• MEILIN INTERNATIONAL LAW FIRM

※実際の事例を基に作成しておりますが、守秘義務等の観点から、内容や業種、名称等は実際のものとは異なるものとしております。また、同様の観点から、事案のデフォルメや編集を加えております。

「良い発明」を「良い特許権」にするために

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「良い発明」を
「良い特許権」にするために

特許出願の手続き自体は、明細書の形式に整理すれば、弁理士でなくても行うことができますし、発明をたくさんしておられる方などは、ご自分で出願される方もいらっしゃいます。個人事業主としてプラスチック等の成型工場を営む山崎さんも、そのような一人でした。

山崎さんは、金属部材を一切使用しないステープラーを発明し、その明細書をご自分で書き上げて特許出願をしたのですが、特許庁から、このままでは特許の登録ができませんという事前通知にあたる「拒絶理由通知書」を受け取り、どうすればよいか途方に暮れて、当事務所に相談にお見えになりました。

「拒絶理由通知書」を子細に検討すると、山崎さんの発明は、発明の内容が明確でなく、また、発明に新規性・進歩性もないため、特許化することはできないというものでした。そこで、早速、山崎さんから出願書面を見せてもらい、私たちの方でも記載内容を確認してみました。

すると、確かに一部の発明に関して技術的な説明がやや不十分と思われる部分があり、山崎さんの発明内容が正しく審査官に伝わるような内容にはなっていませんでした。また、特許庁から送られてきた「引用文献」には、山崎さんの出願前に、すでに金属部材を用いないステープラーの基礎的なアイデアが開示されており、これを根拠に、山崎さんの発明には「進歩性や新規性がない」とされていました。

特許に関して私たちが良くご説明させて頂くのは、「特許権」というのは、「発明」そのものではなく、あくまで、出願書類である「明細書」に記載された内容に従って審査され、権利として設定されるものだということです。
したがって、どんなに素晴らしい発明であったとしても、明細書の記載が不十分であれば権利にはなりませんし、仮に権利になったとしても、明細書にその特許の「実際の市場で優位性がある部分」が明確にされていなければ、実際の事業には有益な効果はそれほどもたらせないということになります。

つまり、「発明」は純粋な研究の産物ですが、「特許権」は、先行技術との比較の中で、明細書にそれをどのように落とし込んで「権利を作る」かという、極めて経営的、戦略的な、実際のビジネスや市場を意識して行われる行為だということです。したがって、「良い発明」が必ずしも「良い特許」になるわけではないことを考えると、良い特許権を獲得するには、「良い発明家」と「よい出願代理人」の組み合わせが不可欠なのです。
私たちは、そういったことを山崎さんに説明した上で、あらためて、私たちの方で、その後の権利化の手続を行うことになりました。

権利化が可能な範囲に分割

私たちが発明内容について精査し、先行技術などとの相違をあらためてまとめて分析してみました。すると、確かに、山崎さんの発明は、ステープラーに関する面白い着想とこれを非金属で解決する手段がたくさん含まれており、しかも、それは今現在の非金属ステープラー製品の業界の流れと一致するものでした。しかし、一方で、先行技術もかなりの数が存在しており、山崎さんが明細書に記載した内容をすべて権利化しようとすると、どうしても先行技術に触れてしまうため、かなり難しいと考えられました。

そこで、私たちは、願書中の具体的な実施例とそれらに共通するアイデアについて、先行技術と差別化が図れる点を抽出し、権利化が可能な範囲に分割して、出願当初の明細書の範囲内で内容を全面的に整理し直すとともに、従来技術と比べていかに山崎さんのアイデアが優れているかを説明する書面を特許庁に提出しました。特許の出願手続では、「拒絶理由通知」というのは、あくまで、「このままだと特許は拒絶されますよ」という予告ですので、期間内に必要な対応を行い、特許庁が「拒絶理由が解消された」と判断すれば、特許権として登録することができるのです。

必要な書類提出後、しばらくは山崎さんと私たちとでドキドキしながら結果を待ちましたが、結果は、分割した出願部分について、ストレートで特許査定(特許として登録を認める旨の決定)を得ることができました。

私たちが山崎さんにその旨をお伝えすると、山崎さんもとても喜んでおられ、「出願の時は思いのたけを詰め込むことに夢中で、アイデアの整理や先行技術との比較などが不十分だったのですが、今回の分割出願で、私のこだわりのある部分について、きちんと権利にしてもらえました。本当に満足しています。」と言っていただきました。

素晴らしい発明をした発明者の想いに応えられるよう、それを「素晴らしい権利」にする仕事ができて、私たちも本当に嬉しい気持ちです。
山崎さんも、今では、新しい発明や着想が得られるたびにご相談にお越しになり、「素晴らしい発明」を「素晴らしい権利」にするための前向きな相談を、楽しみにしておられます。

「意匠」を巡る交渉戦略

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「意匠」を巡る交渉戦略

教育関係の会社を経営する秋山社長が、新商品の知育玩具のサンプルをお持ちになって、当事務所にご相談に見えられたのは、秋口のことでした。秋山社長によると、その知育玩具は、秋山社長自らもデザインし、未就学児の幼児教育に使うことを前提に、自社の開発室で改良を重ねてやっと完成に至ったものだとのことでした。

