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ベトナムの進出のための情報や、コンプライアンスや契約・紛争などの進出後の問題、基本的な規制や最新の法改正など幅広い情報を提供します。

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不動産コラム③ 弁護士が解説する 【失敗しないベトナム不動産投資】外国人(日本人)がベトナム住宅を購入、所有する際の法制度と仕組み

2021/10/14  

目次

はじめに

  1.  ベトナム住宅の購入、所有をすることができる外国人の資格
  2.  外国の個人・組織のベトナム住宅所有に関する制限

   2.1.外国の組織・個人が所有できる住宅の条件

   2.2.住宅所有期間

3. ベトナム住宅を購入する際に必要となる法律・制度についての基礎知識

   3.1 住宅所有のプロセス

   3.2.ベトナムにおける住宅所有の際のその他の注意事項

終わりに

はじめに

現行住宅法(法律No.65/2014/QH13)は、2014年11月25日に国会(第13期第8回会議)において承認されました。改正前の2005年住宅法(法律No.56/2005/QH11)と比較して、現行住宅法は大きく進歩したと評価されています。大きな改正内容の一つは、初めて、外国の組織・個人がベトナムにおいて住宅を所有できることが公式に認められたことです。

ベトナムに入国する外国人の増加に伴い(入国管理局の統計によると、2014年から2016年までの期間において、毎年のベトナムへの入国者数は800万人から1000万人の間で推移しています)、ベトナムでの外国人労働者の人数も2015年の83,500人から、2019年7月92,100人に増加しました。このような状況を踏まえ、以下のような目的で、外国人のベトナム住宅の所有権が、法律で認められました。

ⅰ.ベトナムで定職を持ち生活している個人・組織のための長期的な住まいの問題を解決すること

ⅱ.ベトナムと外国の組織・個人との間の長期的かつ持続可能な関係を強化すること

ⅲ.商業住宅の高級セグメントの市場を拡大すること

ⅳ.投資リソースを誘導し、国家を発展させ、経済統合を推進すること(外資系企業のベトナム住宅開発を促進すること)

1.住宅の購入、所有をすることができる外国人の資格

ベトナム住宅法159条1項の規定によって住宅を所有することができる外国の組織・個人の資格は、以下のとおりとなります。

ⅰ.この法律及び関連法令の規定に従い、ベトナムにおいて、プロジェクトによる住宅の建築投資をする外国の組織・個人

ⅱ.ベトナムで活動している外資系企業、外国企業の支店・駐在員事務所、外国  投資基金・外国銀行の支店

ⅲ.ベトナムへ入国できる外国の個人

上記対象者(i)は、住宅建築プロジェクトへの投資という形を通じて、住宅を所有する形態です。

対象者(ii)は、ベトナムにおいてベトナム法に従い設立され活動している企業・組織(外国投資企業、支店、駐在員事務所、外国投資基金など)でなければなりません。これらの企業・組織は、ベトナムにおける活動許可を証明するため、投資登録証明書又は他の関連証明書(活動許可書、活動登録証明書等)を取得しなければなりません。また、この対象者は、自社の管理職・従業員のための居住を目的とするか、不動産事業を行うことを目的とする場合に限り、住宅を所有することができます。

対象者(iii)は、ベトナムへ入国する資格のある外国の個人です。ただし、法律規定に従い、外交・領事館の特権及び免税を受ける資格のある外国人は除かれます。外国の個人は、購入予定の住宅の所在地において、一時的又は恒久的な在留を登録する必要はありません。外国の個人がベトナムへ入国できる対象かどうかは、その個人の有効なパスポートにある入国証印シールを通じて表示されます。

2.外国の組織・個人のベトナム住宅所有に関する制限

2.1.外国の組織・個人が所有できる住宅の条件

ⅰ.住宅形態の条件

 外国の組織・個人が所有できる住宅は商業住宅建築のプロジェクトによる共 同住宅及び/又は個別住宅でなければなりません。

ⅱ.地域の条件

 外国の組織・個人が所有できるのは安寧・国防保障(国家安全保障)地域に所属しない地域です。

ⅲ.所有できる軒数の条件

住宅の形態所有できる軒数/率その他
共同住宅 (混合使用目的の共同住宅を含みます)住宅の総軒数の30%を超えない数地区級行政単位に相当する人口のある地域において、販売・賃貸・購入のための住宅が複数ある場合、外国の組織・個人が所有できる数は、一軒の共同住宅の総軒数の30%を超えず、又は全ての共同住宅の30%以内に制限されます。
個別住宅 (半戸建住宅、個別住宅、別荘を含みます)プロジェクトごとによる個別住宅の総軒数の10%を超えず、最大250軒を超えない数2500軒以下の一つのプロジェクトである場合には、外国の組織・個人が所有できる数は当該プロジェクトの個別住宅の総軒数の10%を超えない範囲となります。一つのプロジェクトが2500軒を超えるものである場合には、外国の組織・個人が所有できるものが最大250軒を超えないものです。

2.2住宅所有期間

  • 外国の個人の場合

外国の個人の住宅所有期間は、購入、買受特約付賃貸、受贈、相続の際の合意文書に基づいていますが、住宅所有権証明書の発行日から50年間を超えてはいけません。したがって、個人が不動産事業者からはじめて住宅を購入する場合、初回の所有期間は最大で50年間です。外国の個人が、他の外国の個人から住宅の譲渡を受ける場合、所有期間は住宅所有権証明書に記載された残りの期間となります。

上記の住宅所有期限切れの前に、所有者は延長する権利を有します。延長手続は、住宅所有期限の3ヶ月前から期限までに行わなければなりません。省級人民委員会は、所有者からの要請書を受けた時点から30日以内に、所有者の要請に応じて、住宅所有期間を一回延長することを検討し、書面で同意しますが、住宅所有権証明書に記載された住宅所有権の最初の期限から50年間を超えられません。つまり、延長期間を含め、最大100年間、所有することができます。

