ベトナムにおける債権回収の実務
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弁護士 原 智輝
1.はじめに
筆者はベトナムにて勤務を開始し、3年半ほど日系ベトナム進出企業の相談を受けてきましたが、3年前から相談件数の減らない項目の一つに債権回収の相談が挙げられます。
なぜ債権回収がここまでホットトピックになるのか、背景や事情は様々ですが、要約すると以下のようなものになります。
・投資法、企業法等(No.59/2020/QH14)の改正により債権回収事業が禁止に
・ベトナムにおける法制度、司法制度の不透明性から企業が裁判所の活用に積極的でない
・ベトナム企業側の「待ってくれ」「お金がない」などの言い分に対応できていない
言い換えれば、司法面で裁判所などの機関を活用しづらいので、企業は自社で自力対応をしなければならない状況に立たされやすいのですが、ベトナム法制度が分からない、現地法人に法務担当者がいないため対応方法が分からないということが理由になります。
2.最低限押さえておきたいベトナムの債権回収に関する法制度
すでに他の記事等と重複している内容は割愛しますが、ベトナム事業における債権管理分野で絶対に押さえておきたい法律項目は以下のようなものがあります。
・日越間の裁判所の判決には相互執行の関係がないので、取引契約書において、日本の裁判所を専属的合意管轄にすることは推奨されません。
・ベトナムにおける提訴時効(いわゆる商事時効)は2年間とされており、債権の履行期を過ぎた場合に容易に商事時効を迎える事態が想定されます。
3.ベトナムでどう債権回収を試みるか(現場実感)
さて、ようやく本題になりますが、このようなベトナムの状況で、いかにして現地日系企業が債権回収に臨んでいるのかというお話をさせていただきたいと思います。特別なことをしているわけではなく、泥臭い部分もありますが、法的な部分も解説したいと思います。
いわゆる債権回収の場面に出くわした場合、企業側がまず行わなければならないのが、債権債務関係の整理です。これは、履行期の債権がどのような資料から生じており、時効がいつになるのか、債権について裁判所等を活用しようとした場合の紛争解決機関の確認等です。よくある悩ましい事例としては、複数の取引関係があり、回収すべき債権総額は把握しているが、途中一部弁済等もあり、どの債権がいくら存在しているのかまでは把握できていない場合等が挙げられます。この場合、1年前からしばしば支払い遅延があったとなると、先の時効の問題にも発展するからです。また、一般的にはどうしても裁判所等を活用しにくいため、回収の肝は回収先との交渉になります。債権債務関係を整理することは、交渉の際に何を獲得目標にして、どのような話し合いをするのか、プランニングを行っていると言い換えることができるかと思います。
実際の交渉の場(打合せの場)では、プランニングに従った対応を採ることになりますが、基本的には債務者の資力に関する情報の獲得がマストです。しかし、当然ベトナム企業側も自社の財務情報を容易に開示することはなく、場合によってはいわゆる秘密保持契約書等を必要とする場合があります。また、銀行口座残高の開示が難しい場合には、本来あるべき預金残高以上の金額が口座内にあることや他社に対して債権を有していることについて代表者に表明保証をしてもらうことも考えられます。要するに誓約書をお願いするわけですが、法的な効果としては民事的なもの以上に、残高の情報が虚偽である場合、一部刑事上の詐欺罪を構成する余地も生じるため、債務者に対する責任の自覚を促すという効果が期待できます。
このように実際の現場では、様々な交渉を行いながら法的な取り決めに落とし込んでいく作業が行われているわけです。
4.自社の債権管理にご関心のある企業様へ
冒頭で触れましたとおり、ベトナムでは日本と異なり、自力対応を中心としたいわゆる予防法務の比重が極めて高いように思われます。売掛金の期限が到来してから弁護士に相談するというのが実情であるかとは思いますが、ご相談に来られた時点で「泣き寝入りが濃厚」のご相談が多いのも事実です。
そこで、弊所では、ベトナム事業における債権管理を自力で行えるためのサービスを用意しております。主に駐在員ご担当者様向けに、弁護士によるマンツーマンのコーチング形式にて、債権管理のノウハウ習得と自力による社内管理フローの構築をサポートさせていただくサービスです。外国かつ法務という駐在員にとってスキルの習得やその運用に必要とされる時間を大幅に短縮させ/節約し、また将来の債権トラブルから生じる社内リソースやその際の弁護士費用/裁判費用などといった金銭的負担を軽減することを目的としております。
ご関心のある企業様におかれましては、弊所お問合せメールアドレス又は所属弁護士宛てに本サービスに関するお問合せをいただけますと幸いです。
以上