コラム

COLUMN

商習慣の見直しを迫る下請法の規制強化

一般企業法務等

2025.02.17

執筆者:弁護士 オドノバン ショーン塁

 下請法(下請代金支払遅延等防止法)の規制を強化する流れが強まっています。2024 年11 月1 日からは、手形による代金支払に関する基準が見直され、手形の交付から支払までの期間が短くなりました。これとは別に、中小企業の大企業に対する価格交渉力を高めるべく、下請法自体を改正する議論も進んでいます。これまで当然のように受け入れられてきた商習慣の見直しを迫るものであり、仕事を依頼する側も、仕事を受ける側も、これまで以上に下請法に注目する必要がありそうです。

1 手形取引の基準の見直し

 下請法は、下請取引における代金の支払期日を、財やサービスの給付を受領した日から「60 日以内」かつ「できる限り短い期間内」とすることを義務付けています(2 条の2 第1 項)。そして、代金を手形で支払う場合は、金融機関で「割引を受けることが困難であると認められる手形」を交付して、下請事業者の利益を不当に害してはならない、と定めています(4 条2 項2 号)。

 この「割引困難な手形」がどのような手形を指すのかは条文上不明確ですが、公正取引委員会と中小企業庁が1966 年に発出した指導基準で、手形サイト(手形の交付から金銭の支払までの期間(手形サイト)が120 日(繊維業のみ90 日)を超えるものを指すと定められました。この指導基準が、2024 年11 月1 日から、「60 日」に変更されました。

 なぜ、「手形サイト」を60 日に短縮する必要があったのでしょうか。下請事業者からすれば、支払手段が手形の場合、たとえ支払期日どおりに手形の交付を受けたとしても、手形の満期日を待たなくては現金を得られないので、支払サイトが長すぎる場合は代金支払の遅延と変わるところがありません。もちろん、満期日の前に金融機関に手形を売ってしまうことも可能ですが(手形割引)、その場合は手数料の負担が生じるため、現金を満額では受領できません。手形サイトの短縮は、下請事業者が下請代金を満額かつ期日どおりに受け取るのに近い状態をもたらします。

 最近では銀行送金が普及し、手形の取引量が減っていますが、手形サイトの見直しは下請事業者にとって好ましい変化と言えます。

2 価格転嫁を後押しするための法改正

 このほか、2024 年7 月からは、公正取引委員会と中小企業庁の共催により、下請法の改正に向けた有識者会議が始まりました。輸送サービスなど供給網の安定を維持するためには、下請事業者の価格交渉力を高め、価格転嫁を容易にするべきであるとの問題意識のもと、議論が行われています。早ければ2025 年度にも、改正法案が国会に提出されるかもしれません。

 中小企業からすれば、下請法は大企業からの理不尽な要求に対抗する手段となり得ます。一方、仕事を発注する大企業の側も、下請法に関する行政指導を受けてしまうと、その事実を公表され、名声に傷が付きかねません。いずれの立場からしても下請法は決して軽視できない法律であり、今後も重要度が増すものと考えられます。

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイ、ダナンの世界8拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

お問い合わせ・法律相談の
ご予約はこちら

お問い合わせ・ご相談フォーム矢印

お電話のお問い合わせも受け付けております。

一覧に戻る

ページの先頭へ戻る