ベトナムで不動産事業活動を行うことができるようになります。 c.出資比率の条件 会社の設立、資本出資、株式・持分の購入のいずれの場合であっても、外国人投資家がベトナムにおいて不動産事業を行う際の出資比率には、特別の制限はありません。したがって、外国人投資家は、会社設立又は株式・持分の購入により、ベトナムで不動産事業を営む100%外資系企業を所有することができます。 d.不動産事業の範囲(内容)の条件 不動産事業を行う外資系企業の事業範囲は、以下のとおりに制限されていますので、この範囲でのみ、事業を行うことができます。 1.4.不動産事業の対象物 ベトナム民法によれば、不動産とは、一般的に土地、住宅、土地付着建物及び土地・住宅・建物のその他の付着財産を含みます。このような不動産に関する不動産事業においては、対象となる不動産は、不動産事業法上、①既存不動産及び②将来形成不動産に分類されています。 民法(2015年民法108条)の規定により、既存不動産及び将来形成不動産は、財産に対する所有権及びその他の権利の確立時点によって区別されます。既存財産(既存不動産を含む)は既に形成され、その不動産につき、取引前あるいは取引時に、既に所有権・その他の権利が生じている財産です。一方で、将来形成財産(将来形成不動産を含む)は、まだ形成されていない財産や、財産として形成されているが所有権そのものは、取引時には確定的に発生していない不動産となります。 しかし、不動産事業を考える上では、このような民法の規定では厳格に整理されておらず、むしろ、「既存住宅・建物」及び「将来形成住宅・建物」という区別が用いられています。そのうち、「既存住宅・建物」とは、建設の完了検査を受けた住宅・建物をいいます。一方で「将来形成住宅・建物」とは、まだ使用のための完了検査を受けていないものをいいます。このように、この2種類の住宅・建物を区別する基準は、建設完了後に完了検査を受けたか否かによります。 不動産事業の対象となる「既存不動産」は、土地、住宅、土地付着建物、及び土地・住宅・建物のその他の付着財産を含みます。そのうち、住宅・建物は、建設が完了し、使用されていることが必要となります。一方、事業の対象となる「将来形成不動産」は、住宅・土地付着建物、及び土地・建設過程にあり、使用のための完了検査を受けていない住宅・建物のその他の付着財産を含みますが、土地使用権は含みません。 このように、不動産事業の対象となる不動産が「既存不動産」と「将来形成不動産」に分類されるのは、①それぞれ対象ごとに取引を行う際の手続が異なること②取引者(購入者、譲受者)の権利保護方法が異なること、によるものです。①の具体的な例でいえば、既存不動産は既に存在しているため、取引をするために必ず不動産の所有権・使用権を証明できる書類が必要となります、一方で、将来形成不動産は、まだ不動産として存在していませんので、所有権・使用権を証明できる書類は必要とされませんが、一定の基準を満たしてから(少なくとも物件の基盤の建設が完成する必要があります)、初めて取引を行うことができるという条件になります。②については、既存不動産と比較すればまだ形成していない将来形成不動産を取引する際に取引者(購入者、譲受者)にとって様々なリスクがあるため、強行規定として取引者(購入者、譲受者)の権利を保護できる規定を不動産事業法により整備されています。このあたりは、日本でも、いわゆる「青田売り」に関する様々な制限があるので、これと同様の趣旨と考えればわかりやすいのではないでしょうか。 2.不動産サービス業に関する規制 不動産サービス活動の内容は、以下の表に従い区別されています。 *注記:不動産取引は、不動産の売買、譲渡、賃貸、転貸、買受特約付賃貸を含みます。 2.1.不動産仲介サービスに関する条件 不動産事業法では、不動産仲介サービスを組織として運営する場合は企業を設立しなければならず、不動産仲介実務証明書を有する者が少なくとも2人いなければならないとされています。ただし、不動産仲介サービスを個人として行う場合は、不動産仲介実務証明書を有し、租税に関する法令に従い租税納入登録を行えば十分です。 不動産仲介実務証明書を取得するために、個人は以下の条件を満たす必要があります。 a. 十分な民事行為能力を有すること b. 高校卒業以上の学歴を有すること c. 不動産仲介に関する試験に合格していること 不動産仲介実務証明書の付与対象には外国人も含まれています。なお、外国人がこの試験を受験するにあたっては、ベトナム語を解せない場合、通訳を使用することができます。 2.2.不動産取引所に関する条件 不動産取引所とは、不動産の売買、譲渡、リース、サブリース、分割払購入等といった取引を行う場所をいいます。不動産取引所を運営する会社は、不動産に関する情報を開示し、買主と売主をマッチングさせ、取引に関するサポートを行うことにより、買主と売主は、自由に不動産を取引することができるようになります。 このような不動産取引所を運営する組織・個人は企業を設立しなければなりません。不動産取引所を運営する企業は不動産仲介実務証明書を有する者を少なくとも2名在籍させなければなりません。なかでも、不動産取引所の管理者・運営者は、不動産取引実務証明書を有する必要があります。不動産取引所は、活動規則、名称、住所、活動要求に応える物的基盤・技術も必要となります。 取引所を設立した後、当該企業は、取引所が運営されている省、中央直轄市の建設局、または住宅・不動産市場管理庁に取引所の情報の届出を行わなければなりません。各建設局、住宅・不動産市場管理庁は、管理の目的で、取引所を設立した企業から届出を受けた情報を当機関のポータルサイトに公開する義務があります。届出、公開の対象となる情報は、以下のとおりとなります。 a. 取引所を設立した企業名、企業代表者の名前、企業の連絡先 b. 取引所名、取引所設立日、取引所の場所、取引所の電話番号、取引所の管理・ 運営者の氏名 2.3.不動産に関するコンサルティング 不動産のコンサルティング事業を行うため、組織・個人は企業を設立しなければなりません。 不動産のコンサルティングの事業内容は、以下のものを含みます。 a. 不動産に関する法律のコンサルティング b. 不動産創業、経営投資のコンサルティング c. 不動産に関するファイナンスコンサルティング d. 不動産の価値評価に関するコンサルティング e. 不動産の売買、譲渡、賃貸、転貸、買受特約付賃貸の契約の相談 3.不動産管理事業に関する規制 現行不動産事業法の規定では、不動産管理サービス事業を営む組織・個人は企業を設立しなければなりません。 不動産管理サービス事業の内容は、以下のとおりとなります。 a. 住宅・建物所有者又は土地使用権者からの委任に従った不動産の売却、譲渡、賃貸、転貸、買受特約付賃貸 b. 不動産の通常の機能を維持することを保証できるサービスの提供 c. 不動産の維持、修繕 d. 顧客の不動産の開発・使用が契約に基づいているかについての管理、監察 e. 住宅・建物の所有者又は土地使用権者の委任に従った、顧客、国家に対する権利及び義務の実施 共同住宅、住宅を含む複合建物(以下、「共同住宅」という。)の管理サービス事業を営む場合は、不動産事業法の規定以外に、住宅に関する法令の規定を全て満たさなければなりません。したがって、共同住宅の管理運営サービスを営むために、企業は、以下の要件を満たす必要があります。 a. 企業法又は合作社法の規定に従って法人を設立して活動し、共同住宅の管理運営スキルを有すること b. エンジニアリング、サービス、セキュリティ、衛生、環境の部門を含む、共同住宅の運営管理の専門部門を有すること c. 住宅管理運営(建設、電気工学、水道、防火、共同住宅に関連する機器の操作の分野を含む)に関する要件を満たす必要があり、建設大臣の定める共同住宅の管理運営に関する専門知識の訓練と育成の証明書を有すること 上記の要件を満たした上で、管理運営組織は、本社所在地における建設局(以下、「建設局」という。)又は住宅・不動産市場管理庁に対して、氏名、所在地、電話番号が記載されている書面及び上記の要件を満たしたことを証明する書類の認証済みコピーを提出する必要があります。書類審査により要件を満たしたと認められた場合には、建設局又は住宅・不動産市場管理庁は自己のウェブサイト上において情報を公開します。 なお、提出先については、住宅・不動産市場管理庁がある所在地の場合は、原則として住宅・不動産市場管理庁に提出する必要がありますが、住宅・不動産市場管理庁がない場合は、建設局に提出することになります。 終わりに ベトナムの不動産市場の拡大に伴い、不動産事業者が著しく増加しています。2020年6月27日、ベトナムの不動産市場の管理・開発における仲介業務の役割に関するセミナーにおいて、ベトナム不動産仲介協会が発表したデータによると、ベトナムには不動産企業が約15,000、不動産取引所が約1,200、そして400,000を超える不動産ブローカーが存在しています。 外国人投資家の場合、不動産市場への参入(特に不動産サービス業界)は、大きく遅れています。日本人投資家については、この不動産サービス業への投資を行うために、すでに多くの日本人投資家がベトナムに企業設立をしています。しかし、日系企業は、主に不動産仲介活動に集中しており、他の不動産サービスの分野において、いまだ日本からの投資は非常に限定的な範囲にとどまっています。不動産管理は、2006年の不動産事業法により詳細に規定された不動産サービスの1つですが、その後の不動産市場の発展に比べ、この分野のサービスの発展は遅れていると言えます。不動産管理のニーズが増加したのは、不動産事業法の施行によって大量の住宅プロジェクト、賃貸オフィスビル、ショッピングセンター、新しい市街地などが完成し、その運用が開始された後でした。したがって、この分野のサービス提供は遅れており、不動産の価値と不動産の流動性を高めるために不動産管理の専門家が必要とされているにもかかわらず、良質なサービス提供が不足しているという状況にあります。 現在、ベトナムにおける不動産管理の分野は、潜在力と多くのビジネスチャンスのある分野だと言えます。海外からの直接投資に加えて、ベトナム企業へのビジネスノウハウの移転は、ベトナムにおけるこの産業の基盤と長期的な発展にとっても、非常に重要と考えられます。
ベトナム労働法における解雇制度について