ベトナム人又は海外に滞在するベトナム人と結婚する外国の個人は、安定・長期的に住宅を所有し、ベトナム人と同じような住宅所有権を持つことができます。

  • 外国の組織の場合

外国の組織の住宅所有期間は、購入、買受特約付賃貸、受贈、相続の際の合意に基づいていますが、その組織に発給された投資証明書に記載された期限(延長期間を含む)を超えてはいけない上、住宅所有期間は、組織の住宅所有権証明書の発行日から計算され、所有証明書において明確に記載されます。

上記の住宅所有期限切れの前に、所有者は延長する権利を有します。延長手続は、住宅所有期限の3ヶ月前から期限までに行わなければなりません。省級人民委員会は、所有者からの要請書を受け付けてから30日以内に、所有者の要請に応じて住宅所有期間を一回延長することを検討し、書面で同意しますが、住宅所有の延長期間が権限を有するベトナムの機関により発行された投資登録証明書に記載された活動期限を超えてはいけません。

  • 住宅所有期限切れの場合の処理方法

住宅所有期限切れ(延長期間を含む)の前に、所有者は、ベトナムにおける住宅を所有する資格のある対象者に、住宅を売却又は贈与することができます。住宅所有期限を過ぎても、所有者が売却又は贈与しなかった場合、その住宅は国の所有物となります。

3.住宅を購入する際に必要となる法律・制度についての基礎知識

3.1 住宅所有のプロセス

上の図のステップでは、次のようにいくつかの問題に注意する必要があります。

ステップ1:外国の組織・個人は、自分で情報を確認できない場合、住宅建築プロジェクトの事業者又は不動産仲介会社に、その確認作業を依頼することができます。ただし、利害関係を有するなどの理由で、住宅建築プロジェクトの事業者又は不動産仲介会社の独立性と正確性について疑義がある場合には、独立の第三者である法律事務所や法務コンサルタント等に委託する方が望ましい場合があります。

ステップ2・ステップ3:通常、プロジェクト事業者との契約締結は、全ての住宅購入者に適用される定型の契約書に従ってなされます。しかし、住宅売買取引は大きな取引でもありますし、条件等についてはそれぞれ個別の設定が可能ですので、買い手となる外国の組織・個人としては、法律を遵守し、リスクを防ぎ、買手(外国の組織・個人)に有利な条件を確保するため、住宅建築プロジェクトの事業者との契約においては、弁護士又は法務コンサルタントに関与を依頼することが推奨されます。

ステップ4:このステップは、プロジェクトの事業者及び譲渡、贈与、相続した組織・個人が行います。

ステップ5:住宅所有者に証明書を発行するための手順と手続は、土地に関する法律の規定に従って行われます。住宅プロジェクトの事業者は、購入者のための証明書発行申請手続を行う責任があります。購入者が自主的に証明書発行申請手続を行う場合、事業者は購入者が各手続を行うために、売買の住宅に関する法的書類を提供しなければなりません。外国の組織・個人が自主的に証明書発行申請手続を行うことを選択する場合、専門の第三者にこの手続を委託することができます。

3.2.ベトナムにおける住宅所有の際のその他の注意事項

弊所明倫国際法律事務所は、ハノイとホーチミンに事務所を有し、ベトナム住宅を購入しようとする多くの日本人の方々に、様々なサポートを提供させていただいてきましたが、その中でも、以下のような点についてトラブルや誤解が多いため、特に注意を促したいと思います。

  • ベトナムでは、資本を調達するため、事業者が銀行に抵当権を設定する住宅建設プロジェクトが少なくありません。したがって、手付を交付する前に、外国人に対し、ベトナムにおいて住宅所有の条件を確認することに加え、住宅を譲渡する際にも、抵当権抹消の条件と手続を確認する必要があります(事業者が既に抵当手続を行った場合)。
  • 外国の組織・個人は、預金契約書及び住宅購入契約書に基づいて、預金及び住宅購入金額を事業者に送金しなければなりません。外国為替管理法律の規定により、外国の組織・個人は取引金額の出所を証明する必要があります。組織や個人が銀行を使わず取引をしたり、金額の出所を証明する根拠を提出できない場合、賃貸からの利益又は住宅譲渡で得た収入を、海外に移転することが困難になります。
  • ベトナムにおける財産所有(住宅所有)は、ベトナムへの企業投資と同様ではありません。したがって、住宅を購入した後の外国の個人は、住宅を所有したことのみを根拠にしてビザやベトナムでの長期滞在資格を申請することができません。

終わりに

現在の住宅法の施行から5年以上が経過した今日、ベトナムにおいて住宅を所有する外国の組織・個人の数は大幅に増加しました。2015年7月から2020年7月までの5年間におけるホーチミン地域の最大手不動産企業17社(推定数によると約70~80%の市場シェアを占める)を対象とする統計によれば、外国の組織・個人に譲渡された一軒家やアパートの総軒数は12,335軒です(ホーチミン市の不動産協会(HoREA)が発表したデータより)。一方で、不動産専門家によれば、外国人による住宅取得数はいまだ少数にとどまり、最大でも市場取引の総件数の2%に過ぎないと予想されています。外国の組織・個人の購入率が低い原因の一つとして、住宅法が公布された初期の段階では、法的メカニズムが明確ではなく、国家機関、不動産事業者や住宅の買い手は不慣れな状況で取引を行う恐れがあることが挙げられました。現在は、法的問題がほぼ解決されたため、安心してベトナム住宅を取引することが可能だと考えられるため、今後、外国人による住宅の取引の活躍が期待できます。