コラム

COLUMN

職種限定合意と配置転換権に関する最高裁判決の影響と実務対応

人事労務

2025.03.21

執筆者:弁護士 柏田剛介

 働き方改革や雇用の多様化に伴い職種限定社員の採用も今後増えていくと考えられますが、令和6 年4 月26 日、配置転換権について実務に重要な影響を与える最高裁判決(本判決)が出されました。本稿では、本判決の意義と実務への影響についてご説明いたします。

1 従来の実務 

 日本企業の多くは長年にわたり終身雇用を前提として人事制度を採用し、社員の担当業務についても、社内の多くの業務を経験しつつ昇進させていくという人事ローテーションによる育成を行ってきました。裁判所も、そのような配置転換について企業に広範な裁量を認めてきました。
 また、管理職や技術職などとして職種を限定(職種限定合意)して採用した人材については、多くの裁判例においては、自由な配置転換は認めなかったものの、この場合も異動が全く認められてこなかったわけではなく、他の職種に転換することに正当な理由があるといえる特段の事情がある場合などには配置転換が認められるとされてきました(東京海上日動火災事件(東京地判平成19 年3 月26 日))。 

2 本判決の内容と意義 

 ところが、本判決は、職種限定合意がある場合の配置転換権を明確に否定しました。
 本判決は、福祉用具センターの技術職として雇用された従業員が、部署の廃止に伴って会社から総務課施設管理担当への配置転換を命じられ、そのような命令が違法であるとして、会社に損害賠償を求めた事件です。最高裁は、職種を技術職に限定する合意があった場合には、使用者は、その個別的同意なしに配置転換を命ずる権限を有しないと判断しました。
 本判決では、使用者側は、部署の廃止後も労働者の雇用を継続するために配置転換は必要な措置だったと主張したのですが、それでも会社に配置転換権を認めませんでした。

3 実務上の留意点

 このように、本判決が職種限定合意のある場合の配置転換権がないことを明確にしたため、企業にとっては、職種限定合意の成否について明確化しておくことが求められます。では、どのようにして明確化しておけばよいのでしょうか。
 この点、労働契約書において、職種や業務内容を限定した採用であること(将来他の職種や他の業務への変更がないこと)を明示的に記載しておくことが特に重要です。裁判例においても、明示的な合意がない場合は、職種限定合意を否定する傾向にあり、最高裁(日産自動車事件(最判平成元年12 月7 日))も、単に長年にわたり特定の内容の業務に従事していた事実のみでは職種限定合意は認められないとしています。
 労働基準法施行規則の改正により、令和6 年4 月から、労働契約書に将来の業務内容の変更の範囲を明らかにすることが義務付けられました。今後は、職種限定合意をする場合には採用時に明示しておくことがますます求められるうえ、在職中の従業員についても、その点が明確ではない場合には、確認書を取り交わしておくなど書面により職種限定合意の存在を明確化しておく対応が求められます。

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