1 法定解雇事由について 現在、ベトナムでは、2019年労働法及び政令No.145/2020/NĐ-CP号等の詳細規定により、解雇に関する内容が詳述されている。 法定の解雇事由は、次の通りである(労働法第125条)。すなわち、①労働者が職場で窃盗・横領・賭博、故意に基づく傷害の惹起・麻薬使用をする場合②労働者が、就業規則に規定されている使用者の営業機密・技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為、使用者の財産・利益に関して重大な損害を惹起する行為、若しくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為、又は職場でのセクシャルハラスメントを行う場合③昇給期間の延長又は免職の懲戒処分を受けた労働者が、懲戒処分が解消されない期間内に再犯をする場合(再犯とは、労働者が、労働法126条の規定に従った懲戒処分解消がなされていないのに懲戒処分された違反行為を再度おこなうことをいう。労働法126条によれば、引き続き労働規律違反がない場合、処分の日から戒告処分を受けた労働者は3か月後、昇給期間の延長の懲戒処分を受けた労働者は6か月後、免職の懲戒処分を受けた労働者は3年後に、当然に懲戒処分は解消される。)④労働者が、正当な理由なく、30日間に合計5日、又は365日間に合計20日、仕事を放棄した場合、である。日数は仕事放棄の最初の日から計算される(正当な理由があると看做される場合は、自然災害・火災・権限を有する医療機関の確認がある自らの病気・親族の病気及び就業規則が規定するその他の場合である。)(労働法125条)。 上記の内、実務上は④による解雇が多いとされている。④の要件の内、「正当な理由」という要件は規範的なものであるが、裁判実務では、この要件を限定的に解釈する傾向にある。例えば、ビン・ズオン省人民裁判所の2018年11月27日付判決30/2018/LĐ-PT号[1]では、労働者が病気に罹患し、病院がそれを証明する書面を発行していても、会社の就業規則に従い休暇届けを出さずに、出勤しなかった場合には、仕事を放棄したこととして、解雇決定が適法だとみなす旨の判断がなされた。 また、ホーチミン市人民裁判所の2018年11月30日付判決出社しないように一般実務では、これを広く1158/2018/LĐ-PT号[2]及びビン・ズオン省人民裁判所2019年8月6日付判決06/2019/LĐ-PT号[3]においては、社長が、労働者とのメールやり取りの中、今後労働契約の終了若しくは解雇を言及するとき、労働者が労働契約の終了や解雇の正当性を交渉・検討できていないにも関わらず、休暇届を提出せずに出社しない場合、正当な理由なく仕事を放棄したとみなされる旨を判断している。他に、使用者から不適法な解雇決定を受けた労働者が直ちに出勤しなくなる場合にも、(そもそも適法な解雇決定が存在しないため)解雇決定の取消請求を認めず、仕事の放棄について労働者に責任があるとして、賠償請求が認められない旨の判断がなされたものもある(ビン・フオック省ドン・フー県人民裁判所の2019年5月17日付判決01/2019/LĐ-ST号)[4]。 これらの事件につき、(労働者によれば)労働者が出社する際に、使用者の雇用する警備員に入館を差し止められた旨の主張がなされているが、裁判所は、それらの証拠がないものとして、その旨の主張を認めなかった。他方で、ビン・ズオン省人民裁判所の2018年11月20日付判決29/2018/LĐ-PT号では、労働者に対して今後出社しないように命ずる社長のメールを提出し、その証拠等により、仕事の放棄が認められず、解雇決定が違法だと判断している[5]。 [1] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/14Ngh%E1%BB%89-%E1%BB%91m-c%C3%B3-x%C3%A1c-nh%E1%BA%ADn-c%E1%BB%A7a-B%E1%BB%87nh-vi%E1%BB%87n-nh%C6%B0ng-kh%C3%B4ng-l%C3%A0m-%C4%91%C6%A1n-xin-ph%C3%A9p-g%E1%BB%ADi-C%C3%B4ng-ty.-C%C3%B4ng-ty-sa-th%E1%BA%A3i-%C4%91%C3%BAng-ph%C3%A1p-lu%E1%BA%ADt.pdf [2] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/08/4C%C3%B4ng-ty-kh%C3%B4ng-sa-th%E1%BA%A3i-m%C3%A0-%C4%91u%E1%BB%95i-kh%C3%A9o-b%E1%BA%B1ng-email-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-kh%C3%B4ng-ti%E1%BA%BFp-t%E1%BB%A5c-%C4%91i-l%C3%A0m.-T%C3%B2a-%C3%A1n-b%C3%A1c-y%C3%AAu-c%E1%BA%A7u-b%E1%BB%93i-th%C6%B0%E1%BB%9Dng-c%E1%BB%A7a-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng.pdf [3] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/13C%C3%B4ng-ty-kh%C3%B4ng-sa-th%E1%BA%A3i-m%C3%A0-%C4%91u%E1%BB%95i-kh%C3%A9o-b%E1%BA%B1ng-email.pdf [4] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/19Quy%E1%BA%BFt-%C4%91%E1%BB%8Bnh-sa-th%E1%BA%A3i-do-tr%C6%B0%E1%BB%9Fng-ph%C3%B2ng-k%C3%BD-kh%C3%B4ng-%C4%91%C3%B3ng-d%E1%BA%A5u.-Nh%C3%A2n-vi%C3%AAn-%C4%91%E1%BA%BFn-l%C3%A0m-th%C3%AC-b%E1%BA%A3o-v%E1%BB%87-kh%C3%B4ng-cho-v%C3%A0o-n%C3%AAn-ngh%E1%BB%89-vi%E1%BB%87c.pdf [5] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/22C%C3%B4ng-ty-sa-th%E1%BA%A3i-v%E1%BB%9Bi-l%C3%BD-do-NL%C4%90-t%E1%BB%B1-%C3%BD-b%E1%BB%8F-vi%E1%BB%87c-05-ng%C3%A0y-c%E1%BB%99ng-d%E1%BB%93n-trong-th%C3%A1ng.pdf 2 解雇が無効と判断された事例について 無効だと判断された解雇決定の多くは、法定手続(解雇のために労働者と使用者で会議をする必要があるなど)を遵守しなかったことに起因する。例えば、ビン・ズオン省人民裁判所の2019年8月21日付判決07/2019/LĐ-PT号[6]では、労働者が会社の財産を横領した証拠があったとしても、適法な手続を経た解雇決定を行うのではなく、単に労働者を解雇する旨の通知をしたにとどまる場合について、解雇を無効と判断した。また、解雇について関係者に通知せず、解雇会議を開かず、又は労働者が1回目の会議に欠席しても、解雇決定を労働者の弁明を確認せずにおこなうことは、労働法に違反すると解されている(ドン・ナイ省人民裁判所の2018年11月05日付判決17/2018/LĐ-PT号[7]、ハノイ市人民裁判所の2018年7月18日付判決13/2018/LĐ-PT号[8])。ただし、使用者が解雇処分のための会議の実施日の3営業日前に通知したが、労働者が会議に出席し、異議を申し立てなかった場合、解雇決定が適法と解されている(ホーチミン市人民裁判所の2019年4月22日付判決352/2019/LĐ-PT号[9])。このように、解雇処分を行うとき、会社側は手続上の規定に特に注意する必要があると考えられる。 解雇決定が無効と判断された場合について、その後の取り扱いは、他の使用者の違法な一方的労働契約終了の場合と同様に処理される。具体的には、使用者は、労働者が締結済みの労働契約に従って再び働くことを受け入れなければならない。また、使用者は、労働者が働くことができなかった日数の賃金・社会保険・医療保険・失業保険を支払い、労働契約に従った賃金の少なくとも2か月分を労働者に追加で支払わなければならない。勤務再開のあと、労働者は退職手当・失業手当を受領済みである場合は使用者に対してそれら手当を返還する必要がある。締結済みの労働契約の役割・業務が残っていないが労働者が依然として働くことを希望する場合、労働契約を修正・補充するために両当事者は合意をする必要がある。労働者が引き続きの勤務を希望しない場合は、上記のように支払わなければならない金銭の他に、使用者は、労働契約を終了するために、労働法第46条が規定する退職手当を支払わなければならない。使用者が再び労働者を受け入れることを希望せず、労働者がそれに同意する場合は、この条1項の規定に従って使用者が支払わなければならない金額及び労働法第46条の規定に従った退職手当の他に、労働契約を終了するために両当事者は労働者に支払う追加の賠償額を合意するが、それは労働契約に従った賃金の少なくとも2か月分である。(労働法第41条) なお、有効に解雇した後の取り扱いは、他の労働契約終了の場合と同様である。すなわち、原則として、労働契約終了や解雇決定の日から14営業日以内に、両当事者はそれぞれの当事者の権利利益に関連する事項の全てを清算する責任を有する。また、使用者は以下の責任を負う。第一に、社会保険・医療保険・失業保険の費用を納入する期間の確認手続を終了し、使用者がそれらを保持している場合には、労働者のその他の書類の原本を返還する。第二に、労働者が要求する場合には、労働者の労働過程に関連する各資料の写しを提供するものとする。資料の写しの作成・送付の費用は使用者が支払う必要がある(労働法第48条3項)。 [6] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/12L%C3%BD-do-sa-th%E1%BA%A3i-%C4%91%C3%BAng-ph%C3%A1p-lu%E1%BA%ADt-nh%C6%B0ng-sai-tr%C3%ACnh-t%E1%BB%B1-th%E1%BB%A7-t%E1%BB%A5c.-C%C3%B4ng-ty-ph%E1%BA%A3i-b%E1%BB%93i-th%C6%B0%E1%BB%9Dng.pdf [7] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/9Sa-th%E1%BA%A3i-kh%C3%B4ng-%C4%91%C3%BAng-tr%C3%ACnh-t%E1%BB%B1-th%E1%BB%A7-t%E1%BB%A5c.-Ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-l%C3%A0-c%C3%A1n-b%E1%BB%99-c%C3%B4ng-%C4%91o%C3%A0n.-C%C3%B4ng-ty-ph%E1%BA%A3i-b%E1%BB%93i-th%C6%B0%E1%BB%9Dng.pdf [8] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/08/3Ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-v%E1%BA%AFng-m%E1%BA%B7t-l%E1%BA%A7n-th%E1%BB%A9-1-c%C3%B4ng-ty-v%E1%BA%ABn-t%E1%BB%95-ch%E1%BB%A9c-h%E1%BB%8Dp-x%E1%BB%AD-l%C3%BD-k%E1%BB%B7-lu%E1%BA%ADt-n%C3%AAn-vi%E1%BB%87c-sa-th%E1%BA%A3i-l%C3%A0-tr%C3%A1i-ph%C3%A1p-lu%E1%BA%ADt.pdf [9] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/11C%C3%B4ng-ty-th%C3%B4ng-b%C3%A1o-h%E1%BB%8Dp-x%E1%BB%AD-l%C3%BD-k%E1%BB%B7-lu%E1%BA%ADt-%C3%ADt-h%C6%A1n-05-ng%C3%A0y-l%C3%A0m-vi%E1%BB%87c.-Tuy-nhi%C3%AAn-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-v%E1%BA%ABn-%C4%91%E1%BA%BFn-tham-d%E1%BB%B1-m%C3%A0-kh%C3%B4ng-ph%E1%BA%A3n-%C4%91%E1%BB%91i.pdf 3 使用期間中における労働契約の強制的終了について 試用期間中の労働契約の強制的な終了については、解雇とは別の規制により解決される。労働法第27条2項によれば、いずれの当事者も、事前の通知を要せず、また、損害賠償なく、試用契約若しくは労働契約を終了・取り消すことができるとされているためである。ハノイ市人民裁判所の2018年1月12日付判決01/2018/LĐ-PT号[10]は、試用期間中に労働者が勝手に会社のコンピューターシステムを操作し、会社の規則に違反したために、解雇された事例である。これに対し、労働者は、解雇決定に異議申し立てをし、会社に対する損害賠償を請求した。裁判所は、本件会社が、試用期間中に解雇をする必要がないことを理由に、解雇決定を取り消し、また、解雇の正当性を審査することなく、上記規定と同様の内容を有する2012年労働法第29条2項(旧法)に基づき、本件会社の主張を認め、労働者の請求を棄却した。 [10] 判決は以下を参照:https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/16C%C3%B4ng-ty-cho-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-th%E1%BB%AD-vi%E1%BB%87c-02-l%E1%BA%A7n-m%E1%BB%97i-l%E1%BA%A7n-30-ng%C3%A0y.-C%C3%B4ng-ty-thu-h%E1%BB%93i-Quy%E1%BA%BFt-%C4%91%E1%BB%8Bnh-sa-th%E1%BA%A3i-T%C3%B2a-%C3%A1n-b%C3%A1c-y%C3%AAu-c%E1%BA%A7u-c%E1%BB%A7a-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng.pdf
不動産コラム① 弁護士が解説する 【失敗しないベトナム不動産投資】~ベトナム土地法入門~
外国人がベトナムの不動産(土地、建物)を「開発」、「購入」、「賃借」、「利用」する際に知っておきたい基礎知識 目次 はじめに ベトナムの不動産(土地)に「所有権」はあるのか? ベトナムの土地の特徴ベトナムでは、土地所有権は全国民に帰属し、国家がこれを管理するとされているが、外国人が不動産(土地)投資や取引をすることは安全なのか?ベトナムで土地を使用するための土地の使用企画・使用計画の概要と仕組み土地使用権の取得方法ベトナムの不動産(土地、建物)の登記制度ベトナムで不動産(土地、建物)の取引をする際に確認すべき「土地使用権証明書」の概要 終わりに はじめに ベトナムへの不動産投資を検討されている外国人投資家は、「ベトナムでの土地は、全国民の所有に属し、国家が所有者の代表としてそれを統一して管理されるため、土地使用者は、土地の使用権しか有せず、様々な制限がある。」ということを最初に知ることになります。確かに、この情報自体は一面では正しいのですが、不正確とも言え、ベトナムの不動産制度や市場についての理解が不十分な初心者は、その本当の意味を誤解してしまいます。ハノイとホーチミンに事務所を持つ明倫国際法律事務所のベトナム人弁護士と日本人弁護士が、不動産投資を考える外国人(日本人)にとって、知っておくべき知識を解説します。 ベトナムでは、土地の所有権を取得することはできず、土地の使用者は、土地に対して使用権しか有していません。しかし、その使用権の内訳は、実は所有権に近いものと言えます。第三者に対して対抗することができる登録制度もあり、権利として安全に確保し、活用することができ、当該使用権の一般的な処分(譲渡、売却等)も行うことができます。特に、外国人投資家に対しては、国内の法令のみならず、国際条約などでもベトナムでの投資に関する財産権(不動産を含む)が保護されるため、「使用権」しかないということを、それほど心配する必要はないとも言えます。少し見方を変えると、日本でも、「所有権」はありますが、固定資産税も支払わなければなりませんし、収用などに際しては所有権を失うことがあります。ベトナムでも、「使用権」としてその土地を排他的に使用する権利が認められており、「使用料」(日本でいう「固定資産税」に相当)を支払う必要があり、一定の手続に従って補償を得た上で使用権を失うことがある(日本でいう「収用」に相当)という意味で、実はそれほど違いはないのではないかということです。 日本人をはじめとする外国人投資家の皆様が、ベトナムの不動産(土地、建物)に対し、「開発」、「購入」、「賃借」、「利用」などの形態で不動産投資を行う際に、過度に恐れることなく適切に準備と対策を行い、失敗しない不動産投資を行うために必要な、ベトナムの土地に関する様々な制度や運用について、ご説明させていただきます。 1. ベトナムの不動産(土地)に「所有権」はあるのか? ベトナムの土地の特徴 ベトナムでは、土地に関して、以下のような特徴があります。外国人がベトナムで土地を購入する場合には、ぜひ知っておきたいところです。 土地は、全国民の所有に属し、国家が所有者の代表として統一してこれを管理すること土地の使用は、必ず国が公布する土地使用企画に適合する必要があること土地使用権の登記制度は存在しているが、公開されていないこと国家の裁量で、国民から土地の使用権を回収することができること 2. ベトナムでは土地所有権は全国民に帰属し、国家がこれを管理するとされているが、外国人が不動産(土地)投資や取引をすることは安全なのか? これまでご説明したとおり、ベトナムでの土地は、全国民の所有に属し、国家が全国民の代表として、それを統一して管理しているという特性があります。この点は、外国人にとっても、ベトナム人にとっても差異はありません。しかしながら、使用者(個人、企業、その他組織)の使用権が実質的に所有権に近いものであり、使用者の権利を保護するための法制度が十分に整備できているため、結論として、ベトナムでの不動産(特に土地)に対する投資や取引を行うことは、安全であると考えられます。要するに、名称は「所有権」ではなく「使用権」であるものの、実際の土地に対する権利としては、日本人がイメージする「所有権」とそれほど異ならないものが確保できる、ということです。 ただし、ベトナムでは、不動産、とりわけ土地に関する法律や制度がかなり複雑であり、かつ、政策や運用、法の規定が頻繁に変更、修正されています。そのため、外国人や外国人投資家にとっては、これらを正確かつ適時に理解することは、それほど簡単ではありません。 そこで、日本人の個人や投資家の中には、こうしたベトナム不動産制度・規制の複雑さを回避するために、不動産投資にあたって、様々な関係で知り合ったベトナム人の名義を借りて不動産を購入するなどの方法で、不動産投資をするケースも見受けられます。しかし、このようなベトナム人の名義借りによる不動産投資は、そのベトナム人との信頼関係が維持され、連絡が密になされることを前提としているところ、この点でトラブルを誘発し、結果として不動産投資が失敗に終わるケースは、非常に多くみられるところです。 このように考えると、外国人(日本人)がベトナム不動産投資に失敗する原因は、そもそも土地に対する所有権があるかどうかということではなく、実際に不動産投資や取引を行うにあたっての検討不足や、通常のビジネスルートを利用しない不適切な形態を選択することにあると言えます。 そのため、ベトナムでの不動産取引や投資を失敗しないためには、必ず以下の対策を十分に実施するようにお勧めいたします。 ベトナム不動産投資を検討する場合は、まず不動産の制度や法律、及び不動産市場や取引慣行等について、正しい情報を総合的に知るために、専門家に確認すること知り合いのベトナム人やパートナーから受領した情報について、必ず専門家にダブルチェックを行い、真偽や正確性を確認すること不動産の投資や購入を決める際に、重要な事項のみでも良いので、法的なリスクのチェック(法務デューデリジェンス)や価値評価を行うこと不動産の投資や購入の前に、必ず物件や土地を現地で確認すること(現地を訪問できない場合は、信頼できる専門家に依頼することも可能です) 3. ベトナムで土地を使用するための、土地の使用企画・使用計画の概要と仕組み 土地使用企画とは、土地の潜在力及び各産業・分野の土地使用の需要に基づき、経済・社会発展、国防、治安、環境保護及び気候変動に対応するという目標を達成するため、一定の期間を定めて、土地を使用空間によって区分・区画整理し、各経済・社会分野や地域ごとに土地の利用を適切に割り振ることです。