コラム

COLUMN

特別支配株主の株式等売渡請求制度の新設について

一般企業法務等

2021.06.22

1 M&A の活発化と株式等売渡請求制度の新設

日本企業のM&A の件数は、年間2000 件を上回るようになっており、近年は、大企業同士のM&A のみならず、優れた技術・ビジネスモデル、並びに有力な販路及び取引先を持つ中小企業のM&A も盛んに行われており、M&A は、後継者問題や先行き不安等といった課題を解決するとともに、会社の更なる成長へ向けた足掛かりにもなり得る、大変有力な手段として注目されています。

そのような中、平成26 年度会社法改正において、M&A 後に残存する少数株主を締め出して完全子会社化を実現する手段として、新たに株式等売渡請求制度が導入されました(会社法179 条以下)。

2 株式等売渡請求制度の概要

株式等売渡請求制度は、対象会社の特別支配株主(対象会社の総株主の議決権の10 分の9 以上を保有する株主)が、対象会社の株主の全員に対し、その有する対象会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求できるという制度です。同制度は、企業買収(M&A)後に残存する少数株主を締め出して完全子会社化を実現する比較的簡便な手段として導入されました。すなわち、企業買収後、少数株主が残っていると、株式の管理コストが嵩みますし、円滑な会社運営に支障を来たすおそれもあります。従来、このようなリスクを排除するために少数株主を締め出して対象会社の完全子会社化を実現する制度としては、①現金を対価とする株式交換等の組織再編行為、あるいは、②全部取得条項付種類株式の制度が利用されていました。しかし、上記①の手法については、対象会社の資産に対する時価評価課税が適用されるというデメリットがあり、上記②の手法については、常に株主総会の特別決議を要することになり時間的・手続的コストが大きいというデメリットがありました。

そこで、株主総会の特別決議を経ずに、少数株主の締め出しを実現する手段として、特別支配株主の株式売渡請求の制度が導入されたのです。

3 株式等売渡請求の手続

次に、株式等売渡請求の手続概要をご紹介します。

(1)特別支配株主から対象会社への通知・対象会社の承認 

まず、特別支配株主は、株式売渡請求を行う旨、売渡株主に対して株式の対価として交付する金銭の額、その割当てに関する事項、及び特別支配株主が売渡株式等を取得する日等を、対象会社に対して通知し、対象会社の承認を受けなければなりません(会社法179 条の3)。

なお、対象会社が取締役会設置会社である場合には、承認をするか否かを決定するのは取締役会であり、取締役会非設置会社では、取締役の過半数をもって承認をするか否かを決定することになります。

(2)売渡株主等に対する通知・公告・事前情報開示

次に、対象会社は、上記の承認をしたときは、取得日の20 日前までに、当該承認をした旨、及び特別支配株主の氏名又は名称等を、売渡株主に対して通知し、又は公告をします(会社法179 条の4)。 

また、売渡株式の登録株式質権者がいる場合には、対象会社は、当該登録株式質権者に対しても、当該承認をした旨を通知しなければなりません。

さらに、対象会社は、当該通知又は広告の日から取得日後6 か月を経過する日までの間、特別支配株主の氏名及び住所等を記載した書面をその本店に備え置き、売渡株主による閲覧等に供しなければなりません(会社法179 条の5)。

(3)売渡株式等の取得

そして、取得日が到来すると、特別支配株主は売渡株式の全部を取得し(会社法179 条の9)、特別支配株主は、取得日に、売渡株主に対して、対価である金銭を交付することになります。

なお、特別支配株主が取得した売渡株式が譲渡制限株式である場合でも、売渡株式の譲渡承認手続は不要で、対象会社は、特別支配株主が当該売渡株式を取得したことにつき、承諾する旨の決定をしたものとみなされます(会社法179 条の9)。

また、対象会社は、取得日後遅滞なく、特別支配株主が取得した売渡株式の数等を記載した書面を作成し、取得日から6 か月間本店に備え置いて、売渡株主であったものによる閲覧に供さなければなりません(会社法179 条の10)。

4 売渡株主の救済制度

特別支配株主の株式等売渡請求手続により、売渡株主は、特別支配株主に対して強制的に株式を売り渡さなければなりませんが、売渡株主を保護する手段として、会社法上、次の3 つの手段が確保されています。

(1)売渡株式等の取得をやめることの請求

まず、株式売渡請求が法令に違反する場合、対象会社による通知・告知・事前開示義務違反がある場合、又は対価として交付される金銭の額又は割当てが対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合のいずれかで、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、特別支配株主に対して、株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得をやめるよう請求することができます(会社法179 条の7)。

(2)売買価格の決定の申立て

次に、特別支配株主及び対象会社間で決定された対価に不満がある売渡株主等は、取得日の20 日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法179 条の8)。

(3)売渡株式等の取得の無効の訴え

さらに、取得日から6 か月以内であれば、売渡株主は、株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得の無効の訴えを提起することができます(会社法846 条の2)。

5 新株予約権及び新株予約権付社債の売渡請求

なお、平成26 年の会社法改正では、完全子会社化の目的を達成できるよう、新株予約権及び新株予約権付社債についても、売渡請求の対象とされました。この点は、全部取得条項付種類株式の取得を利用した従前の少数株主排除の手段では、新株予約権者等から新株予約権等を強制的に取得することが制度上不可能で、新株予約権者が存在する場合には、完全子会社化の目的を想定通りに達成できないというリスク(もっとも、新株予約権が行使される都度キャッシュ・アウトを行うことは可能です。)を制度上克服したものといえます。ただし、新株予約権付社債を発行する際に、株式等売渡請求制度の対象外とすることは可能です(会社法179 条3 項ただし書)。

6 注意すべき点

もっとも、株式等売渡請求を用いることができる場面は限定されていますので、その点には注意が必要です。

すなわち、株式等売渡請求の制度は、対象会社の総株主の議決権の10 分の9 以上を有する特別支配株主でなければ利用することができません。したがって、同制度を利用する前提として、対象会社の総株主の議決権の10 分の9以上まで対象会社の株式を買い集める必要があります。

また、株式等売渡請求は、対象会社の株主の「全員」に対して行われる必要があるので、特定の株主を株式等売渡請求の対象から除外することはできません。ただし、特別支配株主完全子法人に対しては、株式等売渡請求をしないことができます。

7 当事務所が提供するM&A に関するサービス

当事務所では、M&A に関するサービスとして、法務デューデリジェンス、株式譲渡契約書その他必要書類の作成等のサービスを提供しているほか、M&A 後の役員体制及び社内規程整備等に関するご相談等も承っております。

もちろん、特別支配株主の株式等売渡請求に関するご相談にも対応いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

(2016年7月執筆)

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