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コラム

COLUMN

競馬と所得税

事業承継・相続・家族信託

2021.07.09

1 競馬と所得税

競馬に出かけた際、偶然にも万馬券を当てたとします。思わぬ臨時収入ですが、競馬による収入には、所得税がかかるのでしょうか?所得税がかかるとした場合、当たり馬券の購入代金や、一緒に購入したはずれ馬券の購入代金は、経費として控除されるのでしょうか?以下では、所得税について概略をご説明して、最近ニュースになった競馬による所得に関する最高裁判例について検討したいと思います。

2 所得税の種類

所得税法では、所得を①利子所得、②配当所得、③不動産所得、④事業所得、⑤給与所得、⑥退職所得、⑦山林所得、⑧譲渡所得、⑨一時所得、⑩雑所得の10種類に分類し、それぞれの分類ごとに異なる計算方法を用いて所得額を算定することとされています(所得税法23条以下)。このうち、今回の競馬による所得に関係するのは、⑨一時所得と⑩雑所得の2つの所得です。

3 一時所得とは

まず、一時所得とは、上記①ないし⑧の8種類の所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいうとされています(所得税法34条1項)。たとえば、生命保険契約に基づいて受領する一時金や、懸賞金がこれに当たるといわれています。また、競馬で生じた所得についても、そのほとんどは、一時の所得かつ役務等の対価でない所得として、一時所得に分類されます(所得税基本通達34-1)。

一時所得の課税対象額の計算方法については、総収入額から「収入を得るために支出した金額」及び特別控除額(最大50万円)を控除した額を課税対象額とする旨定められています。ここでいう「収入を得るために支出した金額」の意味ですが、これは「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」に限られ、具体的には、支出と収入との間に個別の対応関係が必要とされています。例えば、競馬による収入に関していえば、原則として当該レースの当該的中馬券の購入代金は「収入を得るために支出した金額」に含まれますが、それ以外の馬券の購入代金は当該的中馬券との間に個別の対応関係が認められないため、「収入を得るために支出した金額」には該当せず、控除の対象にはならないと解されています。

4 雑所得とは

次に、雑所得とは、上記①ないし⑨の9種類の所得以外の所得をいいます。たとえば、公的年金や、作家以外の人が受け取る原稿料、印税等が雑所得に該当します。

そして、雑所得の課税対象額は、総収入額から「必要経費」を控除した額とする旨定められています。ここでいう「必要経費」とは、所得を得るために必要な支出をいい、売上原価のような支出との対応関係が明確な費用のほか、販売費や一般管理費のような個別の対応関係が明確でない費用についても、当該所得が生じた年度の必要経費として控除することができるとされています。このように、所得税法上の「必要経費」の概念は、一時所得に関する「収入を得るために支出した金額」よりも広く解されているのです。

5 「営利を目的とする継続的行為」としての競馬

さて、一時所得と雑所得の概略は以上のとおりです。そして、競馬による収入は、従前は一時的・偶発的な所得として、一時所得に分類されてきました。しかし、近年、競馬による収入を一時所得ではなく雑所得に該当するとした判例が現れたのです。そこで、次に当該判例をご紹介したいと思います。

6 最高裁平成27年3月10日判決の概要

最高裁判平成27年3月10日判決は、ニュースでもよく取り上げられたので、概要をご存知の方も多いかと思います。

事案は、馬券を自動的に購入できるという市販のソフトを使用し、独自の条件設定と計算式に基づいて、インターネットを介して、数年以上にわたって、毎週土日に開催される中央競馬の全ての競走場のほとんどのレースについて、大量かつ網羅的に、一日当たり数百万円から数千万円、1年当たり10億円前後の馬券を購入し続け、平成19年に約1億円、平成20年に約2600万円、平成21年に約1300万円の利益を上げていたというものです。

同判例は、上記のような事案につき、当該払戻金は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として、所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たると判断しました。また、同判例は、はずれ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するのであるから、当たり馬券の購入代金だけでなく、はずれ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するということができ、はずれ馬券の購入代金も「必要経費」として所得計算の際に控除対象となるとしました。

このように、競馬に関する収入であっても、それが「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と認定されれば、一時所得ではなく雑所得に当たり、はずれ馬券の購入代金も、当該営利を目的とする継続的行為と一体の経済活動の実態を有する範囲においては、「必要経費」として課税対象額算出の際に控除されうるのです。この判例は、従来一律に一時所得として課税されてきた競馬による所得について、事案によっては一時所得ではなく雑所得に該当する場合もあることを示した点で、注目すべき判例です。

7 「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」該当性

では、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と認定されるためには、どの程度の期間、どのような態様で馬券を買い続ける必要があるのでしょうか?

この点、上記判例では、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である」とされています。

つまり、競馬による多額の収入というだけでは、一時所得又は雑所得のいずれに該当するかは判断できず、いずれの所得に分類すべきかについては、個別具体的事情に鑑みた法的な判断が必要なのです。

最高裁平成27年3月10日判決の事案では、独自の条件設定と計算式に基づいて、大量かつ網羅的に、1日当たり数百万円から数千万円、1年当たり10億円前後の馬券を購入し続けた点に着目され、同所得が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であると認定されました。

これに対して、東京地裁平成27年5月14日判決では、中央競馬レースでインターネットを通じて毎週数百万~数千万円の馬券を購入し、約5億7000万円の利益を上げたという事案について、金額は多額であるものの、レースごとに個別に予想して馬券を購入しており、機械的に購入していたとまでは言えず、一般的な愛好家と質的に大きな差はないとして、当該所得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とはいえず、一時所得に該当するとの判断をしています。

このように、多額の馬券購入行為から生じた所得であっても、それが営利を目的とする継続的行為から生じた所得といえるかは、事案によって異なります。今回の裁判例のような事案でお困りの際は、ぜひ当事務所までご相談ください。

(2015年7月執筆)

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  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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