一方、土地使用計画とは、土地使用企画に定められた期間内に、土地使用企画を実施するために策定される計画であり、土地使用企画の実施期間をさらに分割した一定期間毎に計画が策定されます。つまり、土地使用企画は、土地の使用目的ごとの土地全体の区分で、土地使用計画は、土地使用企画の全期間内の中の一定の短期間ごとにおける実施内容を定めるものとなります。このあたりは、日本でも、都市計画に関する様々な法令で土地の用途ごとの秩序ある効率的な利用を促進する仕組みがありますので、それらと同じようなものであるというイメージを持っていただいてもよいかと思います。 ベトナムでの土地の使用は、必ず国が公布する土地使用企画に適合する必要があります。土地使用企画、土地使用計画に適合しない土地の使用に対しては、以下のいずれかのリスクが発生する可能性があります。 行政罰の罰金の賦課(短期の場合)建設物に対する工事の施工停止・撤去・使用禁止土地使用権の回収 土地使用企画、土地使用計画は、以下の種類があります 土地使用企画、土地使用計画を確認するために、公的な開示サイトがありますが、公的なサイトに開示する土地使用企画、土地使用計画は、必ずしも現行の土地使用企画、土地使用計画ではない場合が多いと言えます。最新の土地使用企画、土地使用計画や、以後の改定状況等を確認されたい場合は、専門家にご確認ください。 4. 土地使用権の取得方法 国から土地使用権を取得する方法には、①土地使用権の割当、②土地使用権のリース、及び③土地使用権の公認の3つがあります(上記の図をご参照下さい)。もっとも、このうち「③土地使用権の公認」は、外国投資家は対象外のため、以下は、ベトナムに不動産投資をしようとする外国人投資家の皆様が利用可能な、①及び②の方法のみをご説明したいと思います。 国は、土地使用者に対して、有償又は無償で土地の使用権を割り当てています。そのうち、無償での土地使用権割当は、ベトナム国民・世帯、ベトナムの企業・組織のみに対して行われ、外国人や外国企業は割当を受けることができません。外国人や外国企業が株主となって設置されたベトナム企業(外資企業)は、販売若しくは販売兼賃貸を目的する住宅・マンション開発プロジェクトを実施する目的で、ベトナム国から有償での土地使用権の割当を受けることができます。 土地使用権のリースは、上記の図のとおり、①賃料一括払いによる土地使用権のリース、②賃料年次払いによる土地使用権のリースの2種類があります。ところで、賃料一括払いによる土地使用権の賃借者の権利と、賃料年次払いによる土地使用権の賃借者の権利は大きく異なっていますので、注意が必要です。賃料一括払いに伴う土地使用権の賃借者は、土地使用権及び土地上の財産の両方に対して、譲渡、リース、サブリース、抵当権の設定、現物出資を行うことができますが、賃料年次払いによる土地使用権の賃借者は、基本的に土地上の財産のみに対して売却、抵当権の設定、現物出資を行うことができ、土地使用権については原則として、取引の対象とすることができません。ただし、工業団地での賃料年次払いによる土地使用権のリースの場合を除きます。 5. ベトナムの不動産(土地、建物)の登記制度 ベトナム民法第503条により、土地使用権の移転は、土地法に基づき登記手続を行う時点から効力が発生すると規定されています。また、土地法第95条により、土地使用者、管理のために土地を交付された者に対して土地を登記することが必須であると規定されています。つまり、土地使用権については、原則として登記しなければ、使用権者としての権利は保護されないことになります。 不動産である住宅及び土地に付着するその他の財産(現行民法第107条1項により、土地に付着するその他の財産には、土地に付着する建築物、土地・住宅・建設物に付着するその他の財産、法律の規定に基づくその他の財産が含まれます)について、登記をする制度がありますが、登記するかどうかについては、所有者の任意ですので、こちらは、必ずしも登記の必要はありません。 ベトナムでの不動産登記制度は、あくまで国家の行政的な管理目的のために行われており、 公開化、透明化といった登記制度の目的について重視されておりません。したって、 登記制度はあるものの、不動産の登記データベースは土地管理機関しかアクセスすることができず、誰もが登記データを確認できる制度になっていません。不動産の登記情報を確認するために、個別的に不動産登記事務所に情報開示の申請を行う必要があります。しかし、場合により 、不動産登記事務所が情報の開示を拒否すること も 多くあります。 不動産登記情報の開示請求について問題が生じた際は、専門化にご相談されることをお勧めいたします。 6. ベトナムで不動産(土地、建物)の取引をする際に確認すべき「土地使用権証明書」の概要 土地使用権証明書は、最も重要な書類ですので、記載内容をしっかりと把握しておく必要があります。土地使用権証明書は、天然資源環境省により全国統一の様式で発行されます。土地使用権証明書の表紙が赤色であるため、「レッドブック」と呼ばれており、英語ではLand Use Right Certificate の略語である「LURC」という表記をされることもあります。 2009年12月10日より以前は、土地使用権及び土地上の住宅、建物の所有権の証明書は、それぞれ個別に発行されていました。都市部の住宅地ではない土地の使用権(農村の住宅地、農地、林地等)の場合は、天然資源環境省の管轄で、天然資源環境省が発行する土地使用権証明書(レッドブック)が発行されていました。一方、都市部の住宅地、マンションを含む都市部の住宅の場合は、建設省の管轄において、建設省が発行する住宅及び住宅地証明書(ピンクブック)が発行されていました。また、当時、住宅建物ではない建物の場合は、建設当局が別の建物所有権証明書を発行し、これによって所有者の権利が確認されていました。 しかし、2009年12月10日以降は、土地使用権及び土地上の住宅、建物の所有権のすべてを登記する際に、一体となった土地使用権、住宅及び土地に定着するその他の財産証明書(「レッドブック」という)が使用されています。ただし、以前に発行されたピンクブックは、現在のレッドブックにすべて移転しているわけではないため、現在でもピンクブックが存在しており、その効力は認められています。 終わりに 2006年に初めて不動産事業法が整備され、外国人によるベトナムにおける不動産投資分野への進出に関する法制度が明確化されました。2006年以前にも不動産投資案件は複数ありましたが、いずれも特別な承認を得ることによりベトナムに進出したケースでした。2007年7月1日にベトナムで最初の不動産事業法(63/2006/QH11号)が施行されて以降、外国からのベトナムへの不動産分野の投資額が急速に増加しています。2008年には、世界経済の影響を受けていたものの、ベトナムへの海外直接投資(FDI)の登録金額が717億ドルに至り、2007年の3.4倍に増加しました(2013年9月の建設省による不動産事業法の改正に関する提案報告書 )。そのうち、不動産分野への投資額は236億ドルでした。これ以降も、ベトナムにおける不動産分野への投資が活発化しています。2018年12月においてFDI総額のうち不動産事業への投資額は第2位であり、2020年12月には第3位となっています(順位は、第1位:製造・加工、第2位:電力、第3位:不動産)。 ベトナムが政治的に安定しており、経済成長率が高く、かつ、投資環境の改善を不断に行っている等の理由から、外国人投資家は、ベトナムでの不動産市場に強い関心を持っており、投資が加速していると言えます。ハノイやホーチミンはもちろんですが、最近は、地方の大きな都市部であるハイフォン・ダナン・ビンズオン・フーコックなどでも、不動産投資先として大きく注目されています。 ベトナムでは、不動産事業が付加価値の高いビジネスの1つであるため、ベトナム国内のローカル会社も、不動産分野への投資に高い関心を持っています。しかし、ベトナムでの不動産市場はまだ未成熟、かつ、ローカル会社も経験やノウハウの蓄積に乏しいため、特に不動産開発や不動産管理に関しては、外国人投資家にとって、大きな魅力がある状態であると言えるでしょう。
【ベトナム入国 強制隔離期間を14日から7日に短縮】
2021年8月4日付のベトナム保健省による公文書NO. 6288/BYT-MT号により、以下対象者(注意¹)に対しては、ベトナムに入国後の強制隔離期間が、14日から7日に短縮される。また、それに伴い、強制隔離期間後の健康観察期間も14日間から7日間に短縮される。 注意¹ : 既定の回数のワクチン接種が完了した渡航者に適用される。また、以下のすべての条件を満たす必要がある。 ① 出国前の72時間以内にSARS-CoV-2の陰性検査結果を取得し(RT-PCR/RT-LAMP方法)、かつ、日本国内の指定機関によって発行される陰性証明書を有すること。② 出国日の少なくとも14日間前に既定回数のワクチン接種が完了し、ワクチン接種証明書を有すること。 但し、現在、上記の陰性証明書やワクチン接種証明書の確認や公認の手続の方法については、外務省のガイドラインを待っている状況である。
ベトナムにおける労働契約締結上の留意点 〜労働協約・就業規則の法的効力〜
