• 明倫国際法律事務所

コラム

COLUMN

ベトナムにおける並行輸入規制

国際ビジネス

2021.08.04

並行輸入とは、外国で販売されている商品を国内の正規ルートとは別に輸入することを指す言葉です。このような並行輸入は、国内と外国との製品価格の間に差があることから、外国において国内と比べ安価な製品を購入し、国内に輸入することによって生じることが一般的です。

 日本国内においては、特許権における並行輸入事例としてBBS事件(最高裁平成9年7月1日)があり、特許権のいわゆる国際消尽を否定しながらも、外国における特許製品の譲渡において販売先や使用先から日本国内を除くよう合意し、かかる合意を当該製品に表示した場合に限り並行輸入の差止めができる旨判断されています。また、商標権における並行輸入事例としてフレッドペリー事件(最高裁平成15年2月27日)があり、①当該標章が輸出元国における商標権者又は商標権者から契約等によって使用を許諾された被許諾者等によって適法に付されたものであり、②我が国の商標権者と輸出元国における商標権者が同一人であるか又は法律的若しくは経済的に見て一体といえる関係にあって実質的に同一人であると認められ、③商品の品質が実質的に同一であるといえる、という三要件を満たした場合には、並行輸入が許容される旨判断されています。

 これに対して、ベトナムでは、知的財産法125条2項(b)において工業所有権が及ばない範囲が規定されており、商標関係を除き、外国市場を含む市場において適法に流通に置かれた製品の輸入、使用がこれに含まれるとされています。商標においては、文言上、標章所有者又はその使用権者以外の者が流通に置いたものが範囲から除外されており、権利行使を行うことができるとされています。また、並行輸入に関連する政令等として、政令99/2013/ND-CP及び通達11/2015/TT-BKHCNが規定されています。並行輸入の定義や取扱いに関する規定は通達に置かれており、並行輸入に該当する場合は知的財産権の侵害と扱われず、行政罰の対象とならないとされています。

 ベトナムにおける並行輸入は、国内又は海外において、ライセンシー(裁定実施権の場合を含む。)である所有者・法人・個人が、又は先使用権者が、国内外において適法に流通に置いた目的物の輸入とされています。並行輸入として許容される事例が、ベトナム科学技術省のホームページ(※)に掲載されています。 (※)https://media.most.gov.vn/vpdk/Pages/ChiTietHoiDap.aspx?chID=3

特許権における並行輸入の例としては、外国会社による特許製品Xの輸入・販売につき、特定のベトナム企業と独占販売契約等を結び、当該ベトナム企業を通じてベトナム市場での販売を予定していたところ、第三者が当該外国で特許製品Xを購入し、ベトナムに輸入する行為は並行輸入として認められています。

意匠権における並行輸入の例としては、外国で商品Gの意匠Yを保有しているA会社が、G商品を製造するため外国において外国会社Bにライセンスを付与した上、製造させている場合において、当該外国会社Bが製造・販売している製品を、第三者が購入してベトナムへ輸入する場合は並行輸入に該当するとされています。

商標権における並行輸入の例としては、外国で商標Zを取得し、当該商標を用いた製品Tを販売する外国企業が、ベトナムにおいて現地法人を設立し、商標Zにつきベトナム国内における商標登録を当該現地法人に行わせている場合において、第三者が当該外国において製品Tを購入しベトナムに輸入する場合は、並行輸入に該当するとされています。

 このように、ベトナムにおいては工業所有権ごとに並行輸入として許容される要件が個別に設定されているものではなく、概ね統一的な規定が置かれている点や並行輸入として許容されるか否かが資本関係のみならずライセンス契約関係による点に特徴があります。なお、工業所有権者本人が外国において適法に流通に置いた製品をベトナムに輸入することは、並行輸入として許容されますが、ここにいう権利者本人の解釈にあたっては、文言通り本人のみに限定されるものではなく、権利者本人と法的又は経済的に同視し得る関係を持つ者も含むと解する説が有力です。権利者本人と同視できるか否かは、販売代理店契約の締結の有無やライセンス契約の内容によって判断され、必ずしも資本関係のみで判断されるものではありません。また、日本国内においては、商標権に関する並行輸入について品質管理要件が設けられていますが、ベトナムでは、統一的な並行輸入の規定の関係でこのような個別要件は定められていません。

最後に、著作権関係において、ベトナム知的財産法は工業所有権のみを規定し、著作権の並行輸入に関する規定を置いていません。この場合も工業所有権の類推解釈により概ね同様の条件で並行輸入が認められると考えられます。

 並行輸入に関して紛争が生じた場合の裁判管轄については、ベトナム民法679条に、対象知的財産権の保護国の法令が適用される旨の定めがあるので、ベトナムにおいて並行輸入に該当しない製品(非真正品)の輸入差し止めに関しては、一般的にベトナム法が適用されると考えられます。

(2020年8月)

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

お問い合わせ・法律相談の
ご予約はこちら

お問い合わせ・ご相談フォーム矢印

お電話のお問い合わせも受け付けております。

一覧に戻る

ページの先頭へ戻る