コラム

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違法な海賊版をダウンロードさせる違法サイトへの有効な対策とは ~違法サイトへの広告を出した広告代理店への損害賠償請求が認められた判決の意義~

知的財産

2022.01.25

 海賊版とは、映画や本、漫画、音楽などの著作物について、著作権者の承諾なく著作権を侵害する形で製造、流通される違法、非合法な製品を言います。
「漫画村」や、映画、アニメ、音楽などが違法にアップロードされ、そのような違法サイトを通じて多数の人が作品をダウンロードするという事態は、著作権者の権利を侵害するものとして、以前から問題とされていました。

 このような著作権侵害をする違法な海賊版サイトに対する直接の対策としては、差止請求や損害賠償請求などの民事手続き、及び警察等に摘発してもらい、行為者に刑事罰を科してもらう刑事手続による対応が可能です。しかし、実際は、これらのサイトは海外で開設・運営されていたり、行為者がなかなか特定できなかったり、特定するために多くの手間と費用がかかったりといった問題点もあり、これらの民事及び刑事手続による対応には、一定の限界があります。

 また、一方で、このような違法なサイトから著作権侵害コンテンツを違法ダウンロードした者もまた、刑事罰の対象となり、逮捕される可能性があります。このような違法ダウンロードに対しては、2021年1月1日施行の改正著作権法で民事、刑事ともに対応が可能となりました。
 具体的には、たとえ「私的利用」の目的であっても、違法にアップロードされた著作権侵害コンテンツであることを知りながらそのコンテンツをダウンロードした場合は、著作権侵害となり、損害賠償請求等の対象となります。また、そのような著作権侵害コンテンツであることを知りながら、継続的に又は反復して違法ダウンロードを行った場合は、刑事罰の対象となり、「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」される可能性があります。
 しかし、実際には、一件一件の違法ダウンロード者を特定して責任追及をすることは、手間と費用と時間がかかる一方で、そこで得られる損害賠償額は低額であり、刑事責任についても「継続的に又は反復して」違法ダウンロードしたことが立証される必要があることなどから、なかなか有効な対策とはならないという状況にありました。
 このような状況下では、著作権者は、いたちごっこのように次々に出てくる違法サイトを、採算度外視でつぶしていく必要があり、権利者にとってもそのハードルは高いと言わざるを得ない状況であったわけです。

 このような背景を基に、2021年12月21日、東京地方裁判所で、画期的な判決が言い渡されました。この事件は、海賊版サイト「漫画村」に広告掲載料を支払った行為が著作権法違反(著作権侵害行為)の「ほう助」にあたるとして、漫画家の赤松健さんが、東京都の広告代理店とその子会社を相手取り、損害賠償をもとめた事件でしたが、裁判所は、この赤松さんの主張を全面的に認め、広告代理店らに対して、満額にあたる計1,100万円の損害賠償の支払いを命じました。
 このような違法な海賊版ダウンロードサイトは、広告料を主な資金源として運営されていることが多いのが特徴です。したがって、収入源である広告代理店からの広告料を断つことができれば、海賊版ダウンロードサイトを根絶する大きな原動力の一つとなると言えます。
 この判決においては、広告代理店は、単にこの違法ダウンロードサイトに広告料を払って広告枠を確保し、広告を掲載していたものであって、それ以上に違法アップロードやダウンロード行為そのものに関与していたわけではありませんでしたが、判決では、「漫画村が閉鎖されるまで、著作権が侵害されている状態が継続しており、このような違法状態は、被告らによる広告費の支払いによって助長され容易にされていたといえ、これをもって『ほう助行為』と評価することができる」と認定しています。また、損害賠償が認められるためには、行為者(この場合は、訴えられた広告代理店)に「故意または過失」が必要なのですが、この点についても、「漫画村が掲載する著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で、広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていたが、その確認を怠った」として、過失があったことを認めています。
 このような判決により、違法ダウンロードサイトに広告を出す者がいなくなれば、違法ダウンロードサイトの根絶に向けた大きな一歩になると言えます。

 ところで、今回は漫画の違法ダウンロードサイトでしたが、例えば商標権侵害物品がECサイト上で売買されている場合に、そのECサイトそのものに責任があるか、といった類似の論点もあります。
 このようなケースについては、楽天市場に「Chupa Chups」の類似品が出品されたことに対して、商標権者が楽天そのものも訴えたという事件(知財高裁平成24年2月14日判決)があります。このケースでは、結論としては楽天の責任は否定されたものの、判決においては、ECサイトの運営者が、「運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り」、損害賠償請求や差止請求を受けるという判断を示しています。
 したがって、このような場合では、商標権者が当該ECサイトに商標権侵害物品であることを通報したときは、当該サイト運営者が速やかに調査や対応を行わない限り、運営者自身が法的責任を負うことになるわけです。
 このような背景から、現在では、楽天やアマゾンなどのサイトにおいては、知的財産権侵害に関する情報を受け付けるフォームを用意しており、通報がなされたときは、出品者側に説明を求め、十分な説明がなされないときは、出品が削除されたり、出品者のアカウントが停止・削除されています。もっとも、最近では、上記の判決などを踏まえて、サイト運営者が責任を負うリスクを下げるという趣旨だとは思いますが、出品者に確認などをせずすぐに出品停止や削除、あるいはアカウントの停止や削除がなされる事例も多く、トラブルになる例も増えています。
 知的財産権の権利者の正当な利益保護と、取引の安全や適正な自由競争の確保のバランスは、実際のケースではかなり頭の痛い問題となることもあるところです。

 いずれにしても、著作権や商標権などの知的財産権の権利者としては、自分の権利を守るために、権利侵害があった場合は、出品者(アップロード者)や購入者(ダウンロード者)に対して個別の対処を行う方法と、ECサイトや広告主、プラットフォーマーなどに対して対処を行う方法とを効果的に選択、組み合わせて、迅速に対策を実施していくことが重要と言えます。

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