コラム

COLUMN

フリーランス新法について

一般企業法務等

2024.11.20

執筆者:弁護士 石井靖子

1 フリーランスとは

 フリーランスとは、個人や一人会社で業務委託を受けて仕事をする事業者のことをいいます。総務省の就業構造基本調査によると、2022年10月時点でフリーランスで働く人は、本業にしている人が209万4000人、副業のみの人が48万人です。副業としてフリーランスで働く人や定年後に業務委託契約で働く人が増えていますし、多様な働き方に柔軟に対応するため、フリーランスはますます広がると考えられています。
 その一方で、フリーランスは、個人や一人会社で業務を遂行する弱い存在でありながら、労働者ではない、あいまいな存在であり、その保護のあり方が長年議論されてきました。しかし、既存の法制度では解決できないため、新しく「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)が2023 年5 月に公布され、2024 年11 月1 日に施行されました。

2 フリーランス新法の概要

 フリーランス新法は、下記のとおり、フリーランスに業務委託する企業に対して下請法と同様の規制を課すほか、フリーランスに限定的に労働者類似の保護を与え、これらに違反する場合に広く行政の指導を可能としました。

[下請法と同様の規制]

(1) 書面交付義務
 フリーランスに業務委託をした場合には、直ちに契約条件を書面や電磁的方法で明示する義務を負います(法3条)。

(2) 60日・30日以内の報酬支払(再委託の場合には特に注意が必要な点です。)
 フリーランスに業務委託をした場合には、フリーランスが業務を提供した日から60日以内に報酬を支払う義務があります(法4条1項・2項)。ただし、企業(委託者)⇒受託者(再委託者)⇒フリーランスというようにフリーランスに再委託する場合には、企業(委託者)の支払期日から30日以内に、受託者(再委託者)はフリーランスに対し報酬を支払う義務がありますので、注意が必要です(法4条3項・4項)。

(3) 報酬減額、買いたたき等の禁止
 フリーランスに対し継続的業務委託をする場合、下請法4 条とほぼ同じ規制(報酬減額、買いたたき等の禁止)が課せられます(法5 条)。

[労働者類似の保護]

(4) 契約解除・不更新の30日前予告義務
 フリーランスとの継続的業務委託を解除し又は更新しない場合、30日前までに予告する義務があります(法16条1項)。

(5) ハラスメント防止措置義務
 フリーランスに対するセクハラ・パワハラ・マタハラについて、フリーランスの相談に応じ適切に対応する体制整備等の措置を講じる義務があります(法14 条)

(6) 妊娠、出産、育児介護への配慮義務
 フリーランスから申し出があれば、妊娠、出産、育児介護と両立して業務に従事できるよう必要な配慮が求められます(法13条)。

(7) 募集情報の的確表示義務
 広告等でフリーランスの募集情報を提供するときは、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つ義務があります(法12条)。

3 偽装フリーランスについて

 企業が、フリーランスを雇用関係にある労働者のように使うのが偽装フリーランスです。フリーランスは、指揮命令を受けて働く「労働者」とは異なり、業務の進め方や働く時間、場所などを自分で決められ、契約遂行の対価として報酬を得ます。フリーランスの働き方の裁量を奪うようなケースは、偽装フリーランスとみなされるおそれがあります。
 この点、違法な「偽装」に当たるかどうかの判断基準は明確ではないため、法令違反への不安から、企業側がフリーランスの起用を見送る例も多いようです。また、判断基準の分かりにくさが、オーバーコンプライアンス(過剰な法令遵守)を招いているとも言われます。例えば、業務遂行のマニュアルが存在し、その手順を遵守するよう指導するのは「偽装」フリーランスにあたるおそれがありますが、業務の進捗確認の連絡などを禁じたり、フリーランスとの飲み会を避けることなどはオーバーコンプライアンスと考えられます。

4 フリーランス新法に違反した場合

 企業がフリーランス新法に違反した場合、フリーランスは行政機関に申告を行うことができます。行政機関は、助言指導等の措置、勧告を経て、企業に対して勧告に従う旨の命令を下すことができ(法9 条1項)、企業がこの命令に違反したときには50 万円以下の罰金が科せられることになります(法24 条1 号)。
 フリーランスを起用してみたいがコンプライアンスに問題ないか心配だという場合は、弁護士に相談の上、正しくフリーランスを活用することが必要だと言えます。

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