ベトナム労働法における解雇制度について
1 法定解雇事由について
現在、ベトナムでは、2019年労働法及び政令No.145/2020/NĐ-CP号等の詳細規定により、解雇に関する内容が詳述されている。
法定の解雇事由は、次の通りである(労働法第125条)。すなわち、①労働者が職場で窃盗・横領・賭博、故意に基づく傷害の惹起・麻薬使用をする場合②労働者が、就業規則に規定されている使用者の営業機密・技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為、使用者の財産・利益に関して重大な損害を惹起する行為、若しくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為、又は職場でのセクシャルハラスメントを行う場合③昇給期間の延長又は免職の懲戒処分を受けた労働者が、懲戒処分が解消されない期間内に再犯をする場合(再犯とは、労働者が、労働法126条の規定に従った懲戒処分解消がなされていないのに懲戒処分された違反行為を再度おこなうことをいう。労働法126条によれば、引き続き労働規律違反がない場合、処分の日から戒告処分を受けた労働者は3か月後、昇給期間の延長の懲戒処分を受けた労働者は6か月後、免職の懲戒処分を受けた労働者は3年後に、当然に懲戒処分は解消される。)④労働者が、正当な理由なく、30日間に合計5日、又は365日間に合計20日、仕事を放棄した場合、である。日数は仕事放棄の最初の日から計算される(正当な理由があると看做される場合は、自然災害・火災・権限を有する医療機関の確認がある自らの病気・親族の病気及び就業規則が規定するその他の場合である。)(労働法125条)。
上記の内、実務上は④による解雇が多いとされている。④の要件の内、「正当な理由」という要件は規範的なものであるが、裁判実務では、この要件を限定的に解釈する傾向にある。例えば、ビン・ズオン省人民裁判所の2018年11月27日付判決30/2018/LĐ-PT号[1]では、労働者が病気に罹患し、病院がそれを証明する書面を発行していても、会社の就業規則に従い休暇届けを出さずに、出勤しなかった場合には、仕事を放棄したこととして、解雇決定が適法だとみなす旨の判断がなされた。
また、ホーチミン市人民裁判所の2018年11月30日付判決出社しないように一般実務では、これを広く1158/2018/LĐ-PT号[2]及びビン・ズオン省人民裁判所2019年8月6日付判決06/2019/LĐ-PT号[3]においては、社長が、労働者とのメールやり取りの中、今後労働契約の終了若しくは解雇を言及するとき、労働者が労働契約の終了や解雇の正当性を交渉・検討できていないにも関わらず、休暇届を提出せずに出社しない場合、正当な理由なく仕事を放棄したとみなされる旨を判断している。他に、使用者から不適法な解雇決定を受けた労働者が直ちに出勤しなくなる場合にも、(そもそも適法な解雇決定が存在しないため)解雇決定の取消請求を認めず、仕事の放棄について労働者に責任があるとして、賠償請求が認められない旨の判断がなされたものもある(ビン・フオック省ドン・フー県人民裁判所の2019年5月17日付判決01/2019/LĐ-ST号)[4]。
これらの事件につき、(労働者によれば)労働者が出社する際に、使用者の雇用する警備員に入館を差し止められた旨の主張がなされているが、裁判所は、それらの証拠がないものとして、その旨の主張を認めなかった。他方で、ビン・ズオン省人民裁判所の2018年11月20日付判決29/2018/LĐ-PT号では、労働者に対して今後出社しないように命ずる社長のメールを提出し、その証拠等により、仕事の放棄が認められず、解雇決定が違法だと判断している[5]。
[1] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/14Ngh%E1%BB%89-%E1%BB%91m-c%C3%B3-x%C3%A1c-nh%E1%BA%ADn-c%E1%BB%A7a-B%E1%BB%87nh-vi%E1%BB%87n-nh%C6%B0ng-kh%C3%B4ng-l%C3%A0m-%C4%91%C6%A1n-xin-ph%C3%A9p-g%E1%BB%ADi-C%C3%B4ng-ty.-C%C3%B4ng-ty-sa-th%E1%BA%A3i-%C4%91%C3%BAng-ph%C3%A1p-lu%E1%BA%ADt.pdf
[2] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/08/4C%C3%B4ng-ty-kh%C3%B4ng-sa-th%E1%BA%A3i-m%C3%A0-%C4%91u%E1%BB%95i-kh%C3%A9o-b%E1%BA%B1ng-email-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-kh%C3%B4ng-ti%E1%BA%BFp-t%E1%BB%A5c-%C4%91i-l%C3%A0m.-T%C3%B2a-%C3%A1n-b%C3%A1c-y%C3%AAu-c%E1%BA%A7u-b%E1%BB%93i-th%C6%B0%E1%BB%9Dng-c%E1%BB%A7a-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng.pdf
