• MEILIN INTERNATIONAL LAW FIRM

※実際の事例を基に作成しておりますが、守秘義務等の観点から、内容や業種、名称等は実際のものとは異なるものとしております。また、同様の観点から、事案のデフォルメや編集を加えております。

守られた「名前」

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守られた「名前」

土屋さんは、数年前からネット上でバイクのカスタムパーツを販売しており、ここ数カ月で若者を中心に売上げが伸びてきて、雑誌や通販サイトでもかなり大々的に取り上げられるようになってきたので、商品やウェブサイトで使用していた「TSUCHIYA WORKS」のネーミングで商標登録をしたい、ということで当事務所にご相談に来られました。

早速、私たちは、「TSUCHIYA WORKS」について商標登録の状況について調査を行ったところ、関東にあるX社という会社によって、20年以上前から、同じバイク・パーツの分野で、「TSUCHIYA WORKS」は商標登録されていたことが分かりました。私たちがその点を伝えると、土屋さんは大変がっかりして「そうですか、では商標は取得できませんね。」とうなだれておられました。

しかし、私たちは、さらに「このままだと、商標が取れないだけでなく、土屋さんの現在の商品名や店舗名称なども、相手の商標権を侵害するものとして使えなくなる可能性があります。」とご説明したところ、土屋さんも大変驚いており、「それは困ります。やっと有名になってきた名前を変えることになると、これまでの努力や投資が無駄になってしまいます。何とかなりませんか?」と頭を抱えてしまいました。

私たちは、さらに調査をしたところ、ネット等の検索では「TSUCHIYA WORKS」をX社が使っているという情報はヒットしませんでした。そこで、私たちは、X社が今はもう「TSUCHIYA WORKS」を使っていない可能性があることをご説明し、「X社のTSUCHIYA WORKSが日本国内で3年以上使われていなければ、その登録の取消しを求める審判を起こすことができますよ。」と土屋さんにアドバイスしました。

土屋さんは、「そんなことができるんですか!では、ぜひお願いします。」と言われたものの、急に不安になったようで、「でも、もしその審判で負けたら、逆に訴えられたりしませんか?」と心配されていました。

私たちは、取消審判の請求の前にはその商標の使用状況に関する市場調査を行うこと、手続自体は必ずしも土屋さんの名義で行う必要がないことを説明すると、やっと安心されたようで、X社の「TSUCHIYA WORKS」の取り消しを請求する審判手続を起こすことになりました。

不使用取消審判の請求

私たちは、まず、「TSUCHIYA WORKS」の使用状況について、市場調査を行ったところ、X社の概要・関連会社等の情報が判明し、また、30年ほど前からの新聞記事、インターネット上の記事における検索結果、内偵調査の状況等によれば、X社は、ライセンシーも含め、「TSUCHIYA WORKS」を使用している事実は確認できないことが判明しました。

そこで、私たちは、改めて土屋さんと相談した上で、X社の「TSUCHIYA WORKS」の商標に対して、不使用取消審判の請求を行いました。もちろん、無事に取り消されたときのために、同時に、土屋さんのお名前で「TSUCHIYA WORKS」の商標も出願を行いました。

審判手続では、X社も使用実績はなかったようで、有効な反証も提出されなかったことから、特許庁において、無事に取消の審決を得ることができました。あわせて、私たちが出願した「TSUCHIYA WORKS」も商標登録が無事行なわれました。

土屋さんは、大変喜んでおり、「これで安心してTSUCHIYA WORKSのネーミングを広げていくことができます。」と御礼を言っていただきました。

本当は、事業を始めたときに、自社が使用する名前は商標登録をしておくことが望ましいのですが、どうしても商標出願が後回しになってしまうことがあります。そういったときに、他人にその名前を商標登録されてしまうと、長年使っていた自社の名前が、急に使えなくなってしまうという事態も起こります。

今回は、無事にX社の商標権を取り消すことができ、土屋さんの「TSUCHIYA WORKS」を守ることができましたが、今後は、ビジネスのブランド戦略をしっかり見直した方が良いというアドバイスをし、今では、定期的に新商品や新事業のご相談にお越しいただいています。