ベトナムで事業を展開している外国企業の重要な問題の一つは、労働契約の締結であることは言うまでもないだろう。他方で、ベトナム法上の労働契約の方式、内容などに関する日本語の論文や記事はある程度見受けられる。そこで、本稿は、前記のような事項ではなく、労働契約の締結上の悩みの一つとして挙げられる、集団労働協約や就業規則と労働契約の内容の使い分けや効力に焦点を当てて、注意点等を述べることにする。 まず、労働契約及び就業規則の両方には、法律に従って定めなければならない事項が定められていることに留意する必要がある。2019年労働法21条及び労働傷病兵社会省通達10/2020/TT-BLĐTBXH号3条によれば、労働契約は、①会社名・住所②労働者氏名・生年月日・性別・身分証番号③職務内容・勤務地④労働契約の期間⑤賃金レート・支払時期・支払方法・手当その他⑥昇給及び昇進制度⑦勤務時間及び休日⑧労働者の労働保護器具(業務による)⑨社会保険及び健康保険⑩訓練及び研修、という内容を含まなければならない。 次に、同法118条及び政令145/2020/NĐ-CP号69条によれば、使用者は就業規則を作成なければならず、10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則は書面でなければならない。就業規則の内容は、労働に関する法令及び関連する法令の規定に反してはならず、次の主要な内容からなる。すなわち、①労働時間・休憩時間②職場の秩序③労働安全衛生④職場のセクシャルハラスメントの予防・防止・職場のセクシャルハラスメント行為の処分の手順・手続⑤使用者の財産・営業機密・技術機密・知的財産権の保護⑦労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合⑧労働者の労働規律違反行為及び労働規律処分の形式⑨物的責任⑩労働規律処分権限を有する者である。 続いて、同法75条以下によれば、集団労働協約は、必要的記載事項が法定されていないが、当該企業・産業分野に特化する労働法上の労働関係を規律するものなので、基本的に(項目としては)労働契約における条項(職務内容、労働時間・休憩時間、賃金、労働安全保障、保険、研修など)を定めればよいものと考えられている。 以上のように、労働協約・就業規則・労働契約は、大まかに包括的なものから具体的な内容をそれぞれ有すると 解することができる。ただし、集団労働協約は、一つの会社にのみ適用され、適用範囲の面で就業規則と同じものがある。この場合にも、労働協約は、労働者団体と合意した上で定められたものであるため、労働者の権利という積極的な面を中心的な内容とするのに対して、就業規則は、労働者団体の意見を参考にすることがあるものの、使用者の権限で定められたものであるため、労働者に対する規律処分という消極的な面を中心的な内容とすると考えられている。労働契約は、積極的、消極的両面を持ち合わせているが、特定の労働者に特化したものであり、当該労働者の労働条件に応じて、労働協約及び就業規則の内容を具体化するものである。 次に、労働契約のそれぞれの必要的記載事項を見ると、上記の①会社名・住所②労働者氏名・生年月日・性別・身分証番号の他に、いずれも労働協約や就業規則に含め得るものであるため、それぞれの条項の内容を比較する。 ③職務内容・勤務地については、複数の職務内容及び複数の勤務地がある場合に、具体的な労働者につき、どこの勤務地でどの職務内容で働かせるかは個別の労働契約で定めなければならないだろう。実際に、職務内容と勤務地は、労働協約と就業規則というよりも、労働契約に定めるのが一般的だと考えらえているが、労働協約や就業規則に定められることもあり得るものである。この場合、完全に労働協約や就業規則に定められた内容と重なれば、労働契約で労働協約や就業規則における当該条項を引用すれば良いが、そうでなければ、労働契約で詳細な職務内容と勤務地を定める必要がある。 ④労働契約期間は、労働契約の絶対的必要事項である。しかし、それぞれの労働者に適用される内容なので、労働協約や就業規則に定めるのは通常とはいえない。ただし、労働協約や就業規則が労働契約期間の種類が定められることがあり得るものである。 ⑤賃金レート・支払時期・支払方法・手当その他⑥昇給及び昇進制度は、確かに労働協約や就業規則の他に、賃金テーブルにも定められるものである。しかし、労働協約や就業規則や賃金テーブルに定められるものは、全体の賃金レート、原則的な支払い時期、一般的な手当、昇給の要件のみにとどまる。具体的な労働関係において、当該労働者の給与額がいくらか、どの手当を受けられるかは、労働契約で定めるものと考えられている。ところで、支払い時期や昇給条件・時期について、労働協約や就業規則と別途に規定する必要がなければ、労働協約や就業規則の規定を参照すれば良いだろう。 ⑦勤務時間及び休日は、上記と同様に、労働協約や就業規則に定めたものと違う場合、労働契約で詳細に定める必要がある。労働協約や就業規則に定めたものと変わらないときには、労働契約で労働協約や就業規則における当該条項を引用すれば良いだろう。なお、繰り返しとなるが、労働契約において労働時間の上限(法律が定める範囲内で)を明記するのが多いとされている。他方で、休暇時間は、勤務中の休憩、週休、有給休暇など様々な種類があるため、労働協約や就業規則で定めたものを労働契約に引用するのが一般的である。 ⑧労働者の労働保護器具は、労働協約・就業規則にある労働安全衛生と関係するものもある。特別な労働器具を要する場合や、会社が賃貸する特定の器具がある場合、労働契約に明確に記載する必要がある。労働安全衛生と関係なく、特別な労働器具を要さない職務内容の場合、この条文は、労働契約で簡単に記載すれば良いと考えられている。例えば、「労働者は、会社の共同施設、設備を使用することができる。」という風に定めれば、法律の要求に合致することとなる。 ⑨社会保険及び健康保険に関する条項は、特別な保険への加入がなければ、「社会保険法の規定に従って社会保険・健康保険に加入する。」という簡単に定めれば問題ないと考えられる。労働協約と就業規則も同様である。むしろ、就業規則の場合、その必要記載事項ではないので、記載されないのが一般的である。 ⑩訓練及び研修についても、労働契約に詳しく定めらないのが一般的である。「法律及び当社の規定に従い行われる。」という旨を大まかに記載すれば十分である。「当社の規定」には、労働協約や就業規則が含まれるので、労働協約や就業規則にそのような条項があれば(必要的記載事項ではないので、存在しない場合もある。)、当該条項が労働契約の内容に組み込まれる。 最後に、労働契約の必要的記載条項ではないが、規定されることが多いものとして、守秘義務条項、競業避止条項、規律処分条項、紛争解決条項、契約更新・終了条項などがある。守秘義務条項、競業避止条項、規律処分条項、紛争解決条項は、就業規則と密接に関わるものなので、就業規則の内容を引用することが多い。個別的に、守秘義務を負う期間・競業避止義務を負う期間をそれぞれの労働者で異なるものを定める必要がある場合、それを労働契約に明記すれば良い。契約の更新・終了は、特段の合意がなければ、「法律に従って行われる」という趣旨を記載すれば良いと考えられる。他方、労働協約や就業規則は契約の更新・終了条項を設けないことが多くみられる。 要するに、労働契約は、労働条件に関する使用者と労働者の間の合意なので、この合意の内容によって、労働契約に具体的に定める規定が異なることになる。単純労働者の場合、個別に合意される内容がそれほど多くないので、労働協約や就業規則の内容を引用するのが一般的である。それと違って、ハイレベルな労働者の場合、様々な実質的合意がなされ得る。この結果として、労働協約や就業規則と異なる労働契約内容も多くなると考えられている。 ベトナム労働法は、就業規則を作成する際に、社内の他の規則を引用することを禁止し、また、制限するものではない。そのため、就業規則の変更に伴う再登録を避けるため、実質的な規定を、就業規則本文ではなく、会社の他の規則に置くことは、可能である。その結果として、論理的に、使用者が会社規則を勝手に変更して、労働者の権利を減少させても、就業規則を再登録する必要がなく、また、労働契約における労働条件が変わったとしても、問題にならない。しかし、そのような規定を持つ就業規則が登録され得るかどうかは、実務上明らかではない。実際に、流用されている就業規則の様式と違って、極めて大まかな就業規則を登記すると、登録当局(労働傷病兵社会局)が受付けないことがあり得るのである。 次に、社内規定と言っても、使用者が勝手に変更できるかどうかも問題となり得る。当該社内規定の変更が、社内労働者の全体に影響を及ぼすため、労働組合は、勝手な変更に対抗することができると解される余地がある。労働者の従来の権利を保障できなくなる会社は、労働組合と積極的に交渉を経て、その合意を得るのが適当であり、労働者の権利を減少させる合理的な理由を持たない会社は、労働組合の了承を得ることが難しいといえる。仮に、何らかの形で、当局を納得させ、登録した後、労働組合の形式的な了承を得た上で、社内規則を変更できたとしても、不満を持っている個人労働者は、労働紛争解決仕組みに基づき労働条件を争うことも可能である。ただし、使用者が法律に違反しておらず、話し合いや調停によって解決できなければ、従来の条件での労働契約については終了するものと解される。 ・労働協約のサンプル:http://ketoanthienung.vn/mau-thoa-uoc-lao-dong-tap-the.htm [1](Thiên Ưng会計会社) 冒頭に:制定根拠、使用者代表、労働者代表の情報(名前、生年月日、性、公民番号、住所等) 第1章:総則 第1条:適用範囲 第2条:施行対象 第3条:協約の期間 第4条:労働組合の活動権の保障に関する使用者の誓約 第5条:企業の就業規則の遵守に関する労働者の誓約 第2章:団体労働協約の内容 第6条:仕事及び仕事の確保 第7条:トレーニング事業 第8条:勤務時間、休憩時間 (*それほど詳しくない) 「当社は、法律の規定に基づき登録された就業規則に従い行う。 (…)労働者は、会社設立記念日にも有給休暇を取れる。」 第9条:給与、賞与、手当、昇給制度 (*詳細に定められる) 第10条:追加金額及び福祉制度 第11条:女性労働者に関する規定 第12条:労働安全・衛生 第13条:社会保険、医療保険、失業保険 第14条:労働組合の活動 第15条:労働紛争 第3章:施行条項 第16条:協約施行責任 第17条:団体労働協約の適用 第18条:協約の効力 最後に:署名 ・就業規則のサンプル:http://ketoanthienung.vn/mau-noi-quy-lao-dong-noi-quy-cong-ty-moi-nhat.htm (Thiên Ưng会計会社) 冒頭に:制定根拠 第1章:総則 第1条:内容及び目的 第2条:適用範囲 第3条:適用、改正、補充 「本就業規則に定められない問題は、労働法及び労働法の案内文書に従 い行われる。 労働法、営業環境、当社の政策の変更によって、本規則の内容は改正・補充され得る。当社は、これらの改正補充を労働傷病兵社会局で登録し、且つ全労働者に通知する。」 第4条:効力 第2章:勤務時間、休憩時間、休暇及び残業 (*以下は詳細に定められる) 第5条:勤務及び休憩時間 第6条:祝日 第7条:年休 第8条:病気休暇 第9条:産休 第10条:有給休暇 第11条:無給休暇 第12条:残業、休日・祝日における勤務 第3章:職場の秩序 第13条:与えられた職務の遂行 第14条:遅刻、早退、個人目的の出掛け 第15条:職場における態度・姿勢 第16条:服装 第17条:禁止される行為 第4章:労働安全・衛生 第18条:使用者の責任 第19条:労働者の責任 第5章:会社の財産・営業秘密の保護 第20条:財産の使用及び保護 第21条:営業秘密の保護 第6章:労働綱紀違反、労働規律処分(=懲戒処分)種類、物的責任 第22条:労働綱紀違反行為 第23条:労働規律処分の原則及び手順 第24条:労働規律処分種類(文書による注意、昇級期間の延長若しくは降格、解雇) 第25条:労働規律処分時効 第26条:規律処分の抹消、規律処分期間の縮減 第27条:仕事の停止 第28条:物的責任 第7章:施行条項 ・労働契約のサンプル:http://ketoanthienung.vn/mau-hop-dong-lao-dong-moi-nhat-nam-2015.htm (Thiên Ưng会計会社) 冒頭に:雇用者と被雇用者の情報(名前、生年月日、性、公民番号、住所等) 第1条:職務内容及び場所 第2条:労働契約の期間 第3条:勤務時間、休憩時間 第4条:労働者の権利及び義務(給与、支払期日、保険等) 第5条:使用者の義務及び権限 第6条:他の内容(手当各種) 第7条:施行条項:「本契約に記載されない問題は、当社の就業規則及び給与・賞与規則に従い行われる」 最後に:署名
