執筆者:弁護士 原智輝
「日本からベトナムへの販路拡大」は、コロナ禍であるにもかかわらず、依然ホットなワードとなっています。日本国内での限界を感じマーケットを海外に求める企業にとって、急速に成長するベトナムは、販路拡大先として有力な候補の1つでしょう。
さて、「わが社の商品をベトナムに」と考えた際に、その手法は多種多様です。とはいえ典型的な拡大手法は大きく3~4つの類型に分けられますので、製品の性格に応じて使い分けるとよいでしょう。ここでは、販路拡大初期段階で採用されることが多い現地法人型以外の類型を紹介します。
類型は、販売先とセールスの担い手によって次のように分けられます。
最もシンプルな方法が、転売型に属す方法です。これは、現地の卸売業者に自社製品を販売し、現地卸売業者が現地小売市場に転売するものです。
この手法の利点は、卸売業者に販売した時点で売上を確定できる点と、ベトナム小売市場で商品が売れ残った際の在庫リスクを抱える必要がない点です。いわゆる大量生産商品に向いている類型です。法的には、日越間(メーカーと現地卸売間)売買と、現地での卸売業者と消費者間の売買とで、2度の売買が生じることになります。注意点は小売価格をコントロールできないことで、主な法的検討事項は輸出入関係になります。
次に代理店型は、現地の代理店が、日本側に代わって(代理人として)製品を販売する方法です。売買自体は日本側と現地消費者間に成立し、代理店が代理人という構成になります。
ベトナム商法では、日本と異なり、代理店販売に関する条文が置かれており、代理店から委託側への担保供用、代理店契約期間に関する定め、報酬に関する定め等が置かれています。また、代理店を利用する場合は、専属性を持たせるかどうかなど更に細かくその代理販売できる条件について設定を行う必要があります。代理店型の利点は価格のコントロールを行うことができる点にありますが、在庫リスクは委託側に属します。また、代理店が権限外の行為に及んだ場合のトラブルリスクなども勘案すべきでしょう。
転売型との比較では、ブランディングや販売手法、販売価格などベトナムでの商品展開をコントロールしたい場合に採られる手法になります。また、この手法の場合、代理店側は転売型と異なり、商品購入に伴う資力を要しないので、多くのディストリビューターを抱えたい場合にも向いています。
最後に仲介型です。代理店型との違いは、仲介型では仲介役は顧客を紹介するだけで、法的には売買に介在しないことです。顧客を紹介し、成約した場合に報酬が支払われますが、売買自体は日本側と現地消費者との間の取引となります。
この手法は、高価かつ少量の製品展開に適しており、例えば医療機器や高級品などの高額商品販売の場合や、テスト販売的な段階で採られたりしています。また、仲介役には売買についての権限がないために、現地の業者への信頼がまだ十分ではない場合などにも活用できる方法です。
以上整理すると、ベトナムへの販路拡大を県とする際には、日越の法令が用意している枠組みに対して、自社製品の価格や製造個数、在庫リスクやブランディングなどを勘案し、どの枠組みを基本とするのがしっくりするのかという点を把握しておく必要があります。枠組みを誤ってしまうといわゆる取引リスクに発展しますが、適切な枠組みを用意すれば、商流を明確化しつつ販路拡大へと繋げていくことができます。
(2021年8月執筆)
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