1. はじめに
最高裁がTwitterのリツイート行為について権利侵害となりえると判断したというニュースを耳にされた方も多いと思います。本稿においては、当該最高裁判決の概要を紹介するとともに、Twitterを含むSNSの利用にあたっての留意点をご説明します。
2. 令和2年7月21日最高裁判決の概要
⑴ 事案の概要
本判決の事案の概要は、①写真家Aが撮影した写真に©マーク及び自己の氏名を付した画像を自らのWEBサイト上に掲載したところ、②BがAに無断で当該画像を用いたツイートを行い、③Cが当該ツイートをリツイートしたという事案について、写真家Aが、Twitter社に対してB及びCの情報(メールアドレス等)開示を請求した訴訟です。なお、本件は各審級で争点が異なりますが、紙幅の関係から、最高裁が判断したリツイート行為の氏名表示権侵害性に限定してご説明します。
⑵ リツイートの仕組み
Twitterのリツイート機能を簡単に説明すると、リツイートにより、URLのリンク及び画像の表示方法等を指定したデータが自動的にリツイート者のタイムラインに係るサーバー上に記録され、閲覧者が当該タイムラインを閲覧した際に、サーバーから閲覧者の端末に自動的に当該リンクと併せて設定された画像表示方法に従って画像が表示されるというものです。そして、Twitterの仕様により、閲覧者の端末に表示される画像はその上下がトリミングされることがあります。本件においても、リツイートにより閲覧者の端末に表示された画像の上下がトリミングされていた結果、写真家AがWEBサイトに掲載した画像に付した©マーク及び氏名が表示されないこととなったため、当該リツイート行為による写真家Aの氏名表示権の侵害性が問題となりました。
⑶ 最高裁の判断
最高裁は、画像のトリミングがなされるのがTwitterの仕様であり、また、サーバーから自動的に閲覧者にデータが送信されるとしても、リツイート行為により、直接的に閲覧者の端末に氏名表示がなされていない画像が表示されていることから、リツイート行為が写真家Aの氏名表示権を侵害すると判断しました。
⑷ 本判決の射程
本件は、無断掲載がなされた画像を含むツイートをリツイートしたものであるところ、本判決に付された補足意見によれば、本件のような問題が生じるのは無断掲載のおそれがある画像に限られると説明されています。また、氏名表示権に限れば、リツイートをした際に著作者の氏名を記載すればよいという理解もありえ、本判決の射程を限定的に解することも可能です。
3. SNS利用上の留意点
上記のように、判決の射程を限定的に解釈することも可能ですが、そもそも、SNSの利用者側が、著作権や人格権等、膨大な権利の侵害性について個別に判断することは実質的に不可能であると解されます。そして、本判決により、システムの仕様のせいだという反論も封じられることとなりました。
そのため、皆さんがSNSを利用される際には、万が一にも加害者とならないよう、少なくとも、①第三者を攻撃しない、②違法アップロードの可能性があるコンテンツを利用し、拡散しないという③他人の情報を掲載する際には承諾を得るという3点に留意した上でご利用いただく必要があるかと存じます。
よく「ネットは匿名だ」と言われますが、そんなことはありません。法的な手続を履践すれば個人を特定することも可能です。インターネット上の行為こそ、予期せず加害者となってしまう可能性があることを十分に認識いただいたうえで慎重に行動いただきたいと存じます。
(2021年1月)
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