ところが、この知育玩具の画像を、「近日中に発売予定」として会社のウェブサイトにアップしたところ、その形がY社の意匠権を侵害するとして、同社から販売中止を求める内容証明郵便が送られてきたとのことで、あわてて当事務所に相談にお見えになったのです。

秋山社長のお話では、この知育玩具は秋山社長以下開発室のメンバーも思い入れが強い商品である上、すでに発売に向けて量産も開始しているため、形を変更するとなると大きな損失になるので、できればこのまま発売していきたいとのことでした。

そこで、私たちはサンプルをお預かりし、Y社の意匠権の意匠公報に掲載されたY社の登録意匠と詳細に比較検討を重ねました。すると、確かに全体的なイメージはよく似ていると言えますが、一方で、細かい点においては違いも多くありました。また、知育玩具の意匠について過去の審査例、審判例を調査してみたところ、同じようにY社の登録意匠に一見似ているようにも見える他人の知育玩具の意匠が複数併存して登録を受けていることが分かりました。
つまり、全体的な形態やイメージが似ているとしても、詳細部分の形態が異なれば、特許庁も「非類似=意匠権を侵害していない」と判断しているということです。このような併存状況と上記の特徴点を考慮すると、秋山さんの知育玩具とY社の登録意匠についても非類似、つまり秋山社長の新商品はY社の意匠権を侵害していないと判断される可能性も十分にあると考えられました。

こういった場合、このまま販売を開始して、もし訴えられた場合は裁判で「非類似=意匠権を侵害していない」ということを主張して争うという方法もあるのですが、万一訴訟に負けた場合、販売中止やそれまでに販売して得られた利益分を損害賠償として取られてしまうといったリスクがあり、秋山社長も「そんな、イチかバチかみたいなことはできませんね。」と心配しておられました。

「新規性喪失の例外」規定を活用

このような場合、秋山社長の新商品の形態をそのまま意匠出願してみる、という方法が考えられます。そして、特許庁がその意匠について登録査定をしてくれれば、特許庁としては秋山社長の意匠とY社の意匠とは非類似と判断したということになりますので、秋山社長の新商品をそのまま販売しても、Y社の意匠権侵害となる可能性は低いと言えることになります。しかし、意匠権の出願のためには、「新規性」が必要であり、そのデザインが公知になってしまうと、意匠登録は認められないのが原則となります。

そこで、私たちはよくよくこれまでの経緯を秋山社長にお聞きしてみたところ、この新商品の形態を対外的に発表したのは、2か月ほど前の自社ウェブサイトへのアップが初めてだとのことでした。意匠権に関しては、「新規性喪失の例外」という規定があり、意匠出願をした者が、自ら発表などで当該意匠を公知にしてしまった場合であっても、1年以内であれば、その旨を特許庁に説明することで、「新規性喪失の例外」が認められ、意匠登録を受けることができる、という制度があります。私たちは、早速、この「新規性喪失の例外」規定を活用して、秋山社長の新商品のデザインを意匠出願することにしました。なお、この出願には、「早期審査制度」を利用し、短期間で特許庁の審査結果が出るようにしておきました。

また、あわせて、Y社に対しては、当事務所が代理人として、根拠を示し、「秋山社長の新商品とY社意匠とは非類似である」という回答をし、あわせて「あくまで類似であると主張される場合は、その根拠をお知らせください。」という投げかけをして、「ボールを相手に渡しておく」ことにしました。

その後、Y社からのさらなる連絡がある前に、こちらの出願した意匠が、問題なく登録査定を受けることができ、特許庁からも登録査定が送られてきました。
そこで、私たちは、あらためて、登録査定の写しをY社に送付し、「特許庁でも、当方の商品とY社意匠とは非類似であるとの判断がなされている」旨を示して、秋山社長の新商品がY社の意匠権を侵害しないことを通知しました。

その後、Y社からの連絡はなく、秋山社長も予定通り新商品の販売を開始することができました。

秋山社長は、新商品販売後に、商品をお土産に当事務所にお越しになり、「先生方のおかげで、自信を持って新商品の販売活動に注力することができました。おかげさまで受注も好調で、私も開発室のメンバーも、みんな大変喜んでいます。ありがとうございました。」と言っていただけました。
頂いた新商品は、未就学児を子供に持つ当事務所のスタッフがありがたくいただき、子供に使わせたところ、さすが秋山社長のこだわりの一品で、興味を持って楽しく遊んでいるとのことでした。
小さな会社のこだわりの工夫が世の中に広く活用される、そんなお手伝いができて、私たちもとても清々しい気持ちになった一件でした。

海外展開と「ブランド戦略」

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海外展開と「ブランド戦略」

健康食品を製造販売している犬山食品の犬山社長は、自社製品を中国で販売することになったということで、初めての海外展開でもあったことから、当事務所にご相談に見えられました。中国では、A社が販売代理店をしてくれて、中国国内での販売促進活動などを一手に引き受けてくれるということで、先方から提示された販売代理店契約書を見て欲しい、というのが当事務所にお越しになられたきっかけでした。

