コラム

COLUMN

承認執行の仕組み

一般企業法務等

2021.06.22

第1  強制執行について

 たとえば、日本に居住するXが、日本に居住するYに対して500万円の債権を持っていたとしましょう。YがXに対して任意に支払わない場合には、XはYに対して日本国内の裁判所に訴訟を提起し、同訴訟の判決をもらうことになります(判決主文は、「YはXに対して500万円を支払え。」)。では、この判決が確定した後もYがなおXに対して支払いを行わない場合にはどうなるでしょうか?この場合、XはYに対して実力で払うように求めることはできません(自力救済の禁止)。したがって、Xはさらに執行裁判所に対して、上記判決の「強制執行」を求めることになります(民事執行法22条1項1号参照)。Xは、Yの預金や第三者に対する債権、不動産、動産等の財産を差し押さえて、同財産から回収することになります。

第2 外国判決における強制執行について

1       承認及び執行概論
 では、前提をかえて、外国に居住するXが、日本に居住し日本国内に財産を有するYに対して500万円の債権を持っていたとしましょう。そして、Xがこの支払を求めて、外国の裁判所に対して訴訟を提起し同訴訟の判決をもらったとします(判決主文は、「YはXに対して500万円を支払え。」)。それでもなおYがXに対する支払を拒んだ場合、Xは「強制執行」によりYの財産から支払を受けることができるでしょうか?
 この問題は理論的なところから考える必要があります。裁判というのは国家の主権行使にあたりますから、外国の裁判は外国の主権行使の結果であって原則として当該外国国内でのみ効力が発生します。したがって、日本の裁判所は外国の裁判に拘束されないと考えると、Xは外国判決をもって日本のYの財産に強制執行することはできないという結論になります。
 もっとも、Xとしては、せっかく外国の裁判所において時間も労力もかけYに対する債権の存在を主張立証し判決をもらったにもかかわらず、さらに日本の裁判所で同様の裁判を起こすとなると二重の手間がかかります。また、日本の裁判所としても、Xの権利行使を遅らせることが必ずしも紛争の解決として適切ではないケースも考えられます。
 したがって、一定の要件のもとに、外国の裁判所の判決を承認し、それに基づく自国内での執行を許容することは十分考えられることですし、実際に、多くの国家が、一定の要件の下、外国判決の自国における承認及び執行を許容する法律を定めています。日本の法律も同様ですので、以下この点を詳述します。

2       外国裁判所の判決に関する日本の承認手続き
 日本では、以下①ないし④に掲げる要件の全てを具備する場合、外国裁判所の確定判決が特に何らの手続きも有せず承認され、効力を有することとされています(民事訴訟法118条)。

①    法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。

②    敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。

③    判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。

④    相互の保証があること。

(1)    ①について
 外国の裁判所が当該事案に対して裁判権を有する、という要件になります。たとえば、この要件があることにより、X及びYと何ら関係のない第三国の裁判所による確定判決があったとしても、日本においては効力を有しないことになります。「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。」という定め方としていますが、現在のところ、「どの事案においてどの国のどの場所の裁判所に提起するか」という点を明確に定めた法律や条約はなく、具体的には、日本の民訴法が定める土地管轄の規定に準拠することを基本としつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断すべきとされています(最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁)。つまり日本の民事訴訟法を基本としつつも、紛争の個別具体的な事情に応じて、外国の裁判所が裁判権を持っていたかを「条理」に基づいて判断するということになります。

(2)    ②について
 外国の裁判において、日本に居住するYがまともな呼び出し手続きを受けず外国の裁判において十分反論を行う機会が与えられない場合にまで、外国判決の効力を日本において認めるわけにはいきません。このような観点から、外国判決が承認されるためには、②の要件が定められています。

