コラム

COLUMN

運転者だけではありません!~交通事故における運転者以外の責任について~

一般企業法務等

2021.06.22

1 はじめに

 交通事故を起こしてしまった場合、運転者は被害者に対して損害賠償責任を負います。他にも、「運行供用者」(自己のために自動車を運行の用に供する者)や、従業員が業務に従事している際に事故を起こした場合には、その使用者も損害賠償責任を負うことがあります。
 ただ、あまり知られていませんが、それ以外にも、加害者と同居している家族や、運転者と一緒に飲酒していた者にも、交通事故の賠償責任が認められることがあるのです。今回は、そのような交通事故を起こした運転者の関係者の賠償責任の有無が問題となった裁判例をご紹介します。

2 てんかんの発作による事故―宇都宮地裁平成25年4月24日判決―

⑴ 事案の概要
 交通事故を起こした加害者(事故当時26歳)は、小学生の頃からてんかんに罹患していました。加害者の母親は、事故当時も加害者と同居しており、加害者が抗てんかん薬を医師の処方通りに服用していなかったときには、必ずてんかんの発作を起こしていたことを認識していました。
 加害者はてんかんに罹患していたことを秘してクレーン車の運転免許を取得し、建設業者に勤務していました。そのような中、加害者がクレーン車を運転して工事現場へと移動している最中に、てんかんの発作が起きて意識を喪失し、歩道上を歩いていた児童6名にクレーン車を衝突させ、全員を死亡させてしまったという事件です。


⑵ 裁判所の判断
 この事件において、裁判所は、加害者の母親も、事故を回避するための措置をとるべき法的義務を負っていたとして、回避措置をとらなかった母親の責任を認めました。
 裁判所は
 ①母親は、加害者が抗てんかん薬を処方通りに服用しなかったときは、必ずてんかんの発作を起こして

  おり、事故前日も、加害者が抗てんかん薬を処方通りに服用していなかったことを認識していたこと
 ②母親は、加害者が出勤し、自動車の運転に従事することを知りながら、会社に通報するなど、事故発

  生の防止措置を取らなかったこと
を認定し、母親が、加害者による自動車の運転行為により歩行者等の生命、身体及び財産に対する重大な事故が発生することを予見することができたにもかかわらず、交通事故の発生を防止する等の手段を講じることをしなかった点に違法性を認めたのです。
 ただ、上記の事件では、母親が、加害者が自動車事故を起こすたびに、新たな自動車を加害者に買い与えたり、てんかんの罹患を知っていた医師の診察の際に、加害者が「会社でどんな仕事をしているのか」と聞かれた際にも、加害者と一緒に、クレーン車の運転はしていないと嘘をついたりした等、母親には加害者の自動車の運転についての協力・加担行為があったことも考慮されていますので、やや特異な事実を前提にした裁判例でもあります。
 本裁判例はてんかんの発作による事故ですが、飲酒運転による事故でも、同様に関係者の責任が問題となるケースが多数あります。

3 飲酒運転事故における関係者の責任について

 近年、悲惨な事故が多発していることを受け、飲酒運転に対して、社会的な批判が強まっており、飲酒運転による事故について、運転者だけでなく、飲酒運転の際に同乗した者や、共同して飲酒をする等、飲酒運転に関与した者にも民事上の責任が問われることがあります。以下では、それらの関係者の責任が問題となった裁判例をご紹介します。


⑴ 同乗者の責任
 千葉地裁平成23年7月11日判決では、飲酒運転による事故の際、加害者と共に飲酒し、事故時に同乗していた者の責任の有無が問題となりました。
 裁判所は、①同乗者が、運転者が大量に飲酒する場に同席しており、運転者が正常な運転をすることができない可能性を十分に認識していたこと、②当該同乗者が、運転者の指示により、車両の鍵を運転者の自宅まで取りに行き、運転者に渡していた事実を認定し、当該同乗者も飲酒運転とそれによって惹き起こされた事故につき、相当程度の積極的な加功をしていたとして、同乗者にも賠償責任を認めました。


