執筆者:弁護士 堀田 明希
1 職務発明の対価
職務発明については、20 年ほど前にも青色発光ダイオードの発明者が同様の請求をかつて所属していた企業に対して起こしており、第一審判決は発明者が会社に対し604億3006 万円の請求権を有している(ただし、控訴審で大きく減額した金額の支払をもって和解成立)と判断しました。本稿では対応を誤ると大きなリスクとなる職務発明について、ご説明します。
2 職務発明は会社のものではありません
まず大前提として、特許を受ける権利は発明をした人に帰属します。これは会社内で従業員が発明した場合でも変わりはありません。
もっとも、職務発明、すなわち、会社の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為が従業員の現在又は過去の職務に属する発明については、契約、勤務規則等においてあらかじめ会社に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から会社に帰属させることが法律上認められています。
したがって、職務発明の権利を会社に帰属させることはできますが、このような定めがない場合には、原則通り職務発明にかかる特許を受ける権利は従業員に帰属したままとなります。「社員の発明は会社のもの」ではないのです。
3 タダではない
職務発明にかかる特許を受ける権利を会社に帰属させる等した場合、従業員は会社に対し「相当の利益」を請求することができます。
従業員には給料を支払っているから問題ないだろうと誤解されている経営者の方も一定数おられますが、この「相当の利益」は別途支払う必要があります。冒頭で述べた対価の請求は、まさにこの「相当の利益」を請求する裁判なのです。
4 職務発明規程を備えましょう
では、いくらであれば「相当の利益」と言えるのか。これは生み出された発明によってもまちまちであり、画一的な基準はありませんが、「相当の利益」を定める基準を設けるにあたっては、①基準案の協議と確定、②基準の開示、③意見の聴取(異議申立手続を含む)の手続を経る必要があります。
まず①基準案の協議は、実質的に開発に携わる全従業員との話し合いが尽くされることが望ましいとされています。例を上げますと、多数派の従業員の代表者と協議した内容を少数派従業員に見せて意見を聞くという形態も協議が行われたものと評価されます。
次に②基準の開示の方法については、従業員の見やすい場所に掲示する方法や、常時閲覧が可能な社内イントラネットにおいて公開する方法によることも可能です。
最後に、③意見の聴取の方法については、特定の方法を採らなければいけないという制約はなく、必ず合意に至らないといけないわけではありません。しかし、会社側が真摯に従業員の意見について対応する必要があります。
5 おわりに
以上のように、職務発明にかかる特許を受ける権利の帰属を定め、かつ「相当の利益」の基準を定めることで、従業員から権利の帰属を争われたり巨額の請求をされたりするリスクは大きく軽減されます。
これを機に、改めて現在の対応に不備がないかご確認いただければ幸いです。
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