執筆:弁護士 池辺健太
JASRACの動き
平成29年6月、JASRAC(日本音楽著作権協会)は、音楽教室に対して著作権料を徴収する方針を示しました。
一方、音楽教室を営業するヤマハや河合楽器製作所などは、「音楽教育を守る会」を結成して訴訟を提起。徹底抗戦の構えです。
なおJASRACは、「著作権のある曲を演奏等しているから」著作権料を支払うべき、という主張をしています。つまり、音楽教室で行われている「お手本演奏」が、著作権のうち「演奏する権利」に触れるので、著作権料が発生するのだという主張です。
音楽教室側の反論は?
報道からの印象として、JASRACは音楽教室との訴訟に対し、大きな自信を持っているように思えます。
音楽教室側の主張は、お手本演奏が「公衆に対する演奏ではない」し「聞かせることを目的とした演奏ではない」ので、「演奏する権利」の侵害にはあたらない、というものです(音楽教育を守る会のウェブサイトにて、訴状のほぼ全文が公開されています。)。
しかし、過去の裁判例の傾向からして、広く生徒を募っている以上は教室の生徒であっても「公衆に対する」ものとされる可能性は高く、「聞かせることを目的としていない」なら著作権侵害にならないという論理も、著作権法には見当たらないものです。
金額はどうなるのか?
この事件に関する更に進んだ議論として、「じゃあ、音楽教室はいくら払えばいいの?」という点も、面白い検討かと思います。
JASRACは、音楽教室の年間受講料収入の2.5%相当を著作権使用料として運営会社から徴収する方針を示しています。仮にJASRACに著作権料を徴収する権利があるとすれば、この2.5%は果たして妥当なのか、という点も裁判では争点になる可能性があります。
2.5%ですから、音楽教室の月謝が仮に7,000円とすれば、そのうち175円程度の徴収になります。月にレッスン3回程度として、そのうちお手本演奏(著作権料の対価となる演奏ですから、ある程度の長さのお手本演奏です。)が行われているのは、どのくらいの時間でしょうか?私は音楽教室に通ったことがないのですが、想像するに20分程度でしょうか?それなら大体4曲分といったところ。4曲分程度で175円なら、まあ妥当かなとも思えそうです。
或いは、「聞かせる演奏」ではないのに4曲で175円というのは高すぎる、という考えもあるでしょう。お手本演奏を聞いているとき、生徒は音楽を聞いているのか、音楽というよりこれから練習すべき短いフレーズに注目して聞いているのか、お手本演奏をしている講師の指使いを見ていて音はあまり聞いていないのか。場合によるでしょうが、ライブやコンサートを聞いているときと比べて、曲を楽しんでいる度合いは低そうです。
ライブやコンサートのように「聞かせる演奏」ではないのだから(あくまで教材であって、演奏されている音楽自体の魅力やオリジナリティは、ほとんど重視されていないのだから)、もっと安くあるべきだ、という議論も一定の説得力を持ちそうです。これは、「聞かせることを目的とした演奏ではない」という音楽教室の主張とも、少し似た考え方ですね。
ちなみにJASRACはコンサートについて、想定売上げの5%を著作権料と定めています(単純化しており、実際には、もう少し細かい計算がなされますが。)。「聞かせる演奏」ではないお手本演奏がたまにあるだけなのに、コンサートの半額もとっていいのか。こう考えると高すぎるような気もします。
この2.5%には、明確な法的根拠があるわけではありませんので、基本的には裁判所も、社会通念や国民の意識に照らして判断します。皆様のお考えはいかがでしょうか。
JASRACは勝訴するけれど、裁判所も諸事情を考慮し、使用料は高すぎると判断する、という結果も有り得そうなところです。引続き注目していきたいと思います。
(2018年1月執筆)
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