ベトナムにおける消費者保護法制の概要【後編】
ベトナムにおいて、消費者権利保護法(No.59/2010/QH12)は、2010年から制定され、消費者保護の基本的な法規範文書となっています。他方、消費者保護に関しては、個別の事例に応じて、食品安全法(2018年改正版)、広告法(2012年)、商法(2005年)、競争法(2018年)など様々な特別法を参照する必要もある点に留意が必要です。
この記事では、消費者保護法の中で、事業者側が違反時に負う責任等を紹介します。
事業者が提供する商品の欠陥により消費者の生命・健康・財産に損害を与えた場合、事業者は原則として無過失責任としてその損害を賠償する義務を負っています(消費者保護法第23条)。この賠償責任は、商品提供時の科学技術レベルでは商品の欠陥を発見できないとされた場合に初めて賠償義務が免じられるものです(消費者保護法第24条)。
このような商品に欠陥が認められる場合の事業者の責任は、損害賠償義務にとどまるのみならず、可能な限り市場に流通している商品の流通を停止させるための措置を講じなければなりません。具体的には、新聞等において連続した5日間の間、次のような項目を公表する必要があります。
- 回収しなければならない商品の詳細
- 商品の 回収理由及び欠陥商品によって起こる損害の警告
- 商品回収の時間・場所・方法
- 欠陥商品の改善の時間・方法
- 商品回収中の消費者権利保護における必要な方法
このとき、事業者は、欠陥商品の回収を告知内容のとおりに実施し、回収において発生した全ての費用を負担しなければなりません(消費者保護法第22条)。
他方、事業者の商品の欠陥により被害を被った消費者は、自ら事業者に対して訴訟を提起するほか、消費者権利保護機関(中央レベルでは商工省。省レベルでは商工署。県レベルでは、県により異なるが、商工課若しくは労働・傷病兵・社会課が多い傾向にあります。)にその保護を要請することもできます。
消費者の要請を受理した県レベルの国家管理機関は、消費者と事業者それぞれに対して、説明及び情報の提供を要請し、法律の規定に従って処理するために自ら調査、情報・証拠を収集することになります。
県レベルの国家管理機関は、商品・サービスを販売・提供する組織・個人が消費者の権利侵害があったとの判断に至った場合、違反内容、回復方法、回復方法の実施期限、行政処分の方法など内容を含む書面によって、消費者の権利保護要請に対する回答をしなければならないとされています。ここでいう回復方法は、対象商品等のリコール、解体や商品、サービスの提供の停止、違反した組織・個人の事業停止又は一時停止、商品・サービスを販売・提供する組織・個人に対して、約款、取引一般条件における消費者の権利を侵害する条項を削除させることを含みます。
これに加え、複数回違反した商品・サービスを販売・提供する組織・個人は、消費者の権利を侵害した商品・サービスを販売・提供する組織・個人リスト追加されます(消費者保護法第26条)。もっとも、当該リストはあくまで行政内部のもので、公開されることが予定されているものではありません。
法令の運用状況について、統計指数等が公表されていない状況です。これは、消費者保護を管轄する行政庁が業種ごとに分かれているため、全体の統計が出しづらいことが影響しているのだと考えられます。もっとも、商工省競争及び消費者権利保護管理局からは、年次報告において、当該年度の苦情や異議申立の受付に関する情報及び代表的な事案が公開されています。
2019年においては、568異議申立書を受付とされており、特に消費者の情報保護規制に違反したことに由来するものが最多となっています(36%)。続いて、契約締結規制に違反(22%)、事実と違った情報の提供(16%)、契約に正しくない商品の品質・配達の時間(12%)が挙げられています。
行政罰としては、消費者権利保護分野における最大罰金額は2億ドン(約100万円)となっています(政令98/2020/ND-CP号)。関連して別途当該行為が偽製品に関する罰条に抵触する場合は、その責任は4億ドン(約200万円)になりうる点に注意が必要です。
ベトナムにおける消費者保護関連において民事訴訟が提起される頻度はさほど高くなく、行政処分等に消費者保護の重きが置かれている点が現在の運用になるかと思われます。しかし、今後の権利意識の向上に伴い適正な運用が図られるであろう中で、各種事業者に求められるコンプライアンス体制がますます必要となっていくでしょう。