(3)    ③について
 外国判決は、外国における裁判の内容であり、場合によっては日本の法令や慣習に照らしてどうしても認められないケースも考えられます。
 たとえば、日本の損害賠償事案においては、実際に生じた損害(実損)のみが賠償の対象となり、それ以上の賠償が認められないという前提で判断がなされますが、外国においては実損のみではなく「悪いことをして相手に損害を被らせたのだから、懲罰的な意味を込めて賠償額を実損に追加された上で支払われるべきだ。」という考えのもと、懲罰的損害賠償を認める国もあります。このような懲罰的損害賠償を認めた外国判決は、日本の公序に反するため、③の要件により承認されないことになります(ただし、実損部分については、日本の公序に反するものではなく承認されます。)。(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)

(4)    ④について
 外国の判決の効力が日本において承認執行されるためには、同種の事案において仮に日本の裁判がなされた場合当該外国においてこの裁判が承認執行される保証があるケースに限る、という政策的見地から定められた要件が④です。相互保証の有無の判断は、判決国に当該判決の効力要件が、承認国たる日本の民訴法118条各号所定の条件と重要な点で異ならないかによって決せられます(最判昭和58年6月7日民集37巻5号611頁)。
 なお、従来の判例及び裁判例においては、アメリカ合衆国におけるカリフォルニア州、ニューヨーク州、ハワイ州、ネバダ州、ドイツ、イギリス、シンガポールや香港の裁判の日本の承認の局面において相互保証があると認められた反面、ベルギーや中華人民共和国の判決の強制執行については相互保証が否定された例があります。

3       外国裁判所の判決に関する日本の執行手続き
 外国裁判所の裁判については、日本における裁判所で執行判決を得ることにより、日本で当該外国の裁判を強制執行することができます(民事執行法24条)。なお、日本における裁判所で審理する事項は、「当該外国判決が確定しているか」「上記民事訴訟法①ないし④の要件を満たしているか」といった形式事項に限られるものとされ、実質審査(外国判決の内容のとおりの当事者間の権利義務関係が本当に当事者間で発生しているか、外国裁判所の事実認定が正しいか誤っているか)は行われないとされています(民事執行法24条2項)。したがって、日本の裁判所において執行判決を求める訴訟を提起しなければならないからといって、外国判決を取得した手間が無駄になるわけではありません。

4       小括
 以上のとおり、外国裁判は、承認及び執行という流れを通じて、日本で強制執行をできるようになります。第2、1の事例でいくと外国の裁判所で確定判決を取得したXは、当該外国裁判の承認及び執行手続きを経て、日本国内のYの財産に対して強制執行を行うことができる、という結論になります。

第3  日本の確定判決における外国での強制執行について

 上記のとおり、日本で承認及び執行手続きを定めている民事訴訟法118条及び民事執行法24条という規定があるように、外国においても第三国においてなされた判決が確定した場合に当該外国において承認及び執行するための要件が法律上定められていることが通常です。
 例えば、日本に居住するXが、外国に居住し外国に財産を有するYに対して500万円の債権を有していたとしましょう。Xが日本の裁判所においてYに対する確定判決を取得(判決主文は、「YはXに対して500万円を支払え。」)した場合、Yの財産に強制執行するためにはYが居住する外国の裁判所において承認及び執行手続きを経る必要があります。そして、実際にこの手続きがうまくいくかどうかは、外国の法律上の要件による、ということになります。

第4  契約条項について

 国際取引においては、契約において「紛争解決機関」を定めることが通常ですが、上述したとおり、これをどう定めるかによって実際に紛争が起こった後の手続的な解決の道筋が異なります。たとえば、日本及び外国当事者間の国際取引紛争において、「紛争が生じた場合、日本の裁判所を専属的合意管轄とする。」と定め、これによって日本の裁判所で確定判決を得たとしても、確定判決が当然に外国において強制執行力を有するわけではなく、諸々の手続き的なハードルが準備されています。
 したがって、国際取引における契約書上の紛争解決条項については、裁判ではなく商事仲裁を利用する旨を定める等、専門的な知識や定め方が必要とされます。

( 2015年7月執筆)

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