執筆者:弁護士 山腰健一
1 はじめに
Chat GPT などに代表される生成AI は、この1 年で急速な発展・普及を続けています。AI と著作権との関係については、主に、⑴AI 開発者が学習データとして他人の著作物を利用できるか、⑵AI 生成物がAI 利用者の著作物として認められるか、⑶AI 生成物が他人の著作権侵害とならないか、といった観点で問題となり、現在でも、文化庁等において望ましい規制の在り方について後追いの形で議論が重ねられている状況ですが、ここでは、⑶について現行著作権法を踏まえた考え方について解説したいと思います。
2 著作権侵害になる場合とは(一般論)
一般に、著作権侵害は、a「後発の作品が既存の著作物と同一又は類似すること」(類似性)、b「既存の著作物に依拠して複製等がされたこと」(依拠性)のいずれも満たす場合に成立します。
そして、a の類似性は、「創作性」のある「表現」が共通している場合に認められ、共通部分がアイデア(作風や画風等)や単なる事実のみである場合(=共通部分が「表現」ではない場合)や、誰でも行うようなありふれた表現(=「創作性」がない表現)についてのみ共通する場合は、類似性は否定されます。
また、b の依拠性は、既存の著作物を知らず、偶然に一致したに過ぎない場合は否定されますが、主観的事情ですので、後発の作品の制作者が、既存の著作物に接する機会があったか、既存の著作物が周知・著名だったか、後発の作品と既存の著作物との同一性の程度(経験則上、依拠していない限りこれほど類似することはないといえる程の顕著な類似性、誤植・透かし・無意味な部分などを含めて既存著作物と一致していること等)、後発の作品の制作経緯(既存の著作物に依拠せず専ら独自創作した経緯を合理的に説明できていること、制作の時系列等)を総合的に考慮して判断されます。
3 AI生成物の利用にあたって
そして、a の類似性については、AI 生成物の場合も、AI を利用せずに制作されたコンテンツと同様に判断されると思われますが、特に問題となるのは、bの依拠性です。例えば、AI 利用者がAI に「〇〇風の画像を作って」などと指示する場合や、Image to Image (i2i) で既存の著作物を入力して指示する場合は、従来の考え方に照らしても、依拠性が認められる可能性が高いといえますが、AI が既存の著作物に類似したものを生成したが、AI 利用者は当該既存の著作物(その表現内容)を知らなかったという場合には、直ちにそれだけで依拠性が否定されるのではなく、AI が当該既存の著作物を学習に用いていた場合には、依拠性を認めるべきであるという見解が有力に唱えられています。
しかし、AI が既存の著作物を学習に用いていたかどうかは、利用者にとっては容易に判断することができないことも多いと思われます。
この点は、今後の文化庁等における議論を注視する必要がありますが、ひとまず現状では、既存の著作物と類似していることが判明したAI 生成物については、①そのまま利用することを避ける、②そのまま利用する場合は、既存の著作物の著作権者から許諾を得た上で利用する、③既存の著作物とは全く異なる著作物となるよう、大幅に手を加えた上で利用するといった対応をしておくことが安全です。
- 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
- 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。