パワーハラスメント防止措置を事業主に義務付ける改正労働施策総合推進法(以下、「改正法」といいます。)が、令和2年6月1日に施行されました(中小企業は、令和4年3月31日までの間は努力義務)。
本稿では、この改正法により事業主に具体的にいかなる対応が義務付けられているのか、解説いたします。
1 概要
改正法第30条の2第1項及び同第3項に基づいて厚生労働大臣が定めるガイドライン(令和2年厚生労働省告示第5号)により、事業主は次の①から⑩の措置を必ず講じなければなりません(法律上の義務)。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
① 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、 労働者に周知・啓発すること
② 行為者(パワーハラスメントの加害者)について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
➄ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること
(4)そのほか併せて講ずべき措置
⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
2 具体的な対応方法
上記の①から⑧の内、特に実務上その実施方法についてご相談の多いものについて、以下具体例を挙げてご説明させていただきます。
(1)方針の周知・啓発の方法について(上記①について)
上記①の事業主がパワーハラスメントを行ってはならないとの方針などを周知する方法について、ガイドラインには、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に定める、社内報、パンフレット、社内ホームページ等へ記載する・それらを配布する、研修の実施等の方法が挙げられています。これらを参考に、各事業主様において、その実情を踏まえて適切な方法を採用していただくことになります。
(2) 行為者に厳正に対処する就業規則等の規定について(上記②について)
上記②の対応としては、行為者に厳正に退職する規定を設けるためには、就業規則その他の規程においてパワーハラスメントを明文で禁止し、かつ、これに反した者を懲戒の対象とする旨を定めます。
(3)相談窓口について(上記③及び④について)
相談窓口を内部に設けるためには、あらかじめ相談窓口となる担当者(あるいは担当部署)を定め、これを労働者に周知する必要があります。また、相談窓口が実質的に機能するよう、人事部門と連携する仕組みを構築しておくなどの必要があります。また、弁護士事務所等の外部相談窓口を活用する方法も考えられます。
(4)パワーハラスメントの申し出があった場合の適切な対応について(上記⑤~⑧について)
パワーハラスメントの申し出があった場合、まずは、申し出者の心身の状態やプライバシーに配慮しつつ迅速かつ正確に事実関係を把握する必要があります。また、パワーハラスメントの事実が認められた場合、事案に応じて、行為者に対して懲戒等の適切な措置を講じ、被害者に対しても、事案に照らして適切な措置を講じます。また、研修やパワーハラスメントの内容を改めて周知するなど再発防止のために必要な措置を検討し、これを講じます。
当事務所においても上記の対応方法について、事業主の皆様の実情に応じた具体的対応を助言させていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
(2020年7月)
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