[3] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/13C%C3%B4ng-ty-kh%C3%B4ng-sa-th%E1%BA%A3i-m%C3%A0-%C4%91u%E1%BB%95i-kh%C3%A9o-b%E1%BA%B1ng-email.pdf
[4] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/19Quy%E1%BA%BFt-%C4%91%E1%BB%8Bnh-sa-th%E1%BA%A3i-do-tr%C6%B0%E1%BB%9Fng-ph%C3%B2ng-k%C3%BD-kh%C3%B4ng-%C4%91%C3%B3ng-d%E1%BA%A5u.-Nh%C3%A2n-vi%C3%AAn-%C4%91%E1%BA%BFn-l%C3%A0m-th%C3%AC-b%E1%BA%A3o-v%E1%BB%87-kh%C3%B4ng-cho-v%C3%A0o-n%C3%AAn-ngh%E1%BB%89-vi%E1%BB%87c.pdf
[5] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/22C%C3%B4ng-ty-sa-th%E1%BA%A3i-v%E1%BB%9Bi-l%C3%BD-do-NL%C4%90-t%E1%BB%B1-%C3%BD-b%E1%BB%8F-vi%E1%BB%87c-05-ng%C3%A0y-c%E1%BB%99ng-d%E1%BB%93n-trong-th%C3%A1ng.pdf
2 解雇が無効と判断された事例について
無効だと判断された解雇決定の多くは、法定手続(解雇のために労働者と使用者で会議をする必要があるなど)を遵守しなかったことに起因する。例えば、ビン・ズオン省人民裁判所の2019年8月21日付判決07/2019/LĐ-PT号[6]では、労働者が会社の財産を横領した証拠があったとしても、適法な手続を経た解雇決定を行うのではなく、単に労働者を解雇する旨の通知をしたにとどまる場合について、解雇を無効と判断した。また、解雇について関係者に通知せず、解雇会議を開かず、又は労働者が1回目の会議に欠席しても、解雇決定を労働者の弁明を確認せずにおこなうことは、労働法に違反すると解されている(ドン・ナイ省人民裁判所の2018年11月05日付判決17/2018/LĐ-PT号[7]、ハノイ市人民裁判所の2018年7月18日付判決13/2018/LĐ-PT号[8])。ただし、使用者が解雇処分のための会議の実施日の3営業日前に通知したが、労働者が会議に出席し、異議を申し立てなかった場合、解雇決定が適法と解されている(ホーチミン市人民裁判所の2019年4月22日付判決352/2019/LĐ-PT号[9])。このように、解雇処分を行うとき、会社側は手続上の規定に特に注意する必要があると考えられる。
解雇決定が無効と判断された場合について、その後の取り扱いは、他の使用者の違法な一方的労働契約終了の場合と同様に処理される。具体的には、使用者は、労働者が締結済みの労働契約に従って再び働くことを受け入れなければならない。また、使用者は、労働者が働くことができなかった日数の賃金・社会保険・医療保険・失業保険を支払い、労働契約に従った賃金の少なくとも2か月分を労働者に追加で支払わなければならない。勤務再開のあと、労働者は退職手当・失業手当を受領済みである場合は使用者に対してそれら手当を返還する必要がある。締結済みの労働契約の役割・業務が残っていないが労働者が依然として働くことを希望する場合、労働契約を修正・補充するために両当事者は合意をする必要がある。労働者が引き続きの勤務を希望しない場合は、上記のように支払わなければならない金銭の他に、使用者は、労働契約を終了するために、労働法第46条が規定する退職手当を支払わなければならない。使用者が再び労働者を受け入れることを希望せず、労働者がそれに同意する場合は、この条1項の規定に従って使用者が支払わなければならない金額及び労働法第46条の規定に従った退職手当の他に、労働契約を終了するために両当事者は労働者に支払う追加の賠償額を合意するが、それは労働契約に従った賃金の少なくとも2か月分である。(労働法第41条)
なお、有効に解雇した後の取り扱いは、他の労働契約終了の場合と同様である。すなわち、原則として、労働契約終了や解雇決定の日から14営業日以内に、両当事者はそれぞれの当事者の権利利益に関連する事項の全てを清算する責任を有する。また、使用者は以下の責任を負う。第一に、社会保険・医療保険・失業保険の費用を納入する期間の確認手続を終了し、使用者がそれらを保持している場合には、労働者のその他の書類の原本を返還する。第二に、労働者が要求する場合には、労働者の労働過程に関連する各資料の写しを提供するものとする。資料の写しの作成・送付の費用は使用者が支払う必要がある(労働法第48条3項)。
