コラム

COLUMN

ジョブ型人事のこれから

人事労務

2025.04.09

執筆者:弁護士 吉田幸祐

 政府は、令和6年8月28日、「ジョブ型人事指針」(以下、「本ガイドライン」といいます。)を公表し、個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入を積極的に推進しています。
 また、同年4 月には、労働条件に関するルール改定により、採用後の職種変更範囲の明示が義務化されるなど、ジョブ型人事の拡大を視野に入れた対応が進んでいます。
 そこで本コラムでは、本ガイドラインの内容と、ジョブ型人事の課題について俯瞰したいと思います。

1 ジョブ型とメンバーシップ型

 ジョブ型人事とは、職務(ジョブ)を実行するために必要(もしくは有効)となるスキル、経験、資格などを持つ人材を採用する人事制度です。これに対して、従来の日本では、新卒一括採用で終身雇用を前提として人材を確保し、職務内容や職種を限定せず、会社主導で職務を変動させながら長期的に雇用するというメンバーシップ型人事が主流でした。
 しかし、企業の生産性を向上させて経済成長をするためには、人材が企業間を移りやすくして、労働力の流動化を図ること(人材の流動化)が必要と考えられており、現在ジョブ型人事のニーズが高まっているのです。

2 本ガイドラインについて

 本ガイドラインでは、日本企業と日本経済の更なる成長のために急務であるとして、富士通や日立製作所といった既にジョブ型人事を導入している20 社の具体的な事例を紹介し、企業ごとに、①制度の導入目的、経営戦略上の位置付け、②導入範囲、等級制度、報酬制度、評価制度等の制度の骨格、③採用、人事異動、キャリア自律支援、等級の変更等の雇用管理制度、④人事部と各部署の権限分掌の内容、⑤労使コミュニケーション等の導入プロセス、などについて、個々の企業の特徴が分かるように詳しく紹介されています。
 その上で、本ガイドラインを参考に、自社のスタイルに合った導入方法を検討するように各企業に対して求めており、実際に本ガイドラインの20 社もジョブ型人事への転換を積極的に自己評価していることがわかります。

3 ジョブ型人事の課題

 他方で、ジョブ型人事制度の活用は、日本の労働法との関係で課題も散見されます。
 従来のメンバーシップ型人事においては、社内経歴が職能として蓄積される形で基本給が減少するということはあまり見られませんでしたが、ジョブ型人事制度の下ではこの前提は崩れ、能力に応じたポスト異動による基本給の変動が日常的になされることとなります。
 しかし、このような降格・減給を、単なる配置転換ではなく「不利益変更」に該当すると受け止めた従業員との間に紛争が発生する恐れがあります。
 実際に、現状の日本企業が導入するジョブ型人事制度は、従来のメンバーシップ型の人事制度をベースに残しつつ、職務・役割等級制度の要素を部分的に取り入れる「混合型」が多く、そのような制度化で降格が問題となり訴訟に発展した場合、裁判所の判断も当該企業の雇用管理の実態によって個別に判断されることが予想されます。
 そのため、企業によっては降格確定前に改善プログラムを用意するなど、軋轢回避に工夫を凝らしています。
 また、前掲(2025年3月21日)の柏田弁護士執筆のコラムにて詳細な説明をしておりますが、最高裁は、令和6 年4 月26 日、職務及び業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある職員に対して、会社が一方的に配置転換を命じることを「違法」とする初判断を示しました。
 本件配転命令は、同法人において同職員が担当していた業務が廃止されることにより、技術職として職種を限定して採用された同職員につき、解雇もあり得る状況のもと、これを回避するためになされたという特殊事情があり、実際に原審では、本件配転命令が違法無効であるとはいえないと判断されていました。
 しかし、最高裁は原審の判断を否定したため、同様の状況が発生した場合に、企業は一方的な配置転換を命ずることができないこととなりました。
 他方で、社員が配置転換を断った場合に、解雇すれば、裁判に発展する可能性は高く、その場合の見通しも現状は不透明です。
 ジョブ型人事制度の導入にあたっては、各企業の個別事情をふまえた準備が必要になりますので、事前に当事務所にご相談いただければ幸いです。

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