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失敗しないベトナム不動産投資【外国人がベトナムの不動産(土地・建物)を「開発」「購入」「賃借」「利用」する際に知っておきたい基礎知識】 ~ベトナム土地法入門~

国際ビジネス

2021.10.14

執筆者:フォーリンアトーニー  ブイ・ホン・ズオン

はじめに

ベトナムへの不動産投資を検討されている外国人投資家は、「ベトナムでの土地は、全国民の所有に属し、国家が所有者の代表としてそれを統一して管理されるため、土地使用者は、土地の使用権しか有せず、様々な制限がある。」ということを最初に知ることになります。確かに、この情報自体は一面では正しいのですが、不正確とも言え、ベトナムの不動産制度や市場についての理解が不十分な初心者は、その本当の意味を誤解してしまいます。ハノイとホーチミンに事務所を持つ明倫国際法律事務所のベトナム人弁護士と日本人弁護士が、不動産投資を考える外国人(日本人)にとって、知っておくべき知識を解説します。
 ベトナムでは、土地の所有権を取得することはできず、土地の使用者は、土地に対して使用権しか有していません。しかし、その使用権の内訳は、実は所有権に近いものと言えます。第三者に対して対抗することができる登録制度もあり、権利として安全に確保し、活用することができ、当該使用権の一般的な処分(譲渡、売却等)も行うことができます。特に、外国人投資家に対しては、国内の法令のみならず、国際条約などでもベトナムでの投資に関する財産権(不動産を含む。)が保護されるため、「使用権」しかないということを、それほど心配する必要はないとも言えます。少し見方を変えると、日本でも、「所有権」はありますが、固定資産税も支払わなければなりませんし、収用などに際しては所有権を失うことがあります。ベトナムでも、「使用権」としてその土地を排他的に使用する権利が認められており、「使用料」(日本の「固定資産税」に相当)を支払う必要があり、一定の手続に従って補償を得た上で使用権を失うことがある(日本の「収用」に相当)という意味で、実はそれほど違いはないのではないかということです。
 日本人をはじめとする外国人投資家の皆様が、ベトナムの不動産(土地・建物)に対し、「開発」、「購入」、「賃借」、「利用」などの形態で不動産投資を行う際に、過度に恐れることなく適切に準備と対策を行い、失敗しない不動産投資を行うために必要な、ベトナムの土地に関する様々な制度や運用について、ご説明させていただきます。

1.ベトナムの不動産(土地)に「所有権」はあるのか? ~ベトナムの土地の特徴~

 ベトナムでは、土地に関して、以下のような特徴があります。外国人がベトナムで土地を購入する場合には、ぜひ知っておきたいところです。
・ 土地は、全国民の所有に属し、国家が所有者の代表として統一してこれを管理すること
・ 土地の使用は、必ず国が公布する土地使用企画に適合する必要があること
・ 土地使用権の登記制度は存在しているが、公開されていないこと
・ 国家の裁量で、国民から土地の使用権を回収することができること

2.ベトナムでは土地所有権は全国民に帰属し、国家がこれを管理するとされているが、外国人が不動産(土地)投資や取引をすることは安全なのか?

 これまでご説明したとおり、ベトナムでの土地は、全国民の所有に属し、国家が全国民の代表として、それを統一して管理しているという特性があります。この点は、外国人にとっても、ベトナム人にとっても差異はありません。しかしながら、使用者(個人、企業、その他組織)の使用権が実質的に所有権に近いものであり、使用者の権利を保護するための法制度が十分に整備できているため、結論として、ベトナムでの不動産(特に土地)に対する投資や取引を行うことは、安全であると考えられます。要するに、名称は「所有権」ではなく「使用権」であるものの、実際の土地に対する権利としては、日本人がイメージする「所有権」とそれほど異ならないものが確保できる、ということです。
 ただし、ベトナムでは、不動産、とりわけ土地に関する法律や制度がかなり複雑であり、かつ、政策や運用、法の規定が頻繁に変更、修正されています。そのため、外国人や外国人投資家にとっては、これらを正確かつ適時に理解することは、それほど簡単ではありません。
そこで、日本人の個人や投資家の中には、こうしたベトナム不動産制度・規制の複雑さを回避するために、不動産投資にあたって、様々な関係で知り合ったベトナム人の名義を借りて不動産を購入するなどの方法で、不動産投資をするケースも見受けられます。しかし、このようなベトナム人の名義借りによる不動産投資は、そのベトナム人との信頼関係が維持され、連絡が密になされることを前提としているところ、この点でトラブルを誘発し、結果として不動産投資が失敗に終わるケースは、非常に多くみられるところです。
 このように考えると、外国人(日本人)がベトナム不動産投資に失敗する原因は、そもそも土地に対する所有権があるかどうかということではなく、実際に不動産投資や取引を行うにあたっての検討不足や、通常のビジネスルートを利用しない不適切な形態を選択することにあると言えます。
 そのため、ベトナムでの不動産取引や投資を失敗しないためには、必ず以下の対策を十分に実施するようにお勧めいたします。
・ ベトナム不動産投資を検討する場合は、まず不動産の制度や法律、及び不動産市場や取引慣行等について、正しい情報を総合的に知るために、専門家に確認すること
・ 知り合いのベトナム人やパートナーから受領した情報について、必ず専門家のダブルチェックを受け、真偽や正確性を確認すること
・ 不動産の投資や購入を決める際に、重要な事項のみでも良いので、法的なリスクのチェック(法務デューデリジェンス)や価値評価を行うこと
・ 不動産の投資や購入の前に、必ず物件や土地を現地で確認すること(現地を訪問できない場合は、信頼できる専門家に依頼することも可能)