今後も、土屋さんの事業を安定して発展させていくために、当事務所でもしっかりとサポートさせて頂こうと思います。

「高級食パン」の知財戦略

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「高級食パン」の
知財戦略

製パン会社を経営する尾崎さんから「新しい食パンを開発したので相談したい。」と私たちのところへお電話がありました。さっそく打合せをセッティングし、詳しくお話をお聞きすると、新しく天然素材の成分を加えたパン生地を従来とはまったく異なる環境で発酵させることで、今までになかった風味と食感のパンを製造することができたとのことでした。

尾崎さんは、サンプルを持ってきてくれたので、私たちも早速いただきましたが、確かに独特のもちっとした食感と、ほのかな甘みのある生地は、とても美味しく感じられました。

せっかくの新技術ですので、安易な模倣や類似品の出現を防止するためにも、また、商品に付加価値をつけるためにも、特許出願ができないかと考え、私たちは技術内容のヒアリングを行うことにしました。

特許というのは、ある一定の技術を独占できるという強みがある反面、その技術内容は特許庁ホームページ上で広く公開されてしまうため、それを見た人は、容易に模倣をすることも可能となります。特に、尾崎さんの場合、「パンの作り方」で特許を取得してしまうと、仮に第三者がこれを真似したとしても、その会社の工場に立ち入り調査をすることは容易ではないため、現実には「特許権侵害の立証」ができず、権利行使ができない可能性が高いと考えられました。
そうすると、特許を取ったために、広く技術が公開され、類似品も作られてしまう反面、それらが特許権侵害商品であることが立証できず、結局尾崎さんのビジネス機会が失われてしまうといった最悪の結論になる可能性も考えられました。

このような場合、最終的には、どの範囲を出願し、どの範囲をノウハウとして秘匿すべきかが、最も重要な点になってきます。
尾崎さんの話では「生地の成分は実際の製品を分析されるとある程度分かると思いますが、発酵過程や発酵環境は実物を分析しても容易には分からないと思います。」ということでした。そこで、生地の組成や成分に関するアイデアは特許として出願し、発酵過程や発酵環境に関してはノウハウとして秘匿して、特許出願はしないという方針で行くこととしました。

情報管理体制の構築

結局、このパンは、おいしさや食感の良さと同時に、「特許取得」という触れ込みとも相まって、高級食パンとして売り上げを伸ばし、尾崎さんの会社の主力商品の一つとなりました。類似品も出ましたが、特許で公開された情報だけでは十分な再現はできず、品質は今一つでしたので、尾崎さんの食パンの売り上げにはほとんど影響はありませんでした。

ところで、特許出願しなかった「発酵過程や発酵環境」の部分ですが、これらは、社内できちんと営業秘密として管理しないと、退職者や従業員から情報が洩れ、競業他社にその内容が知られてしまうリスクも考えられました。

そこで、私たちは、尾崎さんに、「特許とノウハウはきちんと切り分けて情報管理する必要があります。営業秘密は、特許の対象ではない分、きちんと管理しておかないと、漏洩しても有効な対策が打てず、せっかくの知財戦略も意味がなくなってしまいます。ところで、御社では営業秘密の管理体制はありますか?」と聞いてみました。すると、尾崎さんは、「いえ…。従業員との信頼関係でやってきましたので、特に何もないというのが本当のところです。どうしたらいいでしょうか。」とのことでした。

そこで、私たちは、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるために必要な、社内での情報の「秘密管理措置」の導入に向けて、必要なことをリストアップし、何度も会社や工場にお伺いして、一つ一つクリアしていきました。また、あわせて、創業時から手を触れずに長期間そのままになっていた就業規則や社内規程を全面的に見直し、しっかりとした情報管理体制を構築することができました。

せっかく良い製品を作っても、製法に関する技術や情報が漏えいした結果、あっという間に類似品が市場に出てオリジナルが排除されてしまう、という悲しい事案を何度も見てきた私たちとしては、尾崎さんがしっかりとした特許戦略と営業秘密の保護体制を築いてくれ、それを基に、「高級食パン」の売り上げをどんどん伸ばしてくれている姿を見るのは、本当に嬉しいところです。

尾崎さんは、事務所に来られるたびに食パンを持ってきてくれるのですが、そのときのにこにこした顔を見ると、私たちも幸せな気持ちになります。

保育園でも「ビジネスモデル特許」

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保育園でも
「ビジネスモデル特許」?

