執筆者:弁護士 鈴木 萌
税関は、関税法に基づき、輸入・輸出される貨物の中に特許権、実用新案権、意匠権、著作権、商標権等の知的財産権を侵害する物品(以下「知的財産侵害物品」と言います。)が含まれている場合、その物品の輸入・輸出を差し止める権限を有しています(関税法第69条の2及び第69条の11)。
先日、財務省から、令和5年上半期の税関における知的財産侵害物品の差止状況が公表されました[1]。
令和5年上半期は、知的財産侵害物品の輸入差止件数が3年ぶりに1万5千件を超えており、件数ベースで前年同期比23.7%増となっています。近年の輸入差止実績をまとめたグラフは次のとおりであり、点数ベースでは、毎年増加しているようです。
引用:財務省ウェブページ
[1] https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2023_1/index.html
また、知的財産別の輸入差止実績は、次のグラフのとおりであり、過半数が「商標権」侵害物品(偽ブランド品等)で、続いて、「意匠権」侵害物品(デザインの模倣)、「著作権」侵害物品(偽キャラクター品等)が多いです。
引用:財務省ウェブページhttps://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2023_1/20230908a.html
財務省のウェブページには、実際に差し止められた知的財産侵害物品の例が画像付きで挙げられており、これらを見ると、実際のイメージが沸きやすいかと思います。
引用:財務省ウェブページhttps://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2023_1/20230908a.html
なお、税関が実施した輸入差止について、輸出元の国(地域)をまとめたグラフは次の通りです。
引用:財務省ウェブページhttps://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2023_1/20230908a.html
仕出国の約80%が中国であり、近年は、ベトナム、タイ、韓国、台湾等も上位に入っているようです。
このように、多数の知的財産侵害物品が税関によって差し止められていますが、これは、知的財産権者等による差止申立と、税関による認定手続という手続の結果、差し止められて没収等の措置が取られています。
(1)差止申立制度
差止申立制度とは、簡単に言うと、知的財産権者等が、自己の権利を侵害すると認める貨物が輸出入されようとする場合に、税関長に対し、当該貨物の輸出入を差し止め、認定手続をとるべきことを申し立てる制度です。(関税法第69条の4、第69条の13)
差止申立は、知的財産権者等から税関に対して行われます。差止申立書には、差止申立にかかる権利の内容、侵害物品の品名等、侵害物品と認める理由、識別ポイント等を記載する必要があります。
税関は、差止申立の受付後、1か月以内に受理不受理の審査を終えるよう努めるものとされており、差止申立が受理された場合、最長4年間、当該差止申立てが有効となります。また、差止申立ては、更新することが可能です。 差止申立を行うことで、権利者からの情報(知的財産侵害物品の情報、識別ポイント等)が税関に提供され、知的財産侵害物品の取締りを効果的に行うことが可能になるため、そのような効果を狙って行われることが多いです。
(2)認定手続
差止申立や税関職員による検査などの結果、知的財産侵害物品の疑いがある貨物が発見された場合は、税関において、認定手続を開始します(関税法第69条の3、第69条の12)。
認定手続の流れをまとめると、次のとおりとなります。
- 知的財産侵害物品の疑いのある貨物の発見
- 知的財産権者等及び輸出入者に認定手続の開始を通知(輸入差止申立にかかる貨物の場合は、この段階で簡素化手続をとる可能性があります。)
- 知的財産権者及び輸出入者からの証拠・意見の提出
- 知的財産侵害の有無を認定
引用:税関ウェブページ
https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/c_001.htm
侵害が認められない場合には輸出入が許可されますが、侵害が認められた場合には、不服申立て可能期間経過後に、税関が貨物の没収・廃棄等の措置をとることになります。(不服申立て可能期間中は、輸入者が、自発的に、貨物の滅却、廃棄、任意放棄、権利者の輸入同意書の取得等の修正を行うことができます。)
物品の輸出入に関わっている会社の場合は、ある日突然、税関から認定手続に関する通知が来るかもしれませんので、この手続きについて事前に押さえておくことをお勧めします。また、自社の知的財産を侵害する物品の輸出入にお悩みの場合は、差止申立の利用も一考の余地があります。
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