執筆者:弁護士 森 進吾
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会社の運営を行うにあたって、業務上又は組織構成上の必要に応じて従業員の配置・職務を変更しなければならないケースがある。この場合において、会社には従業員の配置・職務を一方的に変更する権利があるのか、従業員が合理的な配置転換を拒否した場合、会社は労働契約を解除することができるかという問題につき、参照価値があると思われる裁判例を踏まえて、解説する。
【事案の概要】
原告:張氏
被告:A社
張氏は、A社の従業員である。張氏とA社の「労働契約」には、張氏は品質検査センターの部門責任者として務めており、A社は必要に応じて張氏の職務を変更することができると定められていた。
2021年11月19日、A社の組織変更によって品質検査センターが廃止された。その後、A社は、組織変更後の調整及び従業員の配置転換につき、従業員会議を開き、2021年11月26日より元品質検査センターの従業員を新部署に配属させることを関連従業員に伝えた。張氏は、従来、標識審査を担当していたところ、技術センターの標識マネージャーに配属され、給与及び業績評価方法には変更はなかった。
2021年11月26日、A社は、再び張氏を含む関連従業員に対して配置転換の通知メールを送信し、新職務内容等につき具体的な説明を行った。張氏は、配置転換に同意しないと返信した。
2021年11月30日から12月24日までの間、A社は、何度も張氏に新部署に異動するように催促したが、張氏はそれらを一切拒否し、新部署に連続欠勤をした。このような状況を受けて、A社は、2022年1月14日、就業規則の重大違反を理由に張氏に「解雇通知書」を通知し、張氏を解雇した。
2022年3月、張氏は、仲裁を申し立て、違法解雇を理由にA社に約42万人民元の経済賠償金を求めたが、仲裁委員会はこれを支持しなかった。その後、張氏は、裁判所に訴訟を提起した。
【判決結果】
裁判所は、張氏の請求を棄却すると判決を下した。
【裁判所の意見】
「労働契約」によると、A社は、必要に応じて従業員の職務を変更することができると明記されている。A社が業務上の必要に基づき張氏の所属部門を廃止し、張氏を新部署に配属することは、会社の自主経営権の重要な一部であり、「労働契約」の違反に該当しない。
張氏の新旧職務の間には強い関連性があるし、労働報酬や他の労働条件は不利に変更されていないため、会社の配置転換は、必要性、合理性及び正当性を満たしており、張某は会社の指示に従う義務がある。
よって、張氏の行為は就業規則の重大違反に該当し、会社が張氏の行為に基づき労働契約を解除することは不当ではなく、違法解雇の法的責任を負う必要がない。
【コメント】
一、「中華人民共和国労働合同法」第35条は、会社と従業員が協議して一致した場合のみに労働契約の内容を変更することができると定める。ただし、同条は、会社の自主経営権を完全に否定するものではない。会社の自主経営権は法によって保護されており、会社が業務上の必要に応じて従業員の職務を変更することは、会社の自主経営権の重要な一部であり、従業員が合理的な配置転換に従うことは、労働関係における従属性の具体的な表れでもある。
二、もっとも、会社の自主経営権の行使は一定の条件を満たす必要があり、権利濫用を避けなければならない。実務上は、配置転換の必要性、合理性及び正当性につき、一般的に以下の要素を参考にして判断している。
1.業務上の必要性があるか否か。
2.労働契約内容に対する大きな変更に属するか否か。
3.従業員に対する差別的、侮辱的な待遇を構成するか否か。
4.労働報酬及び他の労働条件に大きな影響を与えるか否か。
5.従業員が新しい職務に適合できるか否か。
6.勤務地調整後に不便が生じた場合、会社が必要な支援や補償措置を提供するか否か。
三、会社は、業務上の必要に応じて従業員の職務を変更する際に、関連法令(「労働合同法」の第八条、第二十七条、第三十三条、及び《公司法》第十七条など)に定められた場合を除き、通常、従業員大会を開催する必要がない。ただし、従業員の意見徴収、配置転換合理性の向上等の視点から、配置転換に係る従業員に対し、形式は問わず、配置転換の理由、新職務の業務内容、待遇等の基本内容につき、詳しく説明することが望ましい。その意味で、従業員大会を開催することは、配置転換が有効とみなされることにとってプラスに働くといえる。
四、従業員は、配置転換に異議がある場合、合法的な手段を通じて会社に意見を提出しなければならない。本件のように、合理的な理由のない連続欠勤等の事情は、人民法院の判断との関係では、従業員にとって不利に評価される可能性があり、最終的に、解雇事由として認められることになる。
【判決書番号:(2023)沪01民終3984号】
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