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コラム

COLUMN

「抱き合わせ販売」について

企業経営・販売・広告

2021.08.04

執筆:弁護士 山腰健一

1 世界を襲った新型コロナウイルス。その影響で日本も深刻なマスク不足に陥りました。そのような中で2020年2月、ドラッグストアの一部店舗がマスクを栄養ドリンク等の高額商品とセットで販売していたことが報道され、公正取引委員会は、「独占禁止法が禁止する不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)につながるおそれがある」として、業界団体に対して今後同様の行為を行わないよう会員企業へ周知することを要請しました。

  そこで、今回は「抱き合わせ販売」にスポットを当てて、どのような場合に違法な「抱き合わせ販売」に該当するのか、簡単にご紹介したいと思います。

2 独占禁止法の条文上、「抱き合わせ販売」とは、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させること」と定義されています。ここでポイントとなるのは赤字を付した3点です。

⑴ 「他の」

  ある商品(主たる商品)に併せて購入させる商品(従たる商品)が「他の」商品であるかは、組み合わされた商品がそれぞれ独自性を有し、独立して取引の対象とされているか否かで判断されます。

  上記マスクの事例では、マスク(主たる商品)と栄養ドリンク(従たる商品)はそれぞれ独自の商品であり、通常それぞれ単品で販売されるものですので、「他の」に該当します。

  一方、例えば万年筆とインクは、それらの組み合わせによって初めて機能を果たすため、独自性を有するものではありません。また、過去に話題となったアイドルグループのCDと握手券は特に取り締まられていませんが、これは、握手券が単体で販売されていない(独立して取引の対象とされていない)という事情が考慮されたものと思われます。

⑵ 「購入させる」

  主たる商品に併せて従たる商品を「購入させる」とは、主たる商品を購入する際、客観的にみて少なからぬ顧客が従たる商品の購入を余儀なくされる場合を指します。

  上記マスクの事例でみると、通常であれば、その店で栄養ドリンクと一緒に購入せずとも、別の店に当たれば単体でマスクを入手できたかもしれません。しかし、市場におけるマスクの供給量が極めて少ない状況下においては、マスクを売っている店はなかなか見つかりませんので、多くの顧客はその店でマスクと一緒に栄養ドリンクを購入せざるを得ず、「購入させる」場合に該当するものと思われます。

⑶ 「不当に」

  以上のような「他の」商品を「購入させる」場合であっても、これを「不当に」行う場合と評価されなければ、違法な「抱き合わせ販売」には該当しません。この「不当に」と評価される場合としては、①従たる商品に関して顧客の選択の自由を妨げるおそれがあり、競争手段として不公正である場合と、②従たる商品の他の供給者が市場から排除されるおそれのある場合の2つがあり、上記マスクの事例は①の類型に該当します。

  ただ、公正取引委員会によれば、①の類型で「不当に」と評価するに当たっては、相手方の数、反復継続性、行為の伝播性等の行為の広がりを考慮するとしており、そのため、ドラッグストアの行為を直ちに違法とは断定せず、「(抱き合わせ販売に)つながるおそれがある」という指摘にとどめたものと思われます。

3 おわりに

  上記ドラッグストアの事例では、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況下において、マスクが人々の生命や健康に関わる重要な商品であることから、その品不足に乗じた販売手法は世間からも強いバッシングを受けました。

  もっとも、人気商品に不人気商品をセットで販売して不人気商品の在庫を処理するという手法は、事業者としては普通にやってしまいがちな販売手法かもしれません。

  ただ、そのような販売手法は独占禁止法が禁止する「抱き合わせ販売」として違法になる可能性がありますので、十分に注意が必要です。

(2020年7月)

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