ハノイにおけるコロナ感染症対策について
この度ハノイでは、15項目にわたるCovid-19に関する感染予防対策を内容とする公電が発出されました。同内容は多岐に及びますが、各項目を要約すると以下のとおりです。関係項目についてのより詳しい内容については、「CÔNG ĐIỆN(Số: 15/CĐ-UBND)」をご参照ください。 1.ハノイ全域で7月19日よりCovid-19に関する予防措置が講ぜられます。 各市民は、原則として自宅待機が要請され、必要とされるサービスに関する活動、飲食店、薬局店での買い物、救急の場合や診療行為、その他緊急の場合が例外となります。 外出時は、www.tokhaiyte.vn、Ncovi 、Bluezoneアプリ(https://bluezone.gov.vn/)で都度申告を行うことが求められています。 必要とされるサービスとしては、政府機関の活動、スーパー、公共交通機関等が挙げられていますが、それぞれ感染対策を講じることが求められています。 2.工業地区において、工業団地がある区、県に対し、社長、管理者は工場の中 での予防対策を講じる旨指導することが規定されています。 3.区、県の人民委員会委員長の管轄する地域での感染予防対策実施が規定されています。 4.医療部は感染抑止のため、検査、医療設備の準備、医療人事の保証、地方の医療人事の指導を行うことが規定されています。 5.交通運輸局は公共交通機関及びオンライン配送サービスにおける感染予防を指導し、チェックすることが規定されています。 6.産業と貿易部は市場、貿易センター、スーパー等に対し、感染予防を指導することが規定されています。 7.都市公安は区、県などの公安に都市の感染予防又は医療隔離方法を実行しない個人に対する厳格な対処法を指導することが規定されています。 8.農業と農村開発部は産業と貿易部と協力し、地区に必要な需要を保証するために、農業生産及商品配分を保証することが規定されています。 9.ハノイ市場管理部は市場をチェックし、必要な商品の価格上昇の抑止、違反行為を厳格に処理することが規定されています。 10.情報と通信部は医療部と協力し、通信手段で疾病発症の状態について迅速、正確かつ十分な情報を更新し、ウェブ上にて誤った情報、発言がある個人・組織を厳格に罰することが規定されています。 11.区、県などの人民委員会は積極的に働き方を改革し、オンラインによるリモートワークなどを検討することが規定されています。 12.労働者の生活及び安全を保障するために、労働‐傷兵と社会部は関連する機関と協力し、決議番号68/NQ-CPに基づき、労働者及びCOVID-19の影響により、困難な労働者に対する支援方法を展開することが規定されています。 13.ハノイ市ベトナム祖国戦線及び都市政治機関に対し、各政府機関と協力することを要求し、国民に感染予防対策を広げる運動を指揮することが規定されています。 14.国民都市に都市の感染予防対策を奨励することが求められています。 15.生産経営の困難を早急に解決し、都市部のソーシャルセキュリティのために、各級、各業は具体的な感染予防対策を講じることが求められています。
新たに「ホーチミン市におけるCOVID-19に関する規制」が発令されました
6月14日、ホーチミン市人民委員会は、政府首相による3月27日付の指令No. 15 / CT-TTgに従い、2021年6月15日0時よりさらに14日間の社会的距離確保措置継続に関する公文書1931 / UBND-VXを発行しました。 具体的内容は、2021年5月30日、市人民委員会は、ホーチミン市でのCOVID-19の流行抑制に伴い強化対策実施に関する公文書No. 1749 / UBND-VXを発行しました。この対策に基づき、5月31日0時より15日間、市内では指令No. 15 / CT-TTgと指令No. 16 / CT-TTgに従い社会的距離確保措置が適用されます。しかし、デルタ変異株の急速な蔓延に伴い、近時7日間で、ホーチミン市において多くの新症例群が検出されました。流行地域の特定をすることにより、COVID-19を撲滅し新たな感染源を制限するために、市人民委員会は次のような指令が発令されました。 指令第15号/ CT-TTgに従って、2021年6月15日0時よりさらに14日間、市内全体において社会的距離確保措置の延長が決定されました。これにより、集会の制限、個室にて20人以上集まる会議・行事等イベントの制限、職場・学校・病院外で10人以上の集合制限、公共の場所での2メートル以上の安全間隔の確保、生活必需品・サービスを提供する事業以外は商業サービス活動の一時休止、ホーチミン市内、特に流行地域から他の地域への移動制限が実施されます。 ホーチミン市内全域において、スパ、ヘアサロン、マッサージ、カラオケ、アミューズメント、音響施設、映画館等娯楽施設、ショッピングセンター、観光地、モニュメント、美術館、図書館、体育館、フィットネス等の室内スポーツ、公園等での不要不急なサービス、事業は一時的に閉鎖されています。仏塔や寺院での宗教活動や祭典もすべて停止されました。 飲食サービス事業は営業を続けることができますが、テイクアウト又はデリバリー形式でしかサービスを提供することができません。コンビニは引き続き営業できます。営業を続けることができる拠点はすべて防疫規制を遵守する必要があります。 市内の公共旅客輸送、サービス車両は、1 回の運送につき最大で車両容量の 50% 以下、20 人以下の輸送が認められています。 他省への旅客輸送の場合、1 回の移動につき最大容量は車両容量の 50% 以下で、10 人以下の輸送が認められています。 乗用車は、移動前後及び業務終了後等において消毒を行うことが求められています。 社会的距離確保措置が実施されたのち監視等が厳格化しており、通勤時間外、市内の交通量は減少している状況です。通常の娯楽事業や商業施設が閉店となっているため、特に午後7時以降の外出している人数も減少している状況が続いています。テイクアウト、デリバリー飲食店、スーパーマーケット等を除き、他の販売店やショッピングセンターはすべて閉まっている状況です。 事務所やオフィスビルは、防疫対策を徹底しています。 たとえば、ビルに出入りする際に体温と健康申告が義務付けられています、エレベーターや人が多い場所で手指消毒剤が実施され、エレベーターのボタンにはカバーが付けられています。
【更新】「COVID-19の集中隔離に関する規制」の隔離期間がアップデートされました
昨日トピックスにあげさせていただいた情報に引き続き、隔離期間のアップデートがありましたのでご連絡させていただきます。 集合隔離期間が14日間から21日間に変更、その後の自宅待機期間も7日間に変更されましたのでご注意下さい。 また、PCR検査は、集合隔離期間中に少なくとも3回(初日、14日目、20日目)、自宅待機期間中は7日目に実施される予定となっております。 ベトナムの政府機関の更新は、頻繁に行われることがある為、今後の状況につきましては変更があり次第の更新とさせていただきますのでご注意下さい。 原文(番号:600 /CD-BCĐ)は下記になります。 https://luatvietnam.vn/y-te/cong-dien-600-cd-bcd-dieu-chinh-thoi-gian-cach-ly-tap-trung-201691-d6.html
新たに「COVID-19の集中隔離に関する規制」が発令されました
COVID-19感染防止対策として、ベトナム入国後の集中隔離14日間終了後も引き続き14日間の自宅待機が必要との通達が、本日、2021年5月5日保健省より発表されました。 自宅待機の14日間は、アプリによる管理が必要となり、外出の必要な際は、警察、保健所への報告を要しますのでご注意ください。 原文(番号:597 /CĐ-BCĐ)は下記になります。(※5/5 ベトナム時間16時時点のものになります) https://luatvietnam.vn/y-te/cong-dien-597-cd-bcd-thuc-hien-cac-quy-dinh-ve-cach-ly-tap-trung-covid-19-201660-d6.html 【最新版】下記、更新後の原文(番号:600 /CD-BCĐ)になりますのでご注意下さい。 https://luatvietnam.vn/y-te/cong-dien-600-cd-bcd-dieu-chinh-thoi-gian-cach-ly-tap-trung-201691-d6.html
化粧品を日本から輸入する手続について
