コラム

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AIやIoTに関する知的財産権 ~データや学習済みモデルは誰のもの?~

知的財産

2021.06.22

 IoT の分野においては、インターネットに接続された端末を通じて、様々な情報が集約、統合、分析され、ビッグデータとして、さらに価値あるビジネスモデルが提供されるようになってきています。また、AI の分野においても、AI のエンジンに、適切なデータを与えて学習させ、さらにディープラーンニングを通じて新たな学習済みモデルが生成、改良されていきます。これらの分野においては、与えられるべき「データ」や、AIが学習したのちの「学習済みモデル」が、大きな価値を持つことになります。


 ところで、このような「データ」や「学習済みモデル」は、法律的には、どのような権利で保護されていると思いますか?
 一般的には、このような「データ」そのものや、「学習済みモデル」は、特許権や著作権の対象とはなりにくいのが実情です。「データベース」であれば、一定の権利が成立しうる余地がありますが、単なる生データそのものは、権利の対象にはなりません。また、学習済みモデルは「関数」の一種であると理解されていますので、著作権の対象とはならず、学習済みモデルが持つ処理のアルゴリズムそのものは、場合によっては特許権の対象となる可能性がありますが、通常は、学習済みモデルの処理アルゴリ
ズムを抽出して、特許の対象となる形で明確化することは、非常に困難です。

  このように、実際に経済的に大きな価値を持つ「データ」そのものや「学習済みモデル」について、特許権や著作権があまり頼りにならない以上、「営業秘密」としての保護や「契約」での保護を考える必要があります。

 学習済みモデルやデータなどについては、安易に解読可能な状態で第三者や取引の相手方に提供することは極力避け、提供する場合は秘密保持契約や共同事業契約等で、しっかりとその利活用についての取り決めをしておく必要があります。

 また、これらに関するビジネスを組み立てる場合は、クラウドなどを活用して、極力、自社が管理する記憶媒体にデータや学習済みモデルが存在している形にすることが望ましいと言えますし、契約のスキーム作りの時点から、データや学習済みモデルを提供する対価をどう確保するかをしっかりと検討しておく必要があります。

 AI が学習できる状態の生データそのものも、その状態にするまでに選別、加工等の膨大な労力とコストが発生しているのが通常です。しかし、データがいったん提供され、AI が学習して学習済みモデルとなった時点では、データ提供者は、契約で特に定めていない限り、その学習済みモデルに対して何らかの権利を自動的に持てるということにはならないので、その点の注意が必要です。


 また、これらと少し違った視点の問題点として、AI により自動作成された成果物の権利の問題があります。例えば、AI が自動で作成した文章、画像、プログラム、表現といったものについては、いずれも原則として「著作権」は生じません。なぜなら、著作権は、「人」が創作したものに対して認められる権利だからです。これらについては、立法的な対応も検討されていますが、現時点では、残念ながら、十分と言える状況ではありません。
 したがって、これらAI が作成した成果物については、契約で利用関係を明確化するとか、物理的な保護手段(暗号化など)を用いて第三者による複製等を防止するなどして、しっかりとした自衛手段を講じる必要があります。
 AI もIoT も、まだまだ法律の整備が追い付いていない分野です。しかし一方で、これらを利活用したビジネスは、待ったなしのスピードで進んでいます。したがって、これらのビジネスを進めていくには、「契約」と「営業秘密」を念頭において、事前にきちんとした戦略を立てて、取り組んでいく必要があります。

(2019年1月執筆)

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