⑵ 非同乗者の責任
 では、事故を起こした加害者と一緒に酒を飲んでいたものの、同乗まではしていない者の責任はどうでしょうか。
 東京地裁平成18年7月28日判決では、直前まで加害者と一緒に飲酒をしていた同僚の責任が問題となりました。裁判所は、①当該同僚が長時間にわたって加害者と共に飲酒をし、それによって加害者が正常な運転ができない程度の酩酊状態にあることと認識していたこと、②当該同僚は、一緒に飲んでいた取引先の社長を介して、加害者に、代行運転を頼むことを促すにとどまり、自らタクシーや代行運転を呼ぶことをしなかったことを認定し、会社の同僚に賠償責任を認めました(飲酒運転の幇助)。

 一方で、責任が否定された裁判例もあります。
 名古屋地裁平成26年1月31日判決は、運転者が飲食店にて飲酒し、眠たそうにしていたところを、当該運転者を車まで連れて行った後に、当該運転者が事故を起こした事案で、運転者を車まで連れて行った者(運転者の知人・被告)の責任を否定しました。裁判所は、①当該事故は、飲酒後、眠気を感じて前方中止が困難な状態での事故であり、事故の背景に飲酒があるとしても、直接の原因ではないことを前提に、②被告自身は飲酒をせず、運転者に積極的に飲酒を勧めたりはしていないこと、③運転者を車に連れて行った際、運転者が直ちに車を運転しないことを確認し、眠かったら仮眠をとってから運転するよう注意喚起していることを認定し、被告には、積極的に飲酒を勧めた事情もなく、具体的な予見可能性がないとしたのです。


⑶ 家族の責任
 また、前掲の東京地裁平成18年7月28日判決では、運転者が日ごろから飲酒運転をしていることを知っていた妻の責任も問題となりましたが、裁判所は、「本件事故が出勤途中に生じたのであればともかく、勤務を終えた後の帰宅途中に生じているのであるから」、一緒に飲酒をしていた同僚と異なり、妻には運転者の「運転を制止させ、本件事故を回避する直接的、現実的な方策があったとまでは認められない」として、妻の責任を否定しています。


⑷ 飲食店の責任

 更には、運転者に飲酒をさせた飲食店従業員の責任が問題となった裁判例もあります。
 東京高裁平成16年2月26日判決は、酒類を提供した従業員の責任について、①飲酒自体が事故の原因とも言えないこと、②当該従業員は、飲酒運転による事故発生の一般的な危険性はともかく、事故発生を具体的に予見できたとは言えないとして、従業員の責任を否定しました。また、同裁判例の原審(水戸地方裁判所龍ケ崎支部平成15年9月22日判決)では、「運転開始時点で飲酒の影響によって事故を起こす危険があると運転者が判断したときは、運転者が自己の責任で代行運転を頼むなり、その場で仮眠を取る等して運転を控えるべきであり、そうした運転者の合理的な行動を期待できない特段の事情のある場合はともかく、通常の場合は、そこまで飲食店側がいちいち配慮して酒の提供を拒絶すべき義務があるとは思われない」ともされており、これによると、店側に責任が生ずるのは、運転者の合理的な行動を期待できない特段の事情がある場合に限られることにもなりそうです。


⑸ まとめ
 これらのような、飲酒運転の関係者の責任が問題となった裁判例の傾向を簡単にまとめると、「運転者が、お酒を飲んで正常な運転ができない状態で車を運転することを知っており、かつ、その場において、家族や同僚、お酒を提供する飲食店等、運転者に対して運転の制止を求めることが期待される者」に責任が認められているようです。先にご紹介したてんかん発作についての裁判例(宇都宮地裁平成25年4月24日判決)でも、てんかんの発作によって正常な運転ができないことを認識しており、会社に通報することによって運転を制止することができた母親に責任が認められたのも、同様の考えに沿っているとも考えられます。

4 おわりに

 以上のように、飲酒運転等により事故が起きてしまった場合には、運転者だけでなく、その周囲の人も責任を問われることがあります。飲酒運転による悲惨な事故を起こさないためにも、運転する人だけでなく、周囲の人もしっかりと対応していくことが大切です。

(2018年1月執筆)

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

お問い合わせ・法律相談の
ご予約はこちら

お問い合わせ・ご相談フォーム矢印

お電話のお問い合わせも受け付けております。

一覧に戻る

ページの先頭へ戻る