コラム

COLUMN

越境EC・インバウンド消費における製造物責任

国際ビジネス

2023.08.04

執筆者:弁護士 松浦駿

1 越境EC・インバウンド消費と製造物責任

 近年、越境EC・インバウンド消費が拡大しており、円安傾向及びコロナ関連規制の緩和状況に鑑みれば、拡大傾向が継続すると考えられます。
 この点、製品を製造・販売する際に避けて通ることのできない法令が製造物責任法(PL 法) であり、適切にリスクに対処しなければ予想外の損害を被ることから、本稿においては、PL 法の概要を説明した後、製造業者が検討すべきリスクヘッジについて説明します。

2 PL法の概要

⑴ PL法の概要

 日本のPL法は、製造物の欠陥が原因で生命、身体等に拡大損害が生じた場合に、製造業者が無過失で負う責任です。アメリカや中国等の諸外国おいても同趣旨の法令が定められていますが、日本法とは異なる点も存在します。
 PL 法の詳細な説明は省略しますが、多くの国においてPL 法は強行規定であり、契約によってその責任を免除することができません。また、国内においてのみ販売する製品についても、インバウンド消費向けに販売する製品については、旅行者の居住地における製造物責任を負う可能性もあることから、輸出先の国におけるPL 法の内容を理解した上、適切な対応策を講じる必要があります。

⑵アメリカのPL法の特徴

 アメリカの製造物責任法は、連邦として統一された法律や規則は存在せず、各州によって規制されています。また、各州の成文法のみならず、裁判例も各州の判決に大きな影響を与えていることから、日本と異なり、どのような場合に製造物責任が認められるかの予測が困難といった特徴があります。
 さらに、アメリカにおいては、懲罰的賠償制度が存在しており、実際に被害者が被った損害よりもはるかに大きな金額を賠償しなければならない可能性も存在します。

⑶中国のPL法の特徴

 中国のPL 法の特徴として、製品の流通開始後に欠陥が判明した場合における、販売停止、リコール等の義務が明記されている点、及びアメリカと同様に懲罰的賠償制度が存在する点が挙げられます。
 また、立証責任に係る実務上の傾向として、被害者が欠陥の存在を初歩的に証明できれば、これを覆す証拠を提出出来ない場合には、欠陥の存在を推定されることがあるため、より迅速かつ正確な事故原因の調査が要求されます。

3 リスクヘッジの方法

 上記のとおり、海外において製品が利用される場合には、日本のPL 法より広く、高額の賠償責任を負うおそれが存在します。そのため、適切なリスクヘッジを検討する必要性が高いところ、最初に思い浮かぶのはPL 保険への加入だと思います。海外における製造物責任の成否及び賠償金額は予測が困難なため、原則的に加入すべきですが、アメリカを販売先とする場合には保険料が高額化することから、販売の規模や製品の性質によって加入の要否を検討することもありえます。
 また、製品自体の安全性を高めることは勿論、サプライチェーン全体を通じて欠陥が発生する可能性を低減し、輸出先国や世界共通の安全基準を遵守するとともに、輸送業者や輸入業者を介し、一定の範囲で責任を転嫁する契約を締結することで、リスクを低減するスキームを構築することも検討すべきです。
 このように、海外販売事業はリスクが大きい反面、適切にリスクを分析し、対処することで大きな利益を生み出すことも可能ですので、事業を開始することを検討される際にはお気軽にご相談ください。

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  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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