ベトナムでは、輸入品目規制として大きく3種類の区分があります。輸入禁止物品は、その名称のとおり、品目の輸入を禁じる規制です。特定商品指定品目は、一定の資格などを保有する輸入者に限り、指定品目を輸入できる規制となり、その他条件付輸入品目として、輸入を行う場合には、事前の許可手続などを要する規制があります。化粧品輸入については、この3類型目の事前の許可手続が必要な品目となっており、化粧品の場合には、成分情報開示申請手続が必要となります。成分情報開示申請手続を管轄する省庁は、保健省になります。 保険省通達(No.06/2011/TT-BY)によれば、化粧品を「人体の外部(皮膚、毛髪、手足の爪、唇など)、又は歯若しくは口の粘膜に塗布等し、クレンジング、芳香剤、外見・形式の変更、体臭調整、身体保護若しくは身体を良好状態に保つことを目的として使用されるもの」とされています。これに該当する典型的なものとしては、口紅、パウダー、化粧水、染髪剤などが挙げられ、これらを輸入する場合には、この成分情報開示申請手続を要することとなります。成分情報開示の際に、ASEAN協約(付属書II,III,IV,VI,VII)に挙げられる成分を含む化粧品はベトナムへ輸入できません。例えば、アミノフィリン、テオフィリン、アゼライン酸などが挙げられます。 成分情報開示申請手続では、通常、指定様式の成分情報公開届出用紙、製造者又は製品所有者の委任状及び自由販売証明書(Certificate of Free Sale)が必要とされていますが、日越間の輸入の場合には、CPTTP加入によりCFSの提出は不要となっています。成分情報開示申請手続においては、各製品の成分について詳細を知る必要があるため、製造メーカーとの連携が重要になります。また、成分情報という製品の秘密情報を取り扱うために、秘密情報の保護の在り方なども併せて検討する必要も考えられます。関連して、これら申請は、輸出者ではなく輸入者が行わなければならないため、ベトナムに現地法人を持たない製造者がベトナムに化粧品を輸出したい場合、必然的に他社に成分情報が渡ることになるため、特に注意が必要です。 成分情報開示手続は国家ポータルサイト(Vietnam National Single Window)にて行うことができます。この際に、HSコードに従い、該当するコードごとに必要書類が異なる点に注意が必要です。 成分情報開示申請が行われると、保険省薬品管理局(Drug Administration of Vietnam)は、3営業日以内に商品公表番号を発行することとされています。申請書に不備がある場合は5営業日以内に書面により補正内容等を通知することとされています。この審査においては、製品の内容に応じてサンプル検査を求められる場合もあり、法令で予定されている審査基準期間を大きくずれこむことが少なくないため、申請スケジュールについては、余裕をもって対応する必要があります。 申請手数料は50万ドン(2500円程度)とされており、開示手続後の有効期間は5年とされているため、5年ごとに更新を行わなければなりません。 申請手続が完了すると許可証が発行されます。輸入時には、この許可証を添付書類として税関に提出することで、ベトナムへの輸入が可能となります。注意点としては、市場に化粧品を流通させるためには、ベトナム語の商品ラベルを貼付する必要があり、例えば日本の製品をそのままベトナムで流通させることはできないため、注意が必要となります。
ベトナムの輸出入規制について
ベトナムの輸出入について関連する基本的な法令は、貿易管理法(No.05/2017/QH14)、関税法(No.54/2014/QH13)とこれらに基づく各種政令となります。 ●ベトナム現地法人が輸出入を行うためには ベトナムでは、輸出入を行う範囲であれば特別なライセンスを取得する必要はありません。現地法人を設立する際に、IRC取得手続及びERC取得手続が必要となりますが、これらIRC及びERC取得申請時に行う事業内容として、輸出・輸入事業を行うことを明記することで輸出入業が可能となります。 若干の注意点としては、輸入後、ベトナムでの国内小売事業までを事業範囲として想定する場合は、上記のIRC及びERC対応のみならず、更に個別の小売事業ライセンスが必要となります。また、輸入物品等については、特別の規制がある場合もあるため、個別のケースにおいては、そのような規制がないか注意を払う必要があります。 ●輸出入で扱える品目とその手続 ベトナムでの輸出入については、関連政令(No.69/2018/NĐ-CP)により、輸出入が禁じられている物品としての①輸出入禁止品目、特定の属性を持つ企業等であれば輸出入を行うことができる②特定商人指定品目、輸出入に関し許認可を取得すれば輸出入が可能となる③要許認可品目、④規制がない一般品目に区分されています。 輸出入禁止品目には、武器、軍事関連物品、花火各種、電化製品や医療器具などの特定の中古消費財などが挙げられ、その他、右ハンドル車、特定の化学製品、動植物などが挙げられます。特定商人指定品目には、効果貨幣を製造するための金属、紙、インク、機械などの物品、タバコ、葉巻などが挙げられます。要許認可品目の例は多く、ベトナム国内に生息していない農作物、植物種子類、化粧品類や食品類などが挙げられます。輸出入禁止品目以外においては、輸入に先立つ許認可が必要であり、輸出入時には通常必要となる書面に加え、これら許認可を得ていることを示す書類も必要となります。 ●通関時の書類 ベトナムでの輸入通関で必要となる書類として、次のようなものが挙げられます。 輸入申告書(原本2通:財務省通達38/2015/TT-BTC号に様式が定められています)コマーシャルインボイス又はこれに準じる書類(写し1通)船荷証券又は運送に関する他の証明書輸入許可証(写し1通)、検査証明書(原本1通)(検査免除通知、検査結果又はこれに準じる書類)価格評価申告書(原本2通:評価申告が必要になる場合と評価申告の様式は通達39/2015/TT-BTC及び通達60/2019/TT-BTCに様式があります)特別優遇関税率を受けるために原産地証明書(CFS)の提出が求められる場合など、原産地証明書(原本1通) ●税関手続 税関は法令上、通関書類提出後、2時間以内(業務時間に限る)に提出書類を確認しなければならないこととされており、輸入品を直接検査する必要がある場合は、8時間以内に物品検査を行うこととされています。
2021年版 ベトナム入国サポートサービス
2021年も引き続きコロナ禍により、ベトナムへの入国が困難になっております。昨年に引き続き、弊所は日越ビジネスを停滞させないため、ベトナムへの入国を希望する方へのサポートを行ってまいります。サポート詳細については、パンフレットをご参照ください。 https://www.meilin-law.jp/vn/wp-content/uploads/2021/02/2229f04bf7fbcd7cc0dd6ae7be4a35ea-1.pdf
総会サポートサービス
この度、ベトナム現地法人運営負担をより軽減し、よりガバナンス機能向上につなげるための新サービスを提供することとなりました。当サービスでは、現地総会運営ご担当者様に必要な法務ノウハウを余すことなくご提供させていただき、総会運営の自走化ができるリソースづくりをご提供いたします。また、総会手続に必要となる日越語の資料について、弁護士目線から作成された書類一式をご提供することで、安心かつ無駄のない運営リソースをすぐに手に入れることができます。また、2021年からの新企業法にも対応しており、コロナ禍の影響で需要の高まるリモート総会開催にも対応しております。ぜひ御社のガバナンス機能の向上に本サービスのご利用をご検討ください。本サービスについてのお問い合わせ、ご質問はお気軽にどうぞ。 https://www.meilin-law.jp/vn/wp-content/uploads/2021/02/0aba192775d96628a1e58d25a93a29af.pdf
ベトナムにおけるCovid-19関連の各政府政策Report
今日ベトナムにて報道されておりますCovid-19と隔離などの状況について、状況整理レポートを作成いたしました。ベトナム全体の政府対策に加え、ハノイ、ホーチミンの施策状況を簡単に確認したい場合などに是非ご活用ください。 https://www.meilin-law.jp/vn/wp-content/uploads/2021/02/covid-19.pdf
ベトナムにおける広告規制の概要
ベトナムにおける広告活動は、広告法(No.16/2012/QH13)、広告法を含む修正法(No.35/2018/QH14)及び関連政令により規定が置かれています。関連政令の例としては、広告法の詳細を定める政令(No.181/2013/ND-CP)、文化・スポーツ・観光及び広告分野における行政処分に関する政令(No.158/2013/ND-CP)などがあります。その他にも、2004年競争法、2005年商法、2013年土地法、2013年建設法等の特別法においても、広告活動に関する規定があるため、広告内容によっては、これら特別法における規定にも注意を払う必要があります。 なお、広告活動のうち、事業者が自ら行う広告活動については、事業者自らが決定した方法により自己の商品、役務について広告を行うことができますが、その場合でも広告内容に関する規定への適合性が必要です(広告法第12条)。 広告活動の詳細について、法は広告手段として、新聞、ウェブ、印刷物をはじめとする種々の広告手段を認めています。他方で、広告の内容としては、次のようなものが禁止対象とされています。 営業禁止商品、役務タバコ、アルコール15度以上の酒類24か月未満の幼児に対する母乳代替乳製品6か月未満の幼児に対する栄養補助製品哺乳瓶又は哺乳瓶の乳頭、処方用医薬品や医師の監督を要する医薬品性的刺激商品猟銃及びその弾丸スポーツ武器、並びに暴力刺激製品・商品政府により定められる他の製品・商品・役務 このほか、ベトナム国家の独立・尊厳・国旗・国歌・党旗や組織・個人の名誉・威信を損なう広告が禁じられ、特に注意が必要なものとしては、他の組織・個人の同種の商品、役務と直接価格、品質、効果などを比較する比較広告、「第一」、「唯一」、「最良」、「最高」又は同様の意味を有する他の言葉を利用する広告等も禁止されている点に注意が必要です。 広告活動において、近時発展している電磁的な方法を用いた広告には、これに応じた規制があります(No.91/2020/ND-CP)。 電話や電子メールによる広告は、個人のプライバシーや権利を保護するため、一度拒絶された場合の再度広告などは行政処分を受けることになります。この他、広告の言語や広告手段ごとの詳細な条件も定められています。 例えば、テレビで広告する場合、ドラマを放映している際は、2回までしか広告できず、1回の広告で5分を超えてはならないとされています。 ゲームショーを放送している場合、4回までしか広告できず、1回で5分を超えてはならないとされています。 ウェブサイトで広告する場合、広告内容が固定されていないときは、読者が1.5秒以内に当該広告を開閉できるように設定しなければならないとされています。 広告内に対する規制としては、一般広告と特別広告の区別に従って規制が置かれています。一般広告(特別広告に該当しない場合)に対しては、内容に対する規制は特段置かれていません。 医薬品等の指定された内容の広告に属する場合、政府当局に広告許可証を申請し、その内容に関する事前審査を受ける必要があります。このような広告許可証を必要とする製品、商品、役務は、医薬品、化粧品、化学物製品、子供用栄養食品、食品・食品添加物、健康診断病気治療サービス、医療設備、農薬、獣医薬等が挙げられます(広告法第20条4号)。 広告規制に違反した場合、民事上の損害賠償責任を負うほか、行政処分、或いは刑罰が予定されています。 行政処分では、広告禁止商品、役務について広告した場合、4千万ドン(約20万円)から1億ドン(約50万円)までの罰金が定められています(政令158/2013/ND-CP号第50条)。知的財産法に違反した広告、個人の同意を得ずに、その映像・発言等を利用した広告の場合は、2千万ドン(約10万円)から3千万ドン(約15万円)までの罰金(政令158/2013/ND-CP号第51条2項)、広告にベトナムドンのイメージを使うと、5千万ドン(約25万円)から7千万ドン(約35万円)の罰金が規定されています(政令158/2013/ND-CP号第51条5項d号)。 刑事責任については、詐欺的な広告罪は、2015年刑法(2017年改正)の第197条によれば、罰金(最大1億ドン)、3年以下の非拘束矯正、1年以上5年以下就業禁止が定められています。なお、当該広告が詐欺罪に該当する場合、無期懲役まで発展する可能性があるため非常に注意が必要です(刑法第174条)。 実際の例として、医療サービスや化粧品に関する広告が広告法に違反した事案での処分された事例が目立ち、広告許可証を受けていない化粧品広告で、3千万ドンから3千5百万ドンまで(約16〜17万円)、経営登録証に書いている分野と違う事業の広告で1千2百50万ドン(約6万円)の罰金を科される事例が確認されています。
