執筆:弁護士 髙崎慎太郎
1 現代社会における中心的なコミュニケーションツールであるインターネット。匿名での情報発信が可能なため、安易で軽率な誹謗中傷や、プライバシー情報の無断公開などが横行し、その被害に悩まされている方も多いのではないでしょうか。本稿では、その被害への対応手段の一つである、発信者情報開示請求制度についてご紹介します。
2 上記のような被害に対しては、権利侵害情報の発信者に対する損害賠償請求や、その者についての刑事告訴などが考えられますが、それらを行うには、情報の発信者が誰であるかを特定しなければなりません。そして、この特定のために設けられたのが、発信者情報開示請求制度です。この制度は、いわゆる「プロバイダ責任制限法」に規定されており、「特定電気通信」による情報の流通により自己の権利を侵害された者に、発信者情報の開示を請求する権利が認められています。
3 この発信者情報開示請求の要件は、①「特定電気通信」による情報の流通によって自己の権利を侵害されたこと、②侵害情報を流通させた特定電気通信の用に供される「特定電気通信設備」を用いる「特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に対する請求であること、③侵害情報の流通によって権利を侵害されたことが明らかであること、④開示を受けるべき正当な理由があることです。
①の「特定電気通信」とは不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいい、ウェブ上の掲示板などがこれに該当します。②の「特定電気通信設備」とは特定電気通信の用に供される電気通信設備をいいます。また、「特定電気通信役務提供者」とは特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介しその他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいい、コンテンツプロバイダ(ブログや掲示板等のサービスを提供する会社など)やいわゆる経由プロバイダ(インターネット通信に接続するサービスを提供する会社)などがこれに該当します。④は発信者に対する損害賠償請求を行うことなどです。
要件を満たし請求が認められる場合には、「発信者情報」として、発信者の氏名、住所、メールアドレス、侵害情報に係るIPアドレス、侵害情報が送信された年月日及び時刻などが開示されます。なお、開示を受けるためには開示関係役務提供者が発信者情報を保有している必要があるところ、開示関係役務提供者には発信者情報にあたる情報を保存しておく義務はなく、開示を請求した時には、内部規程などに基づく保存期間の経過によりすでに消去されてしまっている可能性もあるため、スピード感には注意が必要です。
4 実務的には、①ウェブサイト運営者等のコンテンツプロバイダに対し、裁判外又は裁判上で、侵害情報を投稿した際に用いられたIPアドレス等や投稿時刻の開示を求め、それらの開示を受けると、次に、②当該IPアドレスを割り当てられている経由プロバイダに対し、裁判上又は裁判外で、その侵害情報が投稿された時刻にそのIPアドレス等を使用していた当該経由プロバイダの利用者である契約者の氏名等の情報の開示を求める、という流れが一般的です。もっとも、どのような場合にも発信者を特定できるわけではなく、侵害情報の投稿に利用された端末が公衆インターネット端末であるような場合などは、発信者を特定できない可能性があります。
5 このようにして発信者を特定できれば、侵害情報の発信者に対する損害賠償請求や、その者に係る刑事告訴などが可能になります。インターネット上での権利侵害については、本稿で紹介した発信者情報開示請求のほか、侵害情報を削除するよう請求するという対応も考えられます。当事務所も、インターネット上の被害への対応を取り扱っておりますので、お悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
(2020年7月)
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