[6] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/12L%C3%BD-do-sa-th%E1%BA%A3i-%C4%91%C3%BAng-ph%C3%A1p-lu%E1%BA%ADt-nh%C6%B0ng-sai-tr%C3%ACnh-t%E1%BB%B1-th%E1%BB%A7-t%E1%BB%A5c.-C%C3%B4ng-ty-ph%E1%BA%A3i-b%E1%BB%93i-th%C6%B0%E1%BB%9Dng.pdf
[7] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/9Sa-th%E1%BA%A3i-kh%C3%B4ng-%C4%91%C3%BAng-tr%C3%ACnh-t%E1%BB%B1-th%E1%BB%A7-t%E1%BB%A5c.-Ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-l%C3%A0-c%C3%A1n-b%E1%BB%99-c%C3%B4ng-%C4%91o%C3%A0n.-C%C3%B4ng-ty-ph%E1%BA%A3i-b%E1%BB%93i-th%C6%B0%E1%BB%9Dng.pdf
[8] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/08/3Ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-v%E1%BA%AFng-m%E1%BA%B7t-l%E1%BA%A7n-th%E1%BB%A9-1-c%C3%B4ng-ty-v%E1%BA%ABn-t%E1%BB%95-ch%E1%BB%A9c-h%E1%BB%8Dp-x%E1%BB%AD-l%C3%BD-k%E1%BB%B7-lu%E1%BA%ADt-n%C3%AAn-vi%E1%BB%87c-sa-th%E1%BA%A3i-l%C3%A0-tr%C3%A1i-ph%C3%A1p-lu%E1%BA%ADt.pdf
[9] https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/11C%C3%B4ng-ty-th%C3%B4ng-b%C3%A1o-h%E1%BB%8Dp-x%E1%BB%AD-l%C3%BD-k%E1%BB%B7-lu%E1%BA%ADt-%C3%ADt-h%C6%A1n-05-ng%C3%A0y-l%C3%A0m-vi%E1%BB%87c.-Tuy-nhi%C3%AAn-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-v%E1%BA%ABn-%C4%91%E1%BA%BFn-tham-d%E1%BB%B1-m%C3%A0-kh%C3%B4ng-ph%E1%BA%A3n-%C4%91%E1%BB%91i.pdf
3 使用期間中における労働契約の強制的終了について
試用期間中の労働契約の強制的な終了については、解雇とは別の規制により解決される。労働法第27条2項によれば、いずれの当事者も、事前の通知を要せず、また、損害賠償なく、試用契約若しくは労働契約を終了・取り消すことができるとされているためである。ハノイ市人民裁判所の2018年1月12日付判決01/2018/LĐ-PT号[10]は、試用期間中に労働者が勝手に会社のコンピューターシステムを操作し、会社の規則に違反したために、解雇された事例である。これに対し、労働者は、解雇決定に異議申し立てをし、会社に対する損害賠償を請求した。裁判所は、本件会社が、試用期間中に解雇をする必要がないことを理由に、解雇決定を取り消し、また、解雇の正当性を審査することなく、上記規定と同様の内容を有する2012年労働法第29条2項(旧法)に基づき、本件会社の主張を認め、労働者の請求を棄却した。
[10] 判決は以下を参照:https://amilawfirm.com/wp-content/uploads/2019/09/16C%C3%B4ng-ty-cho-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng-th%E1%BB%AD-vi%E1%BB%87c-02-l%E1%BA%A7n-m%E1%BB%97i-l%E1%BA%A7n-30-ng%C3%A0y.-C%C3%B4ng-ty-thu-h%E1%BB%93i-Quy%E1%BA%BFt-%C4%91%E1%BB%8Bnh-sa-th%E1%BA%A3i-T%C3%B2a-%C3%A1n-b%C3%A1c-y%C3%AAu-c%E1%BA%A7u-c%E1%BB%A7a-ng%C6%B0%E1%BB%9Di-lao-%C4%91%E1%BB%99ng.pdf