コラム

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「巨大IT 新法」が企業や消費者にもたらす影響

企業経営・販売・広告

2024.08.16

執筆者:弁護士 オドノバン ショーン塁

 スマートフォンでアプリにお金を使った後、実は同じサービスがもっと安く手に入る方法があると知って、後悔した経験はありませんか? スマホアプリの競争促進を目的とする、いわゆる「巨大IT 新法」(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)が2024 年の通常国会で成立したことにより、今後、アプリ課金の様相が変化することは間違いないでしょう。同法の影響は、単に一般消費者の支払額が変わることに留まりません。企業にとって、スマホを使った新しいビジネスに挑戦しやすくなることも考えられます。

 現在、アップルのiPhone で「ユーチューブ・プレミアム」の1か月分の料金(アプリ内課金)は1,680 円です。一方で、パソコンから「ユーチューブ・プレミアム」に申込むと1,280円です。ゲームでも、アイテムの価格がiPhone版だけ高いことがあります。こうした現象が生じるのは、アップルがアプリ提供会社に請求する手数料が、小売価格に転嫁されているからです。ネット上では「アップル税」などと呼ばれ、アプリ提供会社からも強い不満が寄せられていました。

 巨大IT 新法は、「モバイルOS」「アプリストア」「ブラウザ」「検索エンジン」を総称して「特定ソフトウェア」と呼び、これら特定ソフトウェアを提供する事業者のうち、事業規模が特に大きい者に対し、自由競争を妨げる行為を禁止したり、一定の措置を義務づけたりするものです。特定ソフトウェアの市場において、競争相手に強い影響力を及ぼすことができるほどの規模を有する企業が、公正取引委員会によって「指定事業者」に指定され、この法律の規制を受けます。禁止行為に違反した場合の課徴金は、違反行為期間における禁止行為にかかる商品・サービスの売上高の20%です(法19 条1 項)。これは他の法律に比べ、非常に高い割合です。ちなみに、独占禁止法のカルテルに対する課徴金の割合は、実行期間におけるその商品の売上高の10%です。

 アプリストアでは、セキュリティーなどの観点から正当な理由がある場合を除き、他の事業者が独立して運営するアプリストアの提供を妨害することが違法となります(法7 条1号)。また、スマホ利用者が他の事業者の課金システムを利用することを妨害する行為も禁止されます(同8 条1 号)。これらの規制によって、アプリストア同士の競争が促されることになり、巨大IT 企業がアプリ提供会社から高い手数料を取り続けることは難しくなると予想されます。スマホ利用者(消費者)が支払うアプリの料金も、これまでよりも安くなるかもしれません。

 アプリ提供会社にとっては、料金体系や決済方法について、設計の自由度が増すと予想されます。これまで、アプリを使った新規ビジネスを検討したものの、アプリストアの手数料を考慮すると採算が合わないため、やむなく断念したというケースも少なからずあったのではないでしょうか。今後は、アプリを提供すること自体のハードルも低くなるかもしれませんし、スマホビジネスの環境が大きく変わることは間違いありませんので、そこに商機を見出す企業が数多く現れてほしいものです。

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