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コラム

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食べログvs韓流村事件にみるプラットフォーマーと加盟店の付き合い方

企業経営・販売・広告

2022.06.21

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

 グルメサイト「食べログ」で評価点が不当に下がり、売り上げが減少したとして、焼き肉・韓国料理チェーン店を経営する「韓流村」がサイト運営のカカクコムに損害賠償などを求めていた訴訟で、東京地裁は6月16日、「食べログ」側のアルゴリズムの変更が独占禁止法に定める「優越的地位の濫用」に該当し違法であるとして、カカクコムに対し、3840万円の支払いを命じました。

 韓流村の主張によると、食べログを運営するカカクコムが、検索結果での表示が目立つ「高額契約」に切り替えさせるために、アルゴリズムを変更してチェーン店の評価点を下げたとのことで、実際にも、韓流村が運営する21店舗の点数は平均約0.2点、最大0.45点下がったため、食べログ経由の顧客が大幅に減少し、売り上げも月平均約2500万円減ったとのことです。

 この判決では、ポータルサイト側が、何の説明もなく、またアルゴリズムの仕組みを説明することもないまま、ある日一方的にアルゴリズムを変更し、その結果事業者が大きな不利益を受けた点を問題にし、かつ、「食べログ」の持つ送客力、シェアなどを考慮すれば、「食べログ」は「優越的地位」にあると認定しました。その上でアルゴリズムの変更は「あらかじめ計算できない不利益を与えるもので、公正な競争秩序の維持から是認される商慣習に照らして不当であり、優越的地位の濫用に該当する」として、独占禁止法に違反すると結論づけています。

 実は、この裁判の提訴に先立つ2020年3月18日に、公正取引委員会は「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書」を公表し、この問題に切り込んでいます。

 この報告書では、飲食店ポータルサイトの実情を調査した上で、「優越的地位にあるといえる飲食店ポータルサイトが存在する可能性は高い」とし、検索結果の表示に関するルール(アルゴリズム)についても、一定の場合には、独占禁止法に違反する可能性があることが記載されています。

 例えば、より高額の契約をしないと評価点が下がるようなアルゴリズムを採用するとか、正当な理由なく恣意的なアルゴリズムの変更により特定の飲食店が不利益を被るような場合などには、「差別取扱」や「優越的地位の濫用」に該当する恐れがあるとしています。

 また、より検索上位に表示される高額プランの新規導入などについても、その内容等について 飲食店に対して十分な説明を行うとともに,その説明に当たっては,飲食店が十分に判断できるよう,可能な限り時間的な余裕をもって行うことが,公正かつ自由な競争環境を確保する観点から望ましい 」としており、説明責任を果たすことと、飲食店に熟慮できる期間を提供する必要性を指摘しています。

 さらに、よく見られるトラブルとしては、利用者や消費者から明らかに悪意のある誹謗中傷のような書き込みがなされた場合に、ポータルサイトが適切に対応してくれず、そのため集客上の問題が生じるようなこともあります。

 このような場合についても、この報告書には言及があり、「客観的に正確でないと判断できる場合には、特段の条件なく、加盟店でない飲食店からの 削除・修正要望にも応じるなど、掲載される情報の正確性の向上に努めることが、公正かつ自由な競争環境を確保する観点から望ましい」、「掲載情報の掲載や口コミの削除・修正について、飲食店と投稿者間において問題が生じる場合は、当該 紛争を処理できる体制の整備を行うことが、公正かつ自由な競争環境を確保する観点から望ましい 」などと記載されています。

 最後に、この報告書では、今後のこうした「ポータルサイト問題」に対する公正取引委員会の姿勢として、強い態度で臨んでいくことを示唆しています。具体的には、以下のように記載されています。

  1. 独占禁止法に違反する行為に対しては厳正・的確に対処する。
  2. 飲食店ポータルサイトを取り巻く競争環境の変化について,引き続き注視する。
  3. 飲食店ポータルサイト以外の分野のポータルサイトにおいても、本報告書において提言した考え方が参考となる場合もある。
  4. 本報告書で行った提言について,飲食店ポータルサイト等が積極的に取り組むことによって,公正かつ自由な競争環境が整備されその結果,飲食店ポータルサイトや飲食店等の間の競争が促進されるとともに,ひいては消費者利益の向上が実現されることを期待する 。

 上記の公正取引委員会の③の指摘は注目すべきであり、今後、飲食店に限らず、旅行、ホテル、コンサートやイベント、物販、エステ、美容サロン、その他サービスなど、さまざまな分野のポータルサイトにおいても、同様の考え方による規制がなされる可能性が十分に考えられます。

 実際、2022年3月16日には、公正取引委員会が、「ブッキング・ドットコム」(本社・オランダ)が宿泊施設と結んでいた契約の中で、同社のサイトに載せる料金を、①他の競合予約サイトや②施設の自前の予約サイトと、同じか、安くするように求めていた条項(いわゆる「同等性条項」)につき、「独占禁止法上問題がある」との見解を公表して、大きなニュースになりました。

 こうした傾向は、今後ますます拡大していくものと考えられます。

 ポータルサイトが多くの情報と送客力を有するという実質的な力関係の非対称性が生じている現在では、ポータルサイトと加盟店との契約も、単なる「民民の契約」として契約自由の原則がそのまま妥当するということではなく、こうした独占禁止法の観点から、契約内容や規約内容が適正かどうかを厳しくチェックされるようになってきていると言えます。

 加盟店の皆さんは、契約や規約に書いてあるからと言ってあきらめるのではなく、こうした観点から、不当な不利益については強く是正をポータルサイトに求めていく、という姿勢も重要となると考えます。

 一方で、今後、このようなポータルサイト的なサービスを立ち上げようとしている事業者の皆さんは、ポータルサイトに対する社会的な視線や法的な要求が変わってきていることを踏まえ、サービス内容の設計や苦情処理体制の構築など、しっかりとした事前準備をしていく必要があると言えます。

 この機会に、ポータルサイトの運営者の皆さんも、また加盟店としてポータルサイトとの付き合い方に悩んでいる皆さんも、一度、「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書」を一読していただき、あらためて提供又は利用するポータルサイトの契約書や規約をしっかりと読んでみてはいかがでしょうか。そうすれば、新しい発見やアプローチが見えてくるかも知れません。

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