コラム

COLUMN

中国知的財産制度について

国際ビジネス

2021.06.30

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

「中国といえば模倣大国」、「すぐに偽物が出る国」。こういった感覚を持っている日本人は多いと思います。確かに、こういった点は事実を含んでおり、模倣や技術流出などについてしっかりとした注意を払わなければならないことは言うまでもありません。ただし、こういった配慮は、別に中国ビジネスだけで必要なわけではありません。日本企業同士でも技術の吸い取りや模倣は多くありますし、中国企業以外の外国企業に技術やブランドを盗用されたという例も枚挙にいとまがありません。そうしてみると、模倣や技術流出に注意が必要だというのは、何も中国に限ったことではなく、その他の国でも、さらには日本国内においても、同様に気を付けなければならないことがご理解いただけると思います。

ところで、最近の中国の知的財産権に関する現状を見ると、中国ビジネスを行うにあたっては、こういった「模倣される」というわかりやすい問題だけではなく、より高度な知的財産戦略の検討が求められています。

中国は、すでに特許出願件数は、日本や米国を抜いて世界一となっており、国際特許の出願件数も、日本やドイツ、韓国を抜いて、米国に次ぐ世界第二位となっています。その他、商標や意匠権の出願も飛躍的に増加しています。

以前は、このような中国の出願件数の増加については「質が伴わない量だけの出願」といわれることもありましたが、近年は技術の輸入や技術者の採用、中国人技術者の中国での活躍などもあり、その質が伴い始めています。これは、例えば、米国大学における技術系博士号取得者の人数について中国人が最多の3,987人となっていることからも伺えます。ちなみに、日本人は、わずか243人であり、2位のインド(2,161人)、3位の韓国(1,442人)に大きく水をあけられています。

さらに、中国における「特許及び商標に関する訴訟事件」の件数は、年間で4万件程度(日本は、知財訴訟全体でも年間500件程度)となっており、知財に関する訴訟大国になっています。そして、中国国内の知財訴訟においては、近年、中国企業が外国企業を訴える事例が増えてきています。2017年12月25日に北京知識産権法院で下された判決で、日本の「無印良品」が、中国で類似店舗を展開する中国企業に、特定の分野について商標を出願され、訴訟されて敗訴してしまった事件などは、記憶に新しいところです。

このように、近年の中国は、知財大国、権利大国、訴訟大国に変化しつつあります。したがって、日本企業が中国ビジネスを展開するにあたっては、欧米などでビジネスをする場合と同様に、自社の知財戦略、出願戦略、営業秘密化戦略といった点をしっかりと検討し、事前準備をすることが不可欠となってきています。

「真似されるリスク」ばかりを気にしていては、中国ビジネスを考える上では、全く不十分というべきでしょう。

2019年3月2日には、技術輸出入管理条例が改正され、これまで日本企業にとって頭痛の種であった「権利担保責任条項」や「改良技術の帰属に関する条項」、「技術ライセンス契約における制限的条項を禁止する条項」がいずれも削除され、ライセンスや技術提供契約における自由度が増すことになりました。

また、2019年4月23日には、商標法が改正され、「非使用目的の悪意商標出願登録の拒絶」や「商標異議申立及び商標無効手続における非使用目的の悪意商標出願の事由追加」などが定められました。これにより、以前から問題視されていた、日本の企業や商品名、地名などを勝手に出願する「冒認商標」についても、対応の選択肢が増えることになりました。

このように、中国における知的財産制度やその運用は、急激に変化しつつあります。今後中国関連ビジネスを行う企業は、こうした変化を念頭において上手に経営戦略を立てることで、利益の確保につなげていただきたいと思います。

(2019年7月)

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