コラム

COLUMN

名誉毀損

一般企業法務等

2024.12.04

執筆者:弁護士 安田裕明

1 最近取り上げられることが多い「名誉毀損」ですが、ダウンタウンの松本人志さんが週刊文春の記事で名誉が傷つけられたとして、訴訟提起したというニュースも記憶に新しいのではないかと思います。
 「名誉毀損」というのは、要は社会的評価を傷つけられたということで、単純な話かと思いきや、実際には複雑な論点が盛り込まれています。紙面の都合上、以下ではどういった場合に名誉毀損罪が成立するのかという点に絞ってご紹介させていただきます。

2 まず、SNS 等に「A さんはバカだ」とだけ書き込まれた場合、名誉毀損罪は成立するでしょうか。確かに、そのような書込みによって名誉が傷つけられたとも言えそうですが、刑法230 条の名誉毀損罪の条文では「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合と記載されており、「事実の摘示」が一つの要件になっています。そのため、「バカだ」というのは単なる意見にすぎず、事実が摘示されたことにはなりませんので、このような書き込みだけでは名誉毀損罪は成立しません。
 但し、あくまで名誉毀損罪が成立しないということにすぎず、刑法231 条の条文により、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合には侮辱罪が成立することになります。

3 次に、「A さんはB 部長と不倫している」と書き込んだ場合はいかがでしょうか。先ほどの「事実の摘示」という点に関して言えば、「不倫」つまり配偶者以外の異性と肉体関係を持つという事実が摘示されていますので、こちらについては名誉毀損罪が成立することになりそうです。
 では、実際にA さんとB 部長との不倫が本当のことだとしたら、いかがでしょうか。このあたりでよく勘違いするのが、「本当のことなんだから問題ない。」といったものです。名誉毀損罪は、でたらめなことを言って他人を陥れるものと思われている方がおられますが、実は、本当か嘘かは問題にならず、本当のことであっても人の社会的評価を低下させるものであれば、名誉毀損罪は成立します。
 但し、憲法では表現の自由が保障されており、それとの兼ね合いによって一定の場合には違法性がないと判断される場合もあります。つまり、刑法230 条の2 の条文により、事実の摘示が名誉毀損に当たるとしても、①公共の利害に関する事実であり、②その目的が専ら公益を図ることにあった場合で、③真実であることの証明があったときには、罰せられません。
 ただそれでも、上記の不倫に関する書込みについては、本当のことだとして③が満たされるとしても、通常は①と②は満たされないため、やはり名誉毀損罪は成立することになります。

4 SNS 等で誹謗中傷がなされた場合、最初は無視できるレベルだと思っても、どんどんと拡散され、取り返しのつかない事態になることもありますので、なるべく早い段階で、弁護士にも相談しつつ、適切な法的措置を講じることが重要です。

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