執筆者:弁護士 早崎 裕子
1 現在、日本国内における所有者不明の土地の面積は、九州に相当する広さに達しているといわれています。このような所有者不明の土地は、公共事業や災害復興の妨げとなり、国土の有効活用のための大きな障害となっています。
2 我が国では不動産の相続が開始された後、当該不動産は相続人らの共有財産となりますが(民法899 条)、現行法には被相続人の死後、相続人間で遺産分割協議を成立させるべき期限の定めがないことから、遺産分割協議未了の土地が故人名義のまま長年放置されるケースが多く見受けられます。
しかし、そのような不動産をいざ処分したいと考えたときには、さらに複数の相続が発生しているため、法定相続人数が膨大となっており、又、一部相続人が海外に居住していて、日本国内の不動産に全く関心を持たなかったり、所在不明・音信不通となっていることも多いため、相続人の特定及び相互の権利関係の調整が極めて困難となっています。そのような結果、所有者不明の不動産がゴミ屋敷などとして放置され、地域の治安にも多大な悪影響を及ぼしているのですが、現行法では、判明している一部相続人らのみで当該不動産を処分することは手続上極めて困難で、多大な費用・労力・時間を要するため、そのような不動産は、結局誰も手を付けないまま放置され、さらに事態を悪化させていくという悪循環が生じています。
3 そこで、このような問題を契機として、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から法改正が検討され、2021 年4 月21 日に「民法等の一部を改正する法律」(令和3 年法律第24 号)が成立し、2024 年4 月1 日から施行されることになりました。同改正法は、内容が非常に多岐に及んでいますが、今回は、特に共有関連についてご紹介します。
⑴ 共有物を利用しやすくするための見直し
現行法では、例えば、農地を宅地にする場合など共有物の変更には、他の共有者全員の同意が必要とされています(民法251 条)。
この点、改正法では、共有物の変更には原則として他の共有者全員の同意が必要としつつも(新民法251 条1 項)、形状又は効用の著しい変更を伴わない「軽微な変更」については、持分価格の過半数の同意で足りるとされました(改正民法252 条1 項)。
これによって、例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事(このような工事は、「変更」ではなく、「管理」の範疇として考えられます。)には、共有者全員の同意は不要となります。
また、共有者の中に所在等不明者がいる場合は、地方裁判所に申立てをして変更の許可を得ることによって、変更を実施することが可能となります(改正民法251 条2 項)。
⑵ 共有関係の解消をしやすくするための新たな仕組みの導入
共有者の一部に所在等不明者がいる場合、共有物の変更(=処分)には、共有者全員の同意が必要とされるため、共有物の変更は不可能となります。
また、管理行為についても、所在等不明者以外の共有者の持分が過半数に及ばない場合には、何ら決定ができないことになり、共有物を現状のまま放置せざるを得ないとことになります。
そこで、改正法では、所在等不明共有者がいる場合は、裁判所の決定を得て、
- 所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えること(改正民法251条2項)
- 所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定すること(同法252条2 項1 号)
が可能となりました。
実際の手続では、まず、共有者の一部が所在等不明者であることを裁判所に証明する必要があり、簡単に裁判所の決定が得られるわけではありませんが、従前は共有者の一部に所在等不明者がいる場合は全くお手上げ状態だったことを考えますと、遅ればせながら、今回の法改正は国土の有効活用促進のための大きな前進といえます。
- 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
- 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。