外国との取引においては、国内企業同士の契約とは異なり、仕様の特定、納品方法、代金決済の方法、アフターサービスの範囲、商品の輸出先国法令適合性の保証など、さまざまな点を検討しなければなりませんので、それらについて丁寧にアドバイスさせて頂きました。

その中で、私たちは、「商標は中国でも取得されていますよね?」と確認したところ、「いや、まだどれくらい売れるかわからないので、商標の件は、売れ行きが軌道に乗ってから考えようと思っています。」とのことでした。

こういったケースでは、商品の本格的な販売前であっても、展示会や越境ECで試験的に販売しただけで、中国で勝手に他人に商標を出願されてしまい、以後、自社商品の展開ができなくなってしまうということがしばしば起きます。
さらにひどい例としては、販売代理店そのものが商標を出願してしまうということもあります。そうなると、こちらとしては、その販売代理店に卸さない限り中国では商品が販売できないことになりますので、販売代理店との条件交渉も相手のペースになってしまいますし、その後販売がうまくいった場合にも、販売代理店が勝手にこちらと関係のない商品を作って、同じブランドを付けて売ることも禁止できなくなるなどして、大きな混乱を呼ぶことが多いところです。

確かに、売れるかどうかわからないものに商標を出願するコストはもったいないという考えもわかりますが、一商標一区分であれば、登録費用まで入れてもせいぜい30万円台程度ですので、それだけの先行投資をする価値もないと考えるのであれば、まだ中国展開は早いのではないかというお話をしました。
その結果、犬山社長にも商標の重要性を理解して頂き、中国で商標出願をすることになりました。

しかし、次に問題となったのが、どの名前で商標出願するかということです。中国では、漢字そのままの商品名でも販売はできますが、読み方は日本の漢字とは異なりますので、漢字にアルファベットを併記するという表示形式をとることは難しいところです。しかし、漢字だけで取ってしまうと、その後近隣の非漢字圏の国への展開時にまた名前を変えなければならなくなってしまいます。そこで、私たちもご一緒にいろいろ議論した結果、海外展開は、アルファベット表記に統一することにして、その名前を商標登録することにしました。

ところが、アルファベットにするとしても、犬山食品の人気ブランドは、成分や用途ごとに約10種類のブランドに分かれてしまっており、それらを逐一出願すると、コストだけでもばかになりません。そこで、私たちの方から、「これらの商品名には共通するコア部分がありますので、これを冠ブランドとして登録し、この冠ブランドを統一の名前として、大々的に表示することにしてはどうでしょうか。そうすれば、登録する商標は一つだけですみます。」とご提案しました。

ビジネスモデル特許の出願

実は、犬山社長は、日本国内でも商標が取れているものと取れていないものがあり、費用の関係もあるので、どうしたらよいか悩んでいたということでしたので、日本国内の名称も冠ブランドを活用することにして、整理し直しました。その上で、中国でも同様の名称を出願することになりました。

なお、このようなブランドの整理と並行して中国国内商標を調査したところ、中国国内では、犬山食品が冠ブランドとして出願しようとしている名称とよく似ている商標がすでに存在していることが分かりました。犬山社長としては、この冠ブランドをとても気に入っていて、変更はしたくないとのことでしたので、私たちはさらに調査をしたところ、どうやらこの中国の商標については、商標権者も権利だけ取得しただけで、使用をしていないようでした。
そこで、私たちは、すぐに犬山食品名でこちらの商標を出願し、同時に、この類似の中国商標に対して、不使用取消請求を起こしました。この不使用取消請求というのは、商標権者が、3年間商標を使用していないときは、その商標は取り消されるというルールがあり、その取り消し求める申し立てということになります。

幸い、中国の商標権者からは、使用証拠の提出がなされなかったので、スムーズに中国商標は取り消され、結果として、犬山食品の冠ブランドの商標が登録されることになりました。

このように、商標の問題をクリアにした上で、販売代理店とは、商標を通じて、品質管理や販売方法の統一化といった様々なコントロールを及ぼすことができる代理店契約書を作成し、先方と交渉の末、契約にこぎつけることができました。
このように、準備段階では色々と苦労しましたが、そのせいもあってか、中国での売り上げは堅調に推移しており、中国側の代理店の巧妙なEC戦略もあって、毎年数倍ずつ売り上げが伸びています。

先日、久しぶりに事務所にお越しになった犬山社長は、「いやあ、あのときは商標って面倒なものだと思いましたが、今となっては、あの機会に国内、国外の商標戦略をしっかり検討することができて、本当に良かったと思います。中国でももっと売り上げを伸ばしたいですが、最近は台湾やタイ、シンガポールでも引き合いが増えており、本格的に販売国を増やそうと思っています。
やはり、ブランドはアルファベット表記で統一しておいて正解でした。」とおっしゃっていました。
商標は、単に出願すればよいというものではなく、将来的なビジネス展開の見通しや、ブランド戦略を、併せて考えながら進めるべきだということを理解して頂き、私たちも本当に安心しました。

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