コラム

COLUMN

意匠法改正 ~空間デザインの保護~

知的財産

2021.08.03

執筆:弁護士 山腰健一

1 はじめに

 2019年5月、意匠法が改正されました(2020年4月1日施行)。耳馴染みのない方もいるかと思いますが、「意匠」とは、要するに物品のデザインであり、意匠法は意匠を知的財産権(意匠権)として保護する(他者がマネできないようにする)ための法律です。

この度の意匠法改正では、画像デザイン・空間デザインへの保護拡充、意匠権の存続期間の延長、関連意匠制度の拡充等、重要な改正点がいくつかありますが、本稿では、新たに意匠法の下で保護されることとなった空間デザインについて簡単に取り上げたいと思います。

2 改正前の状況

 先ほど「『意匠』とは物品のデザインである」と述べたばかりですが、建築物は「物品」(=動産)に当たらないことから、建築物の外観デザイン(図1参照)は、これまで意匠法による保護の対象外とされていました。

 また、複数の物品(テーブル、椅子、照明器具等)の組合せや配置、建築物の一部(壁、天井、床等)の装飾から構成される内装のデザイン(図2参照)についても、意匠登録出願は意匠ごとにしなければならないという「一意匠一出願の原則」の要件(意匠法7条)を満たさないことから、意匠権による保護の対象外とされていました。

【図1】建築物の外観の例 (出典)特許庁資料(コメダ珈琲店岩出店)
【図2】内装の例(出典)特許庁資料(auショップ池袋西口駅前店)

3 空間デザインの新たな保護ニーズ

 しかし、昨今、モノのデザインのみならず、コト(経験)のデザインを重視する観点から、店舗デザインに投資して独創的な意匠を凝らし、ブランド価値を創出して製品・サービス等の付加価値や競争力を高める事例が見られるようになっており、建築物についてもブランド価値の創出の観点からデザインの重要性が高まっています(例えば、アップル社やスターバックス社は、パソコンやコーヒーなどの商品だけでなく、店舗デザインも重視しており、これによってブランド力を向上させている成功例といえるでしょう。)。

 こうした空間デザインは、著作権法で保護される余地もありますが、同法で保護される建築物はいわゆる建築芸術が主であり、その保護対象は限定的です。また、そのデザインに周知性や著名性があれば、不正競争防止法による保護を受けることもできますが(実際、上記「コメダ珈琲店」の店舗外観(内外装及び店内構造)は、同法上の「商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」に当たるとして、これに類似する店舗外観の使用を差し止めた裁判例があります。)、独創的な空間デザインを生かしたブランド構築の取組を早い段階から保護する観点からは、周知性や著名性が生じる前から保護するニーズが高まっています。

4 改正意匠法による空間デザインの保護

こうした状況を踏まえ、今回の改正により、これまでの保護対象である「物品」のデザインのみならず、「建築物」のデザインも「意匠」の定義に加えられ(改正意匠法2条1項)、意匠権の保護対象となるに至りました。

また、内装についても、家具や什器等の複数の物品等の組合せや配置、壁や床等の装飾等により構成される内装が、「全体として統一的な美感を起こさせるとき」には、一意匠として意匠登録できるようになりました(改正意匠法8条の2)。例えば、図2のauショップの例では、特徴的な形状のテーブルやカウンター等を用い、それらの特徴が際立つ形で、全体的にオレンジと白の2色のみによる効果的な色彩を施し、統一感を実現しているとして、「全体として統一的な美感を起こさせるとき」に該当すると判断できる可能性があるかと思われます。

このように、店舗内外装の意匠登録が認められたのみではなく、最近では、色、におい、音などといった様々な商標も登録可能になっています。この機会に、一度、御社のブランド/知財戦略を見直してみることをお勧めいたします。

(2020年1月)

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