3.ベトナムで土地を使用するための、土地の使用企画・使用計画の概要と仕組み

 土地使用企画とは、土地の潜在力及び各産業・分野の土地使用の需要に基づき、経済・社会発展、国防、治安、環境保護及び気候変動に対応するという目標を達成するため、一定の期間を定めて、土地を使用空間によって区分・区画整理し、各経済・社会分野や地域ごとに土地の利用を適切に割り振ることです。一方、土地使用計画とは、土地使用企画に定められた期間内に、土地使用企画を実施するために策定される計画であり、土地使用企画の実施期間をさらに分割した一定期間毎に計画が策定されます。つまり、土地使用企画は、土地の使用目的ごとの土地全体の区分で、土地使用計画は、土地使用企画の全期間内の中の一定の短期間ごとにおける実施内容を定めるものとなります。 

 このあたりは、日本でも、都市計画に関する様々な法令で土地の用途ごとの秩序ある効率的な利用を促進する仕組みがありますので、それらと同じようなものであるというイメージを持っていただいてもよいかと思います。
ベトナムでの土地の使用は、必ず国が公布する土地使用企画に適合する必要があります。土地使用企画、土地使用計画に適合しない土地の使用に対しては、以下のいずれかのリスクが発生する可能性があります。
 i. 行政罰の罰金の賦課(短期の場合)
 ii. 建設物に対する工事の施工停止・撤去・使用禁止
 iii. 土地使用権の回収


 土地使用企画、土地使用計画は、以下の種類があります。

 土地使用企画、土地使用計画を確認するために、公的な開示サイトがありますが、公的なサイトに開示する土地使用企画、土地使用計画は、必ずしも現行の土地使用企画、土地使用計画ではない場合が多いと言えます。最新の土地使用企画、土地使用計画や、以後の改定状況等を確認されたい場合は、専門家にご確認ください。

4.土地使用権の取得方法

 国から土地使用権を取得する方法には、①土地使用権の割当、②土地使用権のリース、及び③土地使用権の公認の3つがあります(上記の図をご参照下さい)。もっとも、このうち「③土地使用権の公認」は、外国投資家は対象外のため、以下は、ベトナムに不動産投資をしようとする外国人投資家の皆様が利用可能な、①及び②の方法のみをご説明したいと思います。
 国は、土地使用者に対して、有償又は無償で土地の使用権を割り当てています。そのうち、無償での土地使用権割当は、ベトナム国民・世帯、ベトナムの企業・組織のみに対して行われ、外国人や外国企業は割当を受けることができません。外国人や外国企業が株主となって設置されたベトナム企業(外資企業)は、販売若しくは販売兼賃貸を目的する住宅・マンション開発プロジェクトを実施する目的で、ベトナム国から有償での土地使用権の割当を受けることができます。
 土地使用権のリースは、上記の図のとおり、①賃料一括払いによる土地使用権のリース、②賃料年次払いによる土地使用権のリースの2種類があります。ところで、賃料一括払いによる土地使用権の賃借者の権利と、賃料年次払いによる土地使用権の賃借者の権利は大きく異なっていますので、注意が必要です。賃料一括払いに伴う土地使用権の賃借者は、土地使用権及び土地上の財産の両方に対して、譲渡、リース、サブリース、抵当権の設定、現物出資を行うことができますが、賃料年次払いによる土地使用権の賃借者は、基本的に土地上の財産のみに対して売却、抵当権の設定、現物出資を行うことができ、土地使用権については原則として、取引の対象とすることができません。ただし、工業団地での賃料年次払いによる土地使用権のリースの場合を除きます。

