コラム

COLUMN

改正公益通報者保護法

一般企業法務等

2023.02.03

執筆者:髙崎慎太郎

 2022年6月1日、改正公益通報者保護法が施行されました。
 公益通報者保護法が施行されて以降も企業不祥事が後を絶たない中、本改正により、事業者自ら不正を是正しやすくするとともに従業員がより安心して通報を行いやすくして、公益通報者保護制度の実効性を向上させること等を目的としています。
 企業にとっては、内部公益通報に対応する体制を整備する等の義務が課されたことが特に重要です。上記の他にも、本改正では、行政機関やマスコミ等に通報したことによる不利益な取扱いから通報者が保護される場合が拡大され、また、保護される通報者の範囲及び通報対象が拡大される等の重要な改正がなされていますが、本項では、企業において特に早急な対応が求められる上記の事項に絞って解説します。

 改正法では、公益通報の受付、調査及び是正に必要な措置等の公益通報への対応業務に従事する者(=「公益通報対応業務従事者」)を定めること(11条1項)、及び、内部公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとること(同条2項)が事業者の義務とされています。
 これらの義務に係る措置の具体的な内容については、消費者庁による指針及び指針の解説(以下併せて「指針等」といいます)が一定の基準を示しており、指針等に沿った措置を講じていない場合には、助言、指導、勧告、勧告に従わない場合の公表といった行政措置の対象となる可能性がありますので、企業においては指針等に沿った措置を講じることが求められます。もっとも、講じるべき措置の内容は企業の規模や業種等の諸要素により様々であり、企業においてはどのような措置を講じるかにつきあくまで自社の実情に応じた主体的な検討が必要です。
 なお、従業員数300人以下の事業者では上記各義務は努力義務とされていますが、仮に企業不祥事が実際に発生した場合でも、指針等に従った措置を講じておけば、役員としては果たすべき注意義務を果たしていたとして役員に対する責任追及が否定される要素になり得ますし、また、何より、内部公益通報の適切な運用を通じた企業の自浄作用強化は現代においてはまさに企業価値向上につながる重要な施策ですので、従業員数300人以下の企業においても、指針等に従った又はそれに類似した措置を講じることが望ましいと考えられます。

 さて、企業においては、まず、①内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、②当該業務に関して内部通報者を特定させる事項を伝達される者を「公益通報対応業務従事者」として指定する必要があります。この公益通報対応業務従事者は守秘義務を負い、これに違反した場合には罰金という刑事罰が科されますが、このような責任の所在を明確にすることにより通報者に関する情報の慎重な管理を図ることが狙いであると考えられます。
 具体的には、企業においては、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行うことを主たる職務とする部門の担当者を公益通報対応業務従事者として定める、又は、それ以外の部門の担当者であっても、上記①②の定義に該当する場合には都度当該担当者を公益通報対応業務従事者として定めることになります。書面により指定することが基本になるかと思われますが、内部規程において予め特定の部署・役職等を公益通報対応業務従事者と定めることで指定することも可能とされています。
 また、この指定については外部に委託することができることとされていますので、グループ企業の子会社において親会社の担当部署の従業員を指定することも、弁護士等を指定することも可能です。

 次に、企業においては、内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(11条2項)を講じる必要があります。
 指針等によれば、①部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備として、

  • 内部公益通報受付窓口の設置、公益通報対応業務を行う部署・責任者の設置
  • 組織の長その他幹部からの独立性に関する措置
  • 公益通報対応業務の実施に関する措置
  • 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

等が求められます。

 組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者から不当な圧力等を受けないよう、公益通報対応業務の遂行にあたってこれらの者からの独立性を確保する措置をとることが重要となりますが、内部公益通報受付窓口は外部委託が可能とされていますので、外部委託により公益通報への対応について企業上層部との制度的な隔離を行うことで、上記独立性確保を図ることも有効かと思われます。また、公益通報対応業務の実施は、受付→調査→是正措置→当該措置が機能しているかを確認(→問題があれば再度是正措置)という業務フローが基本になりますが、このようなフローに関する詳細を予め定めておくことも重要です。なお、利益相反を排除するための措置としては、通報対象事案に関係する者(通報された法令違反行為を行った本人等)を公益通報対応業務に関与させないようにすることが重要になります。
 また、②公益通報者を保護する体制の整備として、

  • 通報者に対する不利益な取扱いを防止するための措置
  • 範囲外共有・通報者の探索の防止に関する措置

等が求められます。

 不利益取扱い防止の観点からは、通報したことを理由に不利益な取扱いが行われた場合において当該不利益取扱いを行った従業員等への懲戒処分を検討することや、通報したことを理由とする不利益な取扱いをしてはならないことの従業員等への周知・教育が重要です。
 また、範囲外共有とは、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有することを意味しますが、範囲外共有及び通報者の探索を防止するための措置としては、通報事案に関する記録等を閲覧できる者を必要最小限に限定する等の物的側面と、漏えい事案は懲戒処分の対象になることを注意喚起し、範囲外共有及び通報者の探索の防止について従業員等に周知・教育する等の人的側面の両面からのアプローチが重要であり有効です。
 さらに、③内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置として、

  • 従業員等(特に公益通報対応業務従事者)への法令及び内部公益通報対応体制についての周知・教育に関する措置
  • 通報事案について講じた是正措置等を通報者に通知することに関する措置
  • 内部公益通報への対応に関する記録の作成・保管、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検、必要に応じた改善、及び内部公益通報対応体制の運用実績の従業員等への開示に関する措置
  • 指針等で求められる事項を内部規程で定め、この規程を運用すること

等が求められます。

 これまで述べてきた指針等で求められる事項について内部規程で定め、これを運用することは、内部公益通報への対応の第一歩であり不可欠です。
 また、整備された内部公益通報対応体制が適切に機能していることが従業員等に分かればよりその利用が促進されますので、従業員等への開示は有効であり、また、運用実績の概要や内部公益通報対応体制の評価・点検の結果をCSR報告書やウェブサイト等を活用して開示することは、実効性の高いガバナンス体制を構築していることを積極的に対外的にアピールしていく上で望ましいと考えられます。

 過去の事例が教えるように、企業不祥事は企業の発展・存亡をも左右し得る重大な事象であり、内部公益通報制度の適切な整備・運用は、企業にとってのリスクを早期に発見し、企業を守るとともに企業価値の向上に資するものであり、その重要性はこれまで以上に高まっています。
 企業においては、法令を遵守した実効的な内部通報体制となっているか、従前の体制の点検及び必要な整備を行うとともに、より良い制度運営のため、企業の実情に応じたさらなる工夫を重ねていくことが求められます。
 当事務所では、内部通報体制整備のサポートのほか、内部通報制度に関する総合的なサービスを提供させていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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