ベトナム労働法の主要な改正点と日本企業がとるべき改正点[前編]
第14会期国会の第8回会議(2019年11月)において、労働法が改正され、2021年1月1日に施行される(第220条)。労働法の主要な改正点の概要は以下のとおりである。
なお改正前(現行)の労働法を「現行労働法」(No.10/2012/QH13)、改正後の労働法を「改正労働法」(No.45/2019/QH14)と表記する。
1. ベトナム労働法の主要な改正点
1.1.規律対象の拡大
改正労働法第2条の改正により、労使関係のある使用者と労働者のみならず、雇用契約関係のない労働者も法の適用範囲に含まれることとなる。「雇用契約関係のない労働者」とは、例えば、改正労働法第3条第6号において労働契約によらずに就労する者をいい、具体例が明示されていないものの、家政婦や営業世帯として労務提供する者がこれに該当すると考えられる。
1.2. 人身売買の目的での雇用禁止の明確化
改正労働法第8条第6項により、いわゆる不法労働者派遣や密航を禁ずることを明確化された。不法労働者等の近年の増加を受けての改正とみられる。本改正により、例えば、不法な海外就労を目的とする出国の誘導、約束、詐欺的広告等の行為が明確に禁止となった。
また、本条は、併せて人身売買等をも禁じているが、法人の行為が本条に規定する人身売買に該当する場合、当該法人に対して、行政罰として2億ドン(100万円相当)を上限とする罰金、活動停止(政令No.95/2013/NĐ-CP号第34条)の罰則が適用されることとなる。罰則関係においては、法人への罰則に加え、当該法人の責任者である個人に対しても、罰金若しくは懲役(20年まで)又は双方の併科が課される可能性がある(刑法(No.100/2015/QH13)第150条参照)。
本労働法改正の結果、日越双方において、活用が高まっている技能実習や特定技能制度につき、従前より一層の慎重かつ適法な運用が求められる。
なお、派遣機関のみならず、日本国内の受入機関も同様にベトナム国内において上記ベトナム刑法の適用を受けるため、本改正を機に受入機関である日本企業は、ベトナム人技能実習生の旅券や派遣関連契約等の確認方法を見直す余地も出てくると思われる。また、これら関連法令への抵触の可能性が生じた場合の対応方針や、未然に抵触を防止するための事業監督手法の見直しをも検討すべき場合があり得る。
1.3. 雇用契約に関する改正:季節的業務に関する契約及び12ヶ月未満の契約の廃止、電子的契約の導入
現行労働法第22条は、労働契約は、無期労働契約、有期労働契約及び季節的な業務又は特定業務を履行するため12か月未満の期間の定めのある労働契約(以下「季節的労働契約」という。)の3類型を規定していた。なお、無期労働契約とは、使用者と労働者が当該労働契約において、期間を定めない労働契約であり、有期労働契約とは、両当事者が当該労働契約において、労働契約の期間を12か月以上から36か月以下の期間と定めた労働契約である。本改正により季節的労働契約制度は廃止されることとなった。このため、改正労働法下における労働契約形態は有期労働契約及び無期労働契約の2種類の労働契約形態のみとなる。もっとも、季節的労働契約規定が廃止されるものの、改正労働法は有期契約の期間について、契約期間が12か月以上から36か月以下であったところを単に36か月以下と改正することにより、従前季節的労働契約が活用されていた労働期間について、手当てを行っている。したがって、改正労働法下では従前季節的労働契約を締結していた場面では、12か月未満の有期労働契約により対応することとなろう。ただし、有期労働契約において労働契約の更新が認められるのは一度のみである点に注意を要する。更新後においてもなお、労働者との労働契約の継続を希望する場合は、当該労働契約は無期労働契約とする必要がある。
その他、改正労働法第14条により従前書面が求められていた雇用契約について電子的方法による締結が認められるに至った。
1.4.理由を要しない一方的労働契約終了
現行労働法第37条は、有期労働契約に基づき就労する労働者に対し、次の場合に、契約終了前における一方的な契約解除権を付与している。
①労働契約で合意した業務に従事できない場合又は勤務地に配置されない場合
②労働条件が保証されていない場合
③労働契約に定めた給与が十分に支給されていない場合
④給与の支給が遅延する場合
⑤虐待、セクシャルハラスメント又は強制労働をさせられる場合
⑥自身又はその家族が困苦な状況にあるため契約履行の継続が不可能になる場合
⑦居住地の機関における専従職に選出された場合
⑧国家機関の職務に任命される場合
⑨妊娠中の女性労働者が認可を受けている医療機関の指示に基づき業務を休止しなければならない場合
⑩労働者が、有期労働契約の場合は90日間において、継続して治療を受けたにも関わらず労働能力を回復できない場合
上記のいずれかに該当する場合には、労働者は一方的に労働契約を解除することができる。ただし、手続要件として解除権の行使には3営業日や30日などの一定の期間を置いて事前に使用者に通知しなければならないことが定められていた。しかし、改正労働法第35条では、労働者が30日又は45日の一定の期間を置いて事前に使用者に対し通知を行った場合は、その理由を問わず、労働契約を終了させることができる旨改正が行われた。
また、このような労働者の労働契約解除権に加え、改正労働法下では
①労働契約で合意した業務や勤務地に配置されない場合
②労働条件が保証されない場合
③虐待、セクシャルハラスメント、強制労働をさせられる場合
には、事前通知を要せずして、直ちに労働契約を終了させることができることとなった。
併せて労働者は使用者に対して、社会保険、転職時に必要となるような就労に関する文書の提供を求めることができることとされている(第48条第3項b号)。
(以下、[後編]へ続く。)