5.ベトナムの不動産(土地、建物)の登記制度

 ベトナム民法第503条により、土地使用権の移転は、土地法に基づき登記手続を行う時点から効力が発生すると規定されています。また、土地法第95条により、土地使用者、管理のために土地を交付された者に対して土地を登記することが必須であると規定されています。つまり、土地使用権については、原則として登記しなければ、使用権者としての権利は保護されないことになります。
 不動産である住宅及び土地に付着するその他の財産(現行民法第107条1項により、土地に付着するその他の財産には、土地に付着する建築物、土地・住宅・建設物に付着するその他の財産、法律の規定に基づくその他の財産が含まれます。)について、登記をする制度がありますが、登記するかどうかについては、所有者の任意ですので、こちらは、必ずしも登記の必要はありません。

ベトナムでの不動産登記制度は、あくまで国家の行政的な管理目的のために行われており、公開化、透明化といった登記制度の目的について重視されておりません。したがって、登記制度はあるものの、不動産の登記データベースは土地管理機関しかアクセスすることができず、誰もが登記データを確認できる制度になっていません。不動産の登記情報を確認するために、個別的に不動産登記事務所に情報開示の申請を行う必要があります。しかし、場合により、不動産登記事務所が情報の開示を拒否することも多くあります。不動産登記情報の開示請求について問題が生じた際は、専門化にご相談されることをお勧めいたします。

6.ベトナムで不動産 (土地、建物)の取引をする際に確認すべき「土地使用権証明書」の概要

 土地使用権証明書は、最も重要な書類ですので、記載内容をしっかりと把握しておく必要があります。土地使用権証明書は、天然資源環境省により全国統一の様式で発行されます。土地使用権証明書の表紙が赤色であるため、「レッドブック」と呼ばれており、英語ではLand Use Right Certificate の略語である「LURC」という表記をされることもあります。
 2009年12月10日より以前は、土地使用権及び土地上の住宅、建物の所有権の証明書は、それぞれ個別に発行されていました。都市部の住宅地ではない土地の使用権(農村の住宅地、農地、林地等)の場合は、天然資源環境省の管轄で、天然資源環境省が発行する土地使用権証明書(レッドブック)が発行されていました。一方、都市部の住宅地、マンションを含む都市部の住宅の場合は、建設省の管轄において、建設省が発行する住宅及び住宅地証明書(ピンクブック)が発行されていました。また、当時、住宅建物ではない建物の場合は、建設当局が別の建物所有権証明書を発行し、これによって所有者の権利が確認されていました。
 しかし、2009年12月10日以降は、土地使用権及び土地上の住宅、建物の所有権のすべてを登記する際に、一体となった土地使用権、住宅及び土地に定着するその他の財産証明書(レッドブック)が使用されています。ただし、以前に発行されたピンクブックは、現在のレッドブックにすべて移転しているわけではないため、現在でもピンクブックが存在しており、その効力は認められています。

終わりに

 2006年に初めて不動産事業法が整備され、外国人によるベトナムにおける不動産投資分野への進出に関する法制度が明確化されました。2006年以前にも不動産投資案件は複数ありましたが、いずれも特別な承認を得ることによりベトナムに進出したケースでした。2007年7月1日にベトナムで最初の不動産事業法(63/2006/QH11号)が施行されて以降、外国からのベトナムへの不動産分野の投資額が急速に増加しています。2008年には、世界経済の影響を受けていたものの、ベトナムへの海外直接投資(FDI)の登録金額が717億ドルに至り、2007年の3.4倍に増加しました(2013年9月の建設省による不動産事業法の改正に関する提案報告書 )。そのうち、不動産分野への投資額は236億ドルでした。これ以降も、ベトナムにおける不動産分野への投資が活発化しています。2018年12月においてFDI総額のうち不動産事業への投資額は第2位であり、2020年12月には第3位となっています(順位は、第1位:製造・加工、第2位:電力、第3位:不動産)。

 ベトナムが政治的に安定しており、経済成長率が高く、かつ、投資環境の改善を不断に行っている等の理由から、外国人投資家は、ベトナムでの不動産市場に強い関心を持っており、投資が加速していると言えます。ハノイやホーチミンはもちろんですが、最近は、地方の大きな都市部であるハイフォン・ダナン・ビンズオン・フーコックなどでも、不動産投資先として大きく注目されています。
 ベトナムでは、不動産事業が付加価値の高いビジネスの1つであるため、ベトナム国内のローカル会社も、不動産分野への投資に高い関心を持っています。しかし、ベトナムでの不動産市場はまだ未成熟、かつ、ローカル会社も経験やノウハウの蓄積に乏しいため、特に不動産開発や不動産管理に関しては、外国人投資家にとって、大きな魅力がある状態と言えるでしょう。

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