執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏
1.AIを使って生成された作品の「著作物性」を考える意味
AIを使ってデザインや音楽を作成することは、現在では一般的な手法となってきています。これに伴い、これらのAIを使って作った「作品」に対して、著作権が認められるかどうかは、非常に重要な問題となっています。
例えば、私がAIを使ってデザインや音楽を作ったとします。もしこれが、「著作権の対象となる」とすれば、私が著作者ということで、著作権を行使できることになります。つまり、誰かが私の作品を使いたいという場合にはライセンス料をもらうことができますし、もし勝手に私の作品がコピーされたり、改変されたりした場合には、差止や損害賠償請求を行うこともできます。
しかし、こんな反論もあるはずです。
「それを作ったのは、あなたではなく、AIでしょう?だから、あなたには権利はないはずです。」
日本も米国も同様ですが、著作権などの「権利」を保有できるのは人間だけです(会社も、「法人」として権利を保有することができます)。
したがって、「人間以外のもの」は、著作権を持つことはできませんから、AIなど「人間以外のもの」が作った「作品」が著作権で保護されることはない、ということになります。
まさに、この問題が、一連の米著作権局のレポートの対象となっており、かつ、日本でも以前から議論されている点でもあります。
もし、この作品を作ったのはAIであって、私ではないから、私には権利がないとされたとします。そうすると、私は、勝手に私の作品を使った人からライセンス料や損害賠償を得ることもできませんし、勝手に改変されたり、利用されたりしても、基本的には法的な対応は難しいということになります。
この点については、すでに、いくつかの裁判例があり、著名なものとしては、Naruto v. Slater (2018年)判決が挙げられます。これは、サルにカメラを持たせて、そのサルが撮影した「自撮り写真」につき、一定の撮影意図の下にサルにカメラを持たせた人間に著作権があるかどうか、が争われた事件です。(写真参照。2024年8月21日 Newsweek電子版より引用。https://www.newsweek.com/lawyers-dispute-wikimedias-claims-about-monkey-selfie-copyright-265961)
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なかなか素敵な写真で、芸術性が高いとも思えますが、この裁判でも、撮影したのがサルである以上、カメラを持たせただけの人間に著作権は認められないし、サルも人間でない以上著作権の主体とはならないので、結論として、この写真に著作権はない、という判断となりました。
2.米著作権局のレポート第2弾
この点について、2025年1月29日に発表された米著作権局のレポート第2弾、” Copyright and Artificial Intelligence Part 2: Copyrightability (A report of the register of copyrights January 2025)”では、骨子として、以下のような考えを示しています。
なお、このレポートには、特に法的拘束力はありませんが、今後の著作権局の指針として、また、それを通じて実際の法解釈に影響を与えるものとして、注目すべきものになります。
【レポートの骨子】
- AIによって完全に生成されたコンテンツは著作権保護の対象にならない。
- AIを補助的なツールとして使用する場合は、その出力が人間の創作物として認められる可能性がある。
- 著作権は人間によるオリジナルな表現を保護するものであり、AIによる生成物のみでは保護対象にならない。
- 人間の寄与が十分であれば、AI出力の一部が著作権の対象となる場合があるが、これはケースバイケースで判断される。
- プロンプトだけでは著作権を取得するには不十分である。
- 人間がAI出力を選択・調整・編集することによる創造性が認められる場合は、著作権が付与される可能性がある。
- 現時点では、AI生成コンテンツに対する新たな著作権法や独自の保護制度は必要ない。
つまり、AIそのものが生成したコンテンツは、人間の著作ではないので、著作権の保護はないし、これは、人間がプロンプトを入力したからといって、結論に差異はないということになります。但し、そのプロンプトが詳細であったり、AI生成物をさらに人間が調整、編集などして創造性を表現した場合には、その人間の著作物と認められる可能性があります。
また、AIが生成したものではなく、AIツールを補助的に利用して人間が作成した作品は、その人間の著作物と認められる可能性が十分にあると言えます。
さらに、プロンプトそのものについては、原則として著作権による保護の対象にならないと示した点も、興味深いと言えます。同じプロンプトでも、そこから必ずしも同じ生成物が得られるわけではなく、生成物のバリエーションは無数に考えられることから、「プロンプトを解釈しているのはあくまでAIであり、人間が行う創作的表現そのものではない」という考え方です。
3.AIを創作行為に関与させる場合の注意点
このように考えると、AIを利用して創作を行う場合にも、「簡単なプロンプトを与えてAIに成果物を複数生成させ、良さそうなものを選ぶ」、というようなやり方だと、その生成物は著作権によって保護されず、したがって、これを勝手に複製や改変されても、手の打ちようがないということになりかねません。
一方で、AIに生成させる場合であっても、詳細なプロンプトを与え、一定の明確な創作的意思の下に、成果物の具体的なイメージを持ちつつ、その「生成作業」をAIに代行させるといった場合には、著作物としての保護対象になる可能性が高いと言えます。
また、AIの生成物についても、そのまま利用するのではなく、最終的な選択や調整、編集を人間の意図の下に行い、最終成果物を完成させるようにした方が良い、ということになります。
このレポートも指摘するとおり、著作権に関しては、AIの関与と著作権の付与については、現在の著作権法に関する理解で対応できると考えられますので、新しい技術や手法が出てこない限り、現状では、上記のような解釈が世界の主流であり、今後も維持されるものと考えられます。
AIを使って何かを作成する場合は、このような観点から、ポイントを押さえて行うと良いでしょう。
4.AI生成物と「創作者の立証」
理論的には、上記のとおりなのですが、実は、もう一つ現実的に難しい問題もあります。
生成物について、「人間の関与」の有無によって著作物性が認められたり、認められなかったりするわけですが、その「人間の関与」がどの程度あったかについての立証をだれが行う必要があるか、ということです。
この点は、原則としては、自分に著作権があると主張する者が、「自分の創作的関与」を立証する必要があります。しかし、実際には、「私が作りました」と言って作品を発表すれば、ある程度の立証はできると言えます。あとは、「いやいや、あなたが創作したのではなく、AIが作ったでしょう」ということを、誰かが証明すれば、その作品は著作物性が否定される、という流れになります。
そうすると、現実としては、「AI丸投げ」で生成した作品であっても、「自分が作りました」と言えば、それで著作権を行使できてしまうことになります。
実際にも、本当はAIで自動生成したのではないかと疑われる膨大な数の楽曲を著作権登録されたケースでも、結果としては、著作権登録が認められてしまっている事例もあります。
日本音楽著作権協会(JASRAC)では、2023年度は3年前の2倍近い約18万曲が新規に登録されています。これは、不自然であり、かなりの数の楽曲がAIによって生成されたのではないかとも思われます。JASRACも、2023年8月に指針を作成し、AIが自律的に作詞作曲した作品は登録できないとしています。JASRACでは、申請件数が不自然に多い場合は創作過程を問い合わせる運用ですが、「著作者が自身の作品と保証すれば受け付ける」(嶋谷達也・常任理事)しかない状況でもあるようです。
実際には、この「登録された著作権」を行使する訴訟などになった場合に、「本当に人間が作ったのか」が争点になると思われますが、第三者が「この楽曲は、本当はAIで創られたものだ」と証明するのは、なかなか困難ではないかと思われます。
一方で、AIをツールとして使用して作品を創作する者としては、相手方から「それはAIが自律的に生成したものだから、あなたの著作物ではない」という反論がなされたときに対応できるように、生成過程を記録しておくなどして、防御を固めておくという配慮も必要です。
そもそも、創作行為を完全に「AI任せ」にしないという姿勢も重要かもしれません。
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