ベトナムにおける消費者保護法制の概要【後編】
ベトナムにおいて、消費者権利保護法(No.59/2010/QH12)は、2010年から制定され、消費者保護の基本的な法規範文書となっています。他方、消費者保護に関しては、個別の事例に応じて、食品安全法(2018年改正版)、広告法(2012年)、商法(2005年)、競争法(2018年)など様々な特別法を参照する必要もある点に留意が必要です。 この記事では、消費者保護法の中で、事業者側が違反時に負う責任等を紹介します。 事業者が提供する商品の欠陥により消費者の生命・健康・財産に損害を与えた場合、事業者は原則として無過失責任としてその損害を賠償する義務を負っています(消費者保護法第23条)。この賠償責任は、商品提供時の科学技術レベルでは商品の欠陥を発見できないとされた場合に初めて賠償義務が免じられるものです(消費者保護法第24条)。 このような商品に欠陥が認められる場合の事業者の責任は、損害賠償義務にとどまるのみならず、可能な限り市場に流通している商品の流通を停止させるための措置を講じなければなりません。具体的には、新聞等において連続した5日間の間、次のような項目を公表する必要があります。 回収しなければならない商品の詳細商品の 回収理由及び欠陥商品によって起こる損害の警告商品回収の時間・場所・方法欠陥商品の改善の時間・方法商品回収中の消費者権利保護における必要な方法 このとき、事業者は、欠陥商品の回収を告知内容のとおりに実施し、回収において発生した全ての費用を負担しなければなりません(消費者保護法第22条)。 他方、事業者の商品の欠陥により被害を被った消費者は、自ら事業者に対して訴訟を提起するほか、消費者権利保護機関(中央レベルでは商工省。省レベルでは商工署。県レベルでは、県により異なるが、商工課若しくは労働・傷病兵・社会課が多い傾向にあります。)にその保護を要請することもできます。 消費者の要請を受理した県レベルの国家管理機関は、消費者と事業者それぞれに対して、説明及び情報の提供を要請し、法律の規定に従って処理するために自ら調査、情報・証拠を収集することになります。 県レベルの国家管理機関は、商品・サービスを販売・提供する組織・個人が消費者の権利侵害があったとの判断に至った場合、違反内容、回復方法、回復方法の実施期限、行政処分の方法など内容を含む書面によって、消費者の権利保護要請に対する回答をしなければならないとされています。ここでいう回復方法は、対象商品等のリコール、解体や商品、サービスの提供の停止、違反した組織・個人の事業停止又は一時停止、商品・サービスを販売・提供する組織・個人に対して、約款、取引一般条件における消費者の権利を侵害する条項を削除させることを含みます。 これに加え、複数回違反した商品・サービスを販売・提供する組織・個人は、消費者の権利を侵害した商品・サービスを販売・提供する組織・個人リスト追加されます(消費者保護法第26条)。もっとも、当該リストはあくまで行政内部のもので、公開されることが予定されているものではありません。 法令の運用状況について、統計指数等が公表されていない状況です。これは、消費者保護を管轄する行政庁が業種ごとに分かれているため、全体の統計が出しづらいことが影響しているのだと考えられます。もっとも、商工省競争及び消費者権利保護管理局からは、年次報告において、当該年度の苦情や異議申立の受付に関する情報及び代表的な事案が公開されています。 2019年においては、568異議申立書を受付とされており、特に消費者の情報保護規制に違反したことに由来するものが最多となっています(36%)。続いて、契約締結規制に違反(22%)、事実と違った情報の提供(16%)、契約に正しくない商品の品質・配達の時間(12%)が挙げられています。 行政罰としては、消費者権利保護分野における最大罰金額は2億ドン(約100万円)となっています(政令98/2020/ND-CP号)。関連して別途当該行為が偽製品に関する罰条に抵触する場合は、その責任は4億ドン(約200万円)になりうる点に注意が必要です。 ベトナムにおける消費者保護関連において民事訴訟が提起される頻度はさほど高くなく、行政処分等に消費者保護の重きが置かれている点が現在の運用になるかと思われます。しかし、今後の権利意識の向上に伴い適正な運用が図られるであろう中で、各種事業者に求められるコンプライアンス体制がますます必要となっていくでしょう。
ベトナムにおける消費者保護法制の概要【前編】
ベトナムにおいて、消費者権利保護法(No.59/2010/QH12)は、2010年から制定され、消費者保護の基本的な法規範文書となっています。他方、消費者保護に関しては、個別の事例に応じて、食品安全法(2018年改正版)、広告法(2012年)、商法(2005年)、競争法(2018年)など様々な特別法を参照する必要もある点に留意が必要です。 この記事では、消費者保護法の中で、消費者と契約を締結する場面で問題となる条項等を紹介します。 消費者保護法の保護の一つに、消費者の情報保護規定が置かれている点がまず注目されます(消費者保護法第6条)。なお、本法でいう消費者とは、個人等が、消費又は生活目的で商品を購入し、サービスを利用する場合を指しています(消費者保護法第3条1項)。 本条では、事業者が商品取引やサービスを利用した際に、消費者の情報が保護されることを明記しており、消費者情報の収集、使用目的の通知、目的内の使用、情報収集、使用、譲渡時の安全性及び正確性の確保、消費者自ら情報修正措置を講じることができるようにすること、原則として消費者情報の第三者提供の禁止などを規定しています。 また、事業者としては、消費者との契約の場面で、明確で分かりやすい契約書を作成し、契約言語を原則としてベトナム語にすること、その他電子的取引の場合には商品・サービスを販売・提供する組織・個人は、契約締結前に消費者が契約書を全て読めるような環境提供しなければならない(消費者保護法第14条)などの義務を負っています。 契約条項の解釈の場面では、解釈が分かれる場合、消費者側に有利な解釈をするものとされている点にも注意が必要です(消費者保護法第15条)。 契約内容については、次のような場合には契約が無効となるとされています。 商品・サービスを販売・提供する組織・個人の責任が排除される場合 e.g.「本製品の使用により乙(消費者)の健康・財産が損害される場合にも(売主)はその責任を負わない」旨の条項 消費者の提訴・起訴権が制限・排除される場合 e.g.「本契約に起因するあらゆる紛争は、(売主の所在地である)X地方裁判所だけで訴えることができる」旨の条項 消費者が、契約書に詳細な記述がない商品・サービスを購入・利用した場合において、商品・サービスを販売・提供する組織・個人が、事前に承認した契約書の条件、又は商品・サービスの販売・提供における規則・規定を一方的に変更可能とする場合 e.g.「本基本契約は、甲の事情により変更されることがあり得る。この場合に、甲は、履行日から30日間前に変更内容を公開するものとす る」旨の条項 商品・サービスを販売・提供する組織・個人が一方的に義務を果たさない消費者を判断する場合 e.g.「甲(売主)の判断により乙(買主・消費者)がその義務を履行しなかったとみなされるとき、甲は契約を解除することができる」旨の条項 商品・サービスを販売・提供する組織・個人によって、商品納品・サービス提供の時点で価格が設定又は変更された場合 e.g.「本契約製品の価格は、甲により、市場価格の変動に伴い、引渡の時点で変更され得る」旨の条項 契約書の内容の解釈を商品・サービスを販売・提供する組織・個人のみが行う場合 e.g.「本契約の条項に関して、当事者間の理解が異なる場合は、甲(売主)の理解を正解の解釈とみなす」旨の条項 商品・サービスを販売・提供する組織・個人が第三者を通して商品・サービスを販売・提供する場合において、商品・サービスを販売・提供する組織・個人の責任が規定されていないとき e.g.「丙により販売される甲の製品の使用により乙の健康・財産が損害される場合にも、甲はその責任を負わない」旨の条項 商品・サービスを販売・提供する組織・個人が自分の義務を果たさないのに対して、消費者は自分の義務を果たなければならない場合 e.g.「甲が本契約に定まる義務を履行していなくても、それは乙の代金支払義務を免除する理由にならない」旨の条項 消費者の承認がなくても商品・サービスを販売・提供する組織・個人の権利・義務が第三者へ譲渡される場合 e.g.「本契約に定める甲の権利義務は、乙の同意がなくても、第三者に譲渡することができる」旨の条項 訪問販売の場合は、クーリングオフ期間が設けられており、その期間は3日間とされています。そのため、訪問販売契約の締結の場合は、買主(消費者)は3日以内に契約を一方的に解除することができることになります。なお、政令によりこの期間内に、売主は、買主に対して支払いや義務履行を求めてはいけない(政令99/2011/ND-CP号第19条)とされています。 訪問販売時以外の場合は、クーリングオフ制度の適用はありませんが契約締結までの流れにおいて売主に多くの義務(説明義務や契約条項研究期間設定義務や約款登録義務など)を規定することで対応が図られています。