私立の保育園を経営している五十嵐さんとお話ししていた時のことです。
話がコロナ禍の事業への影響に及んだ際に、五十嵐さんから、「最近は、入園前の施設見学や体験入園も、コロナを気にする保護者からは不安の声が上がっていて、私たちも何とかしなければと思っていました。その中で、VRを利用した仮想空間での体験入園をしてもらうことを思いつきました。こういった取り組みは、法的には問題ないでしょうか?」というご質問がありました。
具体的にお話をお聞きすると、概ね、以下のような仕組みを考えているとのことでした。

  • ・ 施設の外観や内観といった映像に加え、実際の園児を保育している際の遊戯、昼食、昼寝、おやつなど、各時間ごとの保育士の様子を3D録画した映像を撮影し、保存しておく(映像①)。
  • ・ お腹がすいて泣いている園児に対応する保育士の様子、ケンカを始めた園児に対応する保育士の様子など、トラブル発生時の対応を3D録画した映像も撮影し、保存しておく(映像②)。
  • ・ 入園希望者は、自宅PCやスマホなどから映像①にアクセスし、「園内の見学」や「バーチャル入園体験」など、希望するコンテンツを選んでもらい、VRゴーグルを利用して映像①を視聴してもらって、園内にいるかのようなリアルな体験をしてもらう。
  • ・ 映像①の画面中には、「おなかすいた!」ボタン、「ケンカ!」ボタンなどのトラブル発生ボタンが表示されており、入園希望者がこれを選択すると、それに対処する保育士の映像②に切り替わって、実際にそのような場合に、保育士がどのような対応をしているかを体験できる。

このような手法については、特に法的に問題はないのですが、説明のしかたや映像内容によっては、景品表示法や消費者契約法などの観点から問題になる可能性があるので、そのような点について、私たちは、五十嵐さんにアドバイスをさせてもらいました。

しかし、とても面白いアイデアでしたので、私たちは、あわせて特許出願をお勧めしました。五十嵐さんは、「特許」と聞いて、「保育園で特許なんて取れるんですか?」「特許というのは、先端技術の研究をしているような会社が取るものではないのですか?」と言って驚いておられました。

ビジネスモデル特許の出願

この五十嵐さんのアイデアは、ビジネスモデル特許といわれる分野であり、技術そのものというより、ソフトウェアとの組合せによって実現されるその利用方法の有用性で特許権が取得できる可能性が十分あるのです。

そこで、私たちは、このような切り口で実際に特許になっている事例などを複数ご説明した上で、特許権になった場合は、単に競合他社の類似サービスを排除できるというだけでなく、「特許を取得している技術」ということで利用者様にも安心感を持ってもらえること、先々保育園についての事業再編などを検討するときに付加価値として評価してもらえることなど、特許の持つさまざまな効果をご説明しました。

五十嵐さんは、最初は驚いておられましたが、最終的には「ぜひ出願してください。そういうことなら、他にもアイデアがたくさんあるんです。」と言って、日ごろから考えていた顧客サービスや園の運営方法などについて、アイデアをご説明してくれました。私たちは、その中で、特許性があって、かつ、実際の経営においてもプラスの価値を産みそうな内容を整理し、いくつかの権利の形にして、特許出願をしました。

五十嵐さんは、特許出願後、早速その内容を知り合いのシステム開発会社の方にお話ししたところ、大変興味を持ってもらったようで、現在、その会社と秘密保持契約を締結して、保育園だけでなく学校向けのバーチャル見学サービスを共同で開発することになったと、喜んでおられました。

五十嵐さんは、もともと事業家で、他にも様々な事業を展開していますので、きっとこのアイデアをコアにして、他の業種にも事業を広げていかれると思います。その際に、他の企業と共同で何かを進めることになった場合、やはり基礎技術の特許を取得しているというのは、自分の立場を強くするうえでも、とても意味のあることです。五十嵐さんなら、この特許を、有効に活用できると思います。

私たちも、最初に五十嵐さんからご相談を受けた際に、法的な観点からのご回答だけではなく、ビジネスモデル特許の出願をお勧めして、本当に良かったと思います。クライアント様の事業に新しい価値を創造できることは、弁護士/弁理士をしていて、最もうれしい瞬間です。

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