コラム

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正社員と嘱託・契約社員との賃金格差を違法とした最高裁判決について

一般企業法務等

2021.06.22

執筆:柏田剛介

1 平成30 年6 月1 日、社会的に注目を集めていた2つの労働事件(「長澤運輸事件」・「ハマキョウレックス事件」)に対する最高裁判決が出されました。本判決は、契約社員、嘱託社員等の有期契約の労働者の労働条件を定める上で、極めて重要ですので、解説させていただきます。


2 今回の2 つの事件の争点は、有期契約の労働者と無期契約の労働者の待遇に差を設けることが労働契約法第20条に違反しないかという点にありました。労働契約法第20 条は、契約社員、嘱託社員等の有期契約労働者の労働条件を、正社員(無期契約労働者)と不合理に差別することを禁止しています。最高裁は、「ハマキョウレックス事件」においては、待遇の相違の多くが不合理な差別に該当すると判断し、他方で、「長澤運輸事件」においては、待遇の相違のほとんどを、不合理な差別には該当しないと判断しました。以下では、それぞれの事件について詳しく見ていきます。


3 株式会社ハマキョウレックスは、物流事業を営む会社で、同社は、配送業務を担うトラック運転手として、正社員と有期契約の契約社員を雇用していましたが、契約社員に対しては、正社員に支給している6種類の手当を支給していませんでした。この6 種類の手当とは、通勤費のための「通勤手当」、食事代を補助する「給食手当」、住居費を補助する「住宅手当」、1 カ月間無事故で勤務した運転手に支給される「無事故手当」、特殊業務に従事した際の「作業手当」、全営業日に出勤した運転手に支給される「皆勤手当」です。同社の契約社員の運転手3名は、これらの手当を支給しないことは不当だとして、これらの手当の支払いを求めて訴訟を提起しました。これが、ハマキョウレックス事件です。

   今回の最高裁判決は、ハマキョウレックス事件では、上述の6つの手当の内、住宅手当以外の手当について、契約社員に支給しないことは、労働契約法第20 条が禁止する不合理な差別に該当し、違法であると判断しました。


4 長澤運輸株式会社は、セメント輸送等の事業を営む会社で、長澤運輸事件で原告となったのは、同社の嘱託社員の運転手でした。原告は、同社に正社員として勤務して定年退職した後、定年後再雇用の制度により嘱託社員として継続雇用されましたが、同社では、嘱託社員に対しては、業務の内容は正社員と全く変わらないにもかかわらず、正社員と異なる賃金体系を適用しており、嘱託社員の年収は、正社員と比べて2割程度引き下げられていました。そこで、原告は、正社員との差額分の賃金の支払いなどを求めて、訴えを提起しました。

 最高裁判所は、長澤運輸事件については、精勤手当(休日を除いて全ての日に出勤した者に支払われる月額5000円の手当)を支払わないことについては、労働契約法20条に違反するとしたものの、それ以外の点については、同条に反しないと判断しました。


5 このように、最高裁判所は、2 つの事件について対照的な判断をしました。
 両事件とも、原告は運転手で、その職務内容や責任の程度は正社員と同一であったのですが、判断が分かれたポイントはどこにあったのでしょうか。
 最高裁判所は、長澤運輸事件においては、嘱託社員が、定年後再雇用制度により採用されたことを重視して、正社員に対して支給する各手当や賞与を支給しないことは違法でないとしました。具体的には、嘱託社員が、正社員としての退職時に退職金を受け取ったことや、年金を受給できること等を考慮しました。他方、ハマキョウレックス事件においては、正社員と契約社員の相違は、全国規模の異動の可能性・幹部としての登用可能性等しかなかったため、各種手当の不支給を、不合理な差別に当たると判断しました。
 実務上は、正社員と契約社員・嘱託社員の待遇に差を設けることは広く行われていますが、今後は、今回の最高裁判所の厳格な判断を踏まえた対応が求められます